岐阜県加茂郡八百津町では、学校給食に牛乳を使った和食を採用しています。
導入の経緯や学校現場での反応を取材しました。
酪農乳業界の取り組みが生んだ「学校給食の定番メニュー」
八百津町学校給食共同調理場では、町立学校(小学校5校、中学校2校)向けの給食として、1日約890食を調理しています。
この地域の学校給食では、30年ほど前から「食べる牛乳」として牛乳を料理に取り入れており、現在は毎月2、3品の「乳和食」を提供しています。取材した2017年10月の献立表には、「切り干し大根のミルク煮」「卯の花の炒り煮」「ミルクみそ汁」の3品がありました。
地域の学校給食を担当する永田桂子栄養教諭は、「切り干し大根や卯の花は、もともと乳和食とは意識せずに始めて、その後定番メニューになったものです」と話します。
背景には、県の酪農乳業界の地道な取り組みがあります。岐阜県では、2017年現在、県内産飲用乳の約20%を学校給食向けが占めています。その重要性に加え飲用以外での牛乳の利用拡大も促したいという思いから、岐阜県酪農農業協同組合連合会では、栄養教諭・学校栄養職員向けの牛乳料理講習会を長年にわたって開催してきました。平成24年以降は、「食べる牛乳セミナー」と題して「乳和食」を取り入れた料理講習会を県内各地域持ち回りで毎年実施しています。
「おいしさ・栄養・調理の手間」が採用のポイント
永田栄養教諭らもこうした講習会で得た情報をもとに、牛乳を使ったメニューを検討したと言います。
「煮物にも牛乳を使うことで、カルシウムをしっかり摂らせたいという思いがありました。自分たちでつくって試食したところ、コクが出ておいしくなり、卯の花もしっとりと仕上がりました。実際にメニューに採用し、子どもたちの反応もよいので定番化してきたという流れです」
メニューを検討する際には、「おいしさ」「栄養(特に不足しがちなカルシウムと鉄分)」に加え、「調理の手間」もポイントになります。
岐阜県内の給食調理場は、1日400食前後から6,000食や9,000食といった施設まで規模が大きく異なるため、効率が重視される大規模施設でも無理なく調理できることが重要。その点、「牛乳で煮る」「乾物を牛乳で戻す」といった調理は手間が少なく、大規模施設でも導入は比較的容易です。
一方で、大きな施設ほど乳アレルギーの子どもの数も多くなります。永田栄養教諭は、「大量調理の場での個別対応は大変。できるだけ多くの子どもに食べてもらいたいと考えて、牛乳で煮ていたものを普通の煮物に変更する地域も出てきています」と話します。
子どもたちの健康のために、地域で支える学校給食
乳和食の採用以外にも、給食メニューではさまざまな工夫をしています。たとえば毎月8のつく日は「歯の日」として、よく噛むもの、歯によいものを取り入れています。
同じく19日は「食育の日」。加茂郡と美濃加茂市では、おすすめ朝ごはんとして、家庭の朝食の“お手本”になるメニューを学校給食で出しています。
「給食を通じて子どもたちが栄養の知識を身につけ、保護者にも食生活への意識を高めてもらいたいと思い、地道に続けている活動です」
子どもに栄養の知識が身につけば、コンビニで食べものを買ったり、ファストフードで食事をしたりする際も、選び方が変わってきます。バランスのよい食事を自分でつくる力を育てることが理想ですが、買い方・選び方を変えるだけでも食生活をよくすることができると話します。
県や町、JAグループの支援のもと、地元産の食材もできるだけ取り入れています。牛乳はもちろん、お米も全て岐阜県産。人気のソフト麺にも県産小麦が50%使われているそうです。
八百津町産の食材が入っているときは、献立表に町のイメージキャラクター「やおっち」が登場。食物繊維の豊富な食材がある日は「せんいマン」、噛む力を育てる食材のある日は「カンちゃん」など、献立表を通じた情報発信も工夫しています。
献立表裏面では、使用している食材と1人当たりのグラム数を記載しています。こちらは主に保護者向けの情報で、子どものアレルギーへの配慮と、家庭で料理をする際のレシピとしても使えるようになっています。1か月の献立表にも、卵や牛乳、大豆などアレルギーに関わる食材は、しっかりと記載し、お知らせしています。
調理現場の負担にも配慮し、できる範囲で続けたい
この日のメニューは、切り干し大根のミルク煮、さばのみそかけ、麦ご飯、もずく汁、みかんの5品。町立八百津小学校の1年生の教室で、子どもたちが給食を味わう姿を見ることができました。
定番メニューだけあって、切り干し大根のミルク煮は子どもたちからも「おいしい」という反応が。永田栄養教諭は一人ひとりに声をかけながら、魚の骨を取るのが苦手な子を手伝ったりしていました。
同校の納土良雄校長は、地域の学校給食の取り組みについて、「永田先生は限られたコストのなかで工夫をして、栄養バランスの取れたおいしい給食を提供してくれています。子どもたちの健康づくりはもちろん、何よりも保護者が助かっていると思います」と評価します。
そうした給食の栄養設計において、牛乳は重要な役割を果たしています。「カルシウムだけでなく、たんぱく質や他の栄養も補えるのが大きい。牛乳ありとなしでの給食の栄養量の差をグラフで見せると、子どもたちからも『牛乳ってすごい』という声が出ます」と永田栄養教諭。
切り干し大根のミルク煮や卯の花の炒り煮は、牛乳の栄養をさらに取り入れたいという思いから生まれた、地域独自の「乳和食」と言えます。このほかにも、高野豆腐を牛乳で戻してから揚げるというオリジナルのメニューもあるそうです。
永田教諭は給食の料理での牛乳利用について、「調理負担に配慮し、子どもたちの反応も確かめながら、今後もできる範囲で続けていきたいです」と話しています。
2018年01月15日