白石商工会議所
宮城県白石市では、白石商工会議所が中心となって乳和食の普及を進め、地域振興につなげようとしています。
取り組みの経緯と地元飲食店での反応を取材しました。
これからの時代に対応する新しい“白石三白”を
伊達政宗の重臣・片倉小十郎ゆかりの地として知られる宮城県白石市。地域特産の「温麺(うーめん)」「和紙」「葛」は、その品質の高さから“白石三白”と呼ばれ、江戸期から全国的にも高い人気を誇ってきました。
時代の変化に伴って和紙や葛の生産が減少するなか、“白”にまつわる新たな特産品をつくろうと、白石商工会議所の呼びかけで白石三白プロジェクト委員会が平成27年に発足し、検討を始めました。
白石商工会議所の齋藤昭会頭(白石三白プロジェクト委員会委員長)は、「白石らしいブランドを構築して新たな需要を喚起することがプロジェクトのねらい。物品だけでな く、オリジナリティのある飲食メニューをつくりたいという思いがありました」と話します。
白石市に拠点を置く山田乳業株式会社の山田光彦常務も、プロジェクトの委員として議論に参加してきました。同社は、白石市と蔵王町で生産される生乳を使った「山田牛乳」や「フロム蔵王」ブランドの牛乳乳製品の他、学校給食向けの牛乳も供給し、地域の人々に親しまれています。
観光客にも提供できる“おいしい減塩料理”を目指して
“白”=牛乳という視点で、牛乳を使った特産品を模索していた山田常務らは、牛乳利用の新しい切り口として乳和食に着目。料理家の小山浩子先生を招いた勉強会を開き、特産のうーめんに合うミルクつけつゆの試食などを行いました。
「つけつゆに牛乳と聞くと意外ですが、実際に食べてみるとすごくおいしい。歴史のまちである白石には和食が合いますから、乳和食は新たな特産品として有望だと思いました」と山田常務。
齋藤会頭も勉強会に参加し、「これはいけると直感した」と言います。特に注目したのが、乳和食の減塩効果でした。
豊かな自然や温泉、史跡に恵まれた白石市には、年間70万人ほどの観光客が訪れますが、地域独自の飲食メニューの少なさが観光開発上の課題とされてきました。
「観光客のなかには健康に敏感な中高年層も多い。減塩効果のある乳和食なら、そうした人たちにもおいしく食べてもらえます。また、近年はアジア圏からの観光客も増えていることから、インバウンド需要もねらえると考えました」と話す齋藤会頭。
さらに、地域特産のうーめんと相性が良いこともポイントになりました。冷麦に似たうーめんは油を使わないヘルシーな麺ですが、近年は消費量の伸び悩みや原料の小麦粉の価格上昇で採算性が悪化傾向にあります。齋藤会頭は、「商工会議所としても、うーめんの販売促進に貢献できることをやりたかった。乳和食はそのきっかけになると考えました」と話します。
特産のうーめんとのコラボを中心に、飲食店にも普及
地域での乳和食の普及を図るため、商工会議所では平成28年1月、会員大会の講演者として小山先生を招き、企業関係者や市議などに乳和食を味わってもらいました。9月には会員の飲食店を対象にした料理教室を開催し、乳和食の具体的な調理方法を伝え、各店でのレシピ開発を促しました。
地道な取り組みの結果、現在では市内4店舗が乳和食メニューを提供しています。商工会議所では、毎年実施している飲食店まつりで乳和食をPRしている他、白石市の飲食店情報を発信するサイト「びみたん」でも、“白石減塩乳和食”として各店のメニューを紹介するなど情報発信に努めています。
市内で乳和食を提供している店舗のひとつが、明治7年創業の老舗「割烹 大上」です。看板メニューでもある、くるみ、ごま、しょうゆの三色たれのうーめんをアレンジし、しょうゆの代わりにミルクくるみ味噌のつけつゆを加えました。
店主の今井大助さんは、だしの代わりにホエー、豆腐の代わりにカッテージチーズを使ったけんちん汁など、独自の乳和食の開発を続けています。
今後の取り組みについて今井さんは、「牛乳は味噌とよく合うので、グラタンやクリームコロッケに味噌を入れることで和テイストにすることができます。洋食を和に引き寄せるという発想も取り入れて、レパートリーを増やしていければ」と語ります。
地域に親しまれるお店が提案する“無理のない減塩”
フードバー「ドリームズ ハート」の小笠原礼子さんは、白石三白プロジェクト委員会を通じて乳和食に興味を持ち、オリジナルの白カレーうーめんを考案しました。その後、乳和食の勉強会にも参加して、減塩効果に着目したと言います。
「楽しくお酒を飲んでいただくためには、お客様の健康がなによりも大切。中高年の男性にとって身近なお店だからこそ、減塩に取り組む意味があると思いました」
勉強会で学んだレシピも参考にしながら、うーめんごま豆腐やひじき煮、ナメタガレイの煮つけやカキの炊き込みご飯など、季節の食材を取り入れた乳和食コース料理を開発しました。
「牛乳に浸すと魚介類の臭みが取れますし、ひじきや切り干し大根、おからも牛乳で煮るとおいしい。味噌や塩コショウの量もある程度減らせているので、減塩効果はあるはず」と小笠原さん。「東北の人は塩辛い味付けを好むので、一気に減塩を目指しても続かないと思います。乳和食も取り入れて、少しだけしょうゆを減らしてみるなど、無理のない範囲で定着させていくことが大切だと思います」と話します。
乳和食による地域振興と健康づくりを県も支援
宮城県は、メタボ該当者と予備軍の割合が全国平均より高く、成人男性の食塩摂取量は全国1位となっています(平成28年国民健康・栄養調査)。こうした状況の改善を目指し、県では官民組織「スマートみやぎ健民会議」(会長・村井嘉浩知事)を立ち上げ、従業員や職員、地域住民らの健康づくりに取り組む企業や団体を支援しています。
白石商工会議所の「白石減塩乳和食」活動は、地元の牛乳と特産のうーめんを活用し、商工会議所の組織特性も活かして「地域振興」と「健康づくり」を推進する優れた事例として、昨年2月に地域団体部門優良賞を授与されました。
「会議の席で村井知事が乳和食に言及し、家庭でも試してみたと話していました。地域の取り組みを県が後押ししてくれることは、私たちにとって大きな励みになります」と齋藤会頭。「今後も会員企業や飲食店を中心に、地域への普及を図っていきたい」と話しています。
2018年04月10日