“乳和食”で郷土料理の魅力をアップ-- 北海道乳業協会

北海道乳業協会

北海道では、酪農乳業関連の企業・団体や行政が連携し、地域ぐるみで乳和食の普及に取り組んでいます。
活動の概要と、郷土料理を通じた乳和食定着の試みを取材しました。

酪農乳業界と行政の連携で地域への定着を図る

 国内の生乳生産の53%を占める酪農王国・北海道。地域の人々にとって牛乳乳製品は最も身近な食品のひとつとして食生活の中に位置付けられています。しかし人口流入の多い都市部では状況が異なり、札幌市の家庭の牛乳消費量は、平成26~28年の調査でも全国主要52都市中31位と、牛乳の利用度はそれほど高くないのが現状です。また北海道では、成人男性の野菜摂取量が全国平均より少なく、女性は食塩摂取量が平均より多い傾向があり、高血圧など生活習慣病対策が求められています。
 
 こうした状況を受け、一般社団法人北海道乳業協会では、“おいしい減塩食”という乳和食の価値に着目。全国に先駆けて平成26年度に有田理事長の下「乳和食推進協議会」を立ち上げ、北海道の産物である牛乳を活用した新たな健康食として地域ぐるみで普及活動を開始しています。
 
 協議会は北海道栄養士会、北海道学校栄養士協議会、乳業メーカー4社、北海道牛乳普及協会、北海道乳業協会で構成し、自治体、ホクレン、Jミルクがオブザーバーとして参加しています。
 

認知度アップと活動を支える人材育成に注力

 平成26年度からの第1期事業では、推進する体制整備と乳和食の認知度アップ、地域での普及活動を担う指導者(乳和食推進リーダー)育成を重点に取り組みました。その結果、北海道での乳和食の認知度(Jミルク調べ)は、28年度に35.6%と大きく向上。道内の栄養士らを中心とした推進リーダーは58人となり、さすがに酪農王国としての力強いスタートを切りました。各地域の食生活改善協議会推進員(食改さん)にも乳和食を指導することで、推進リーダーのみではない普及活動の裾野の拡大を図っています。
 
小山さんから調理の工夫についても確認アドバイスが行われた。
小山さんから調理の工夫についても確認アドバイスが行われた。
 乳和食を給食施設のような大量調理で実践できるスチームコンベクションオーブンを利用したレシピ開発がJミルクで進められたこともあり、平成29年度からの第2期事業では、施設の管理栄養士との連携活動を充実させていくため「大量調理レシピの普及」を目的とした活動に重点を置くとともに、コープさっぽろ主催の食育イベントや北海道栄養士会研修大会などで乳和食をPRしたほか、乳和食セミナーを札幌市や旭川市で開催。さらに郷土乳和食レシピ開発、食改さんや小中学校の栄養教諭らを対象にした乳和食料理講習会の実施、さらに、Jミルクが行っている「乳和食指導者育成講習会」に推進リーダーを派遣したり、道内でも推進リーダー育成のための研修会や推進リーダー向けガイダンスも実施しました。
 
 北海道乳業協会では、道内には酪農が主要産業であっても家庭料理や食文化として定着していないところもあり、牛乳の地産地消を目指す地方と連携した取り組みをこれからも強化したいと考えています。育成した推進リーダーを地方に派遣し、講習会による啓発活動の推進、乳和食の大量調理や郷土料理と組み合わせた郷土乳和食レシピの開発や普及活動を強化する考えです。
 

乳和食でジンギスカンをよりおいしくヘルシーに

ジンギスカン乳和食郷土料理が完成
ジンギスカン乳和食郷土料理が完成
 郷土乳和食レシピの開発は、栄養士会との連携で平成27年から取り組んでおり、推進リーダーなどが参加する「郷土乳和食研究会」を毎年開催しています。

 毎回テーマとなる郷土料理を設定し、参加者が独自の視点で牛乳を利用したレシピを開発。その場で調理・試食し、料理家の小山浩子先生と共に調理のポイントを話し合うもので、これまで「石狩鍋」「ちゃんちゃん焼き」を取り上げてきました。
試食会で皆さんおいしさを実感
試食会で皆さんおいしさを実感
 平成30年2月に行われた研究会では、6人の推進リーダーが自ら開発した「ジンギスカン」の乳和食レシピを持ち寄りました。温めた牛乳に酢を加えホエーとカッテージチーズを作るという乳和食の基本レシピを基に、ラム肉を漬け込む際にホエーを使う、たれにホエーや牛乳を加えるといった活用の他、ホエーを取り出した際にできるカッテージチーズでとろみをつけるなど、オリジナルの“乳和食ジンギスカン”を食べ比べた参加者からは、「ホエーに漬け込むことでラム肉がやわらかくなる」「減塩しても味がしっかりしている」「子ども受けも良さそう」といった声が上がっていました。
 

家庭で作りやすいレシピ提案が普及のポイント

小山さんから乳和食レシピ開発のポイントを伝授
小山さんから乳和食レシピ開発のポイントを伝授
 講師の小山先生はそれぞれのレシピを評価しつつ、「乳和食のコンセプトは、牛乳やホエーで味の底支えをして調味料の量を減らすこと。“おいしく減塩”というレシピ開発の原点を再確認してほしい」と、調味料の使い過ぎに注意を促しました。

 ジンギスカンのたれのように複数の調味料とホエーや牛乳を組み合わせる場合は、「種類が多すぎると味の足し算・引き算が複雑になり、落としどころが難しくなる。“テンメンジャン+ホエー”などシンプルな組み合わせからスタートして調整していくと味が決まりやすい」とアドバイス。また、「後からたれを加えて味を変えられるようにする」「分量はわかりやすい数字で揃える」など、家庭での作りやすさに配慮することもレシピ開発のポイントと語りました。

 なお、研究会参加者が作成した郷土乳和食の詳しいレシピは、北海道乳業協会ホームページで公開されています。
 

“北海道ならではの乳和食”を目指して活動継続

北海道栄養士会 兼平副会長
北海道栄養士会 兼平副会長
 推進協議会のメンバーでもある公益社団法人北海道栄養士会の兼平恵子副会長は、「カルシウムを摂りながら減塩もできる乳和食は、北海道民の食生活改善にぴったり。減塩食はおいしくないというイメージがありますが、乳和食は旨味もしっかり感じられるので無理せず減塩ができます」と減塩食としての乳和食を評価しています。
 
 地域の栄養士らを中心とした普及活動により、最近では高齢者の健康づくりに役立つ食として、行政も乳和食への関心を高めているそうです。兼平副会長は、「郷土料理やみそ汁のような身近な料理で減塩できるのが乳和食の良さ。料理を通じて牛乳の価値が理解され、高齢者の牛乳飲用が増えることも期待したい」としています。
 
北海道乳業協会の皆さん
北海道乳業協会の皆さん
 郷土料理を糸口に、関係団体が連携し地域へ乳和食の定着を図る取り組みは、着実に成果を上げつつあります。北海道乳業協会の茂木悦雄常務理事は、「今後も各団体・企業、行政のつながりを深めながら活動を継続していきたい。特に、おいしさを実感してもらう試食機会を増やすことを検討しています」と話します。

 さらに、地域の食材を生かした乳和食が酪農家の家庭料理として定着し、子どもたちが次世代に受け継いでいく環境をつくることもひとつの目標とし、「牛乳のつくり手が、牛乳食文化の担い手にもなることが、酪農の盛んな北海道ならではの乳和食のあり方だと思います」と今後のさらなる普及・定着を見据えています。
 
2018年04月12日