Jミルクリポート ピックアップコンテンツ

J-MILK REPORT Vol.45 より

J-MILK REPORT Vol.45 座談会(学校・家庭・地域で支える子どもの食と栄養)


座談会 学校・家庭・地域で支える子どもの食と栄養
ー「給食がない日」の子どもの栄養問題解決へ ー



 学校給食の「ある」「なし」が、子どもの栄養摂取状況に影響することが各種調査で明らかになっています。特に「給食のない日」に不足しがちな栄養素はカルシウムで、家庭で牛乳が十分に摂取されていないことが原因といわれています。そこで、さまざまな立場で子どもの食生活と栄養に関わる方々にご参加いただき、「学校・家庭・地域が子どもの栄養問題解決に向けてできること」についてディスカッションを行いました。

  • 学校給食の重要性と給食がない休みの日の子どもの食と栄養問題についての座談会を、リモート形式で実施。オンラインながら熱のこもった意見交換が行われた。

あらためて見直したい学校給食と牛乳の役割 

  • 子どもたちの栄養摂取や食生活上の課題について、それぞれの立場からご意見ください。

 児玉浩子 氏(以下、児玉) コロナ禍の休校や長期休暇の子どもの栄養調査で、カルシウム、鉄、ビタミン類、食物繊維などの不足が報告されています。特にカルシウム不足が顕著で、給食のない日に家庭で牛乳を飲んでいないことが大きな要因と考えられます。(図1)
 牛乳200㎖(コップ1杯)でカルシウムを200㎎以上摂取できます。他の食べ物に比べてカルシウムの吸収率が高く、さらにアミノ酸のバランスも非常に良く、たんぱく質の摂取にも有効です。
 カルシウムは子どもに限らず全年代で不足気味ですから、今こそ「家庭の冷蔵庫に牛乳を常備して、家族全員で牛乳を飲みましょう」と呼びかけたいです。
  • 図1
 長島美保子 氏(以下、長島) 子どもの食と栄養における学校給食の役割はますます大きくなっています。健康増進と体位向上を目指して栄養バランスの取れた食事を提供するとともに、バランスよく食べることの大切さ、牛乳の大切さを教える食育教材としての役割もあります。
 バランスの取れた学校給食は、家庭での食生活の見本となることを目指しています。給食を教材として子どもが学校で学んだことを、保護者とともに家庭で実践してもらうことが私たちの目標です。

 相川 敬 氏(以下、相川) 今回の座談会の前に、「牛乳」について聞いてみたところ、若い人より年配の人のほうが牛乳の必要性を理解していました。若い世代に牛乳の意識があまりないことが、成長するにつれ牛乳を飲まなくなる理由にあると思います。
 運営している学童クラブの子どもたちに聞くと、「白い色が嫌いで食を誘わない」という声がありました。大人の目線で「栄養価が高いよ。非常にいいものだよ」という飲ませ方だけでなく、子どもたち目線になって好んで飲む方法を工夫することが必要だと思います。

 薬師寺 亨 氏(以下、薬師寺) 農林水産省の調査によると、家族と夕食を食べている頻度が週2〜3回以下の人は計22%(家族と同居している人が対象)となっています。子どもの孤食や家庭内での孤立、ヤングケアラーの増加も社会問題になっています。
 そうした子どもたちに、学校と家庭に次ぐ第三の居場所を提供するのが、こども食堂の役割です。「こども食堂は貧困問題を抱える家庭の子がご飯を食べにいくところ」というイメージを持つ人もいますが、全く違います。誰でも参加できる、大人もお年寄りも含めた多世代交流が主な目的です。
 みんなで一緒にご飯を食べることを通じて、子どもたちと地域の人が交流する、安全な地域づくりの場でもあります。また、子どもたちへの食育、生活習慣を身につけることも大切なテーマとして取り組んでいます。

食べ物の成り立ちや価値 体験的に学べる場が必要

 加茂太郎 氏(以下、加茂) 私は小校教員を退職後に酪農家になり、酪農教育ファーム活動などを通じた食育の支援も行っています。
 今の子どもたちの食について思うのは、例えば給食の牛乳が、実際の意識として「牛」につながっていないのです。魚も海で泳いでいる生き物という知識はありますが、子どもの頭にあるのはスーパーで並んでいる切り身という感じがしています。そんな子どもたちに、どういう成り立ちで食べ物が生まれているのかを伝えて、本質的な価値を知ってもらいたいと考え、食育活動を続けています。
 学校での出前授業や、牧場で食料生産の現場や牛の大きさを体験すると、牛乳は自然からの恵みであることを実感できるようになります。学習後は、牛乳に限らず他のものを含めて給食の食べ残しがかなり減るそうです。
  • 加茂さんは、小学校の子どもたちに酪農体験や出前授業を行い、酪農を身近に感じてもらう活動を続けている。
 大村貴志 氏(以下、大村) 「牛乳の白色が苦手」という子どもの声がありましたが、弊社では数年前からトラックに「牛乳って、なんで白いの?」と問いかける絵を描いています。それを見た子どもたちが気になって答えを探してもらうきっかけづくりです。
 また、学乳の紙パックを月に1回程度変えて、食育や牛乳に関する話題をクイズで紹介しています。答えはパックのどこかにあるので、探しながら子どもたちに給食を楽しんでもらっています。先生方からも好評で、「子どもたちがじっくり読んでいるよ」と言っていただいています。
  • 森乳業では、学乳「わたぼく」のパッケージを活用して、月替わりで食育や牛乳に関する情報をマンガを使ったクイズ形式で紹介。子どもたちからは牛乳が楽しく飲めて勉強になると喜ばれている。

牛乳を飲む場や楽しみ方 子ども目線で考える

  •  給食のない日の子どもの栄養課題の改善に牛乳は貢献できます。休日や長期休みなど、学校外で牛乳を飲む機会をどう増やせばいいでしょうか。
 相川 子どもたちは休日もずっと家にいるわけではなく、学童保育や習い事、部活動など外出も多いので、出先で牛乳を提供できればコンスタントに飲んでもらえると思います。
 真冬でも冷たいものが好きなど、好みに合わせた飲み方の提案も必要でしょう。子どもが楽しく自由に飲める雰囲気や、飲む機会を用意してあげればいいと思います。

 大村 夏休みに学童で牛乳を飲んでもらうのは良いアイデアですね。学校と自治体で供給のしくみを取りまとめていただければ、メーカー側も対応可能だと思います。
 運動や部活動の場合は、通常のチルド牛乳は要冷蔵で衛生的に持ち運びが難しいので、どこでも安心して飲めるロングライフ牛乳が適しています。

 薬師寺 子ども食堂にも冷蔵設備のないところがあります。森乳業から提供いただいているロングライフ牛乳は、いつでも配れる、いつ飲んでもいいということで、すごく使い勝手が良いと評判です。

 児玉 「牛乳の白いのが嫌い」「味がおいしくない」という子どもは少なくないので、飲みやすさを考えてあげることは大事です。
 ヨーグルトにフレーバーがついているように、牛乳にも色をつけたり、シロップで味を変えたりする工夫で、牛乳嫌いが減るのではと思います。
 以前のアンケートで、小学校の食育でいろいろなことを学んでも、中学、高校になると忘れてしまうという結果がありました。牛乳の大切さや栄養価の高さを忘れないように、中学から高校、大学と食育を継続していくことも重要です。

 長島 高校の給食実施率は非常に低いので、多くの高校生にとっては毎日が「給食のない日」なのです。大学に進むと、バランスの良い食事からさらに遠のくという実態もあります。
 継続的な食育で牛乳の価値を伝えながら、高校・大学の学食や売店を活用して、学内でいつでも牛乳を入手できる環境を実現する必要があります。
  • むすびえとJA全農酪農部と山岸牧場(北海道士幌町)が連携し、生産者と子ども食堂をつなぐオンライン牧場体験ツアーを開催。
  • 事前に送った牧草や堆肥で牧場の“匂い”を体験しながら視聴。

厳しさと向き合いながら生乳は生み出される

  • 子どもの栄養と牛乳の関わりを議論してきましたが、生産現場は別の課題に直面しています。
 加茂 はい、酪農は今極めて厳しい風にさらされています。日本の酪農家の多くが輸入飼料を使っていますが、ロシアのウクライナ侵攻や円安加速で、コロナ前比で6割も値上がりして経営を圧迫しています。離農も進んでいて、私の周りでも何軒も廃業していますし、正直うちもギリギリの状態です。
 減産して牛を淘汰すると、生産の再開には種付けから始めて3年〜5年もかかるので、廃業した酪農家の再開はまず不可能と言われています。それでも我々はコスト削減のため、トウモロコシの代わりに、おからやビールかすなどを発酵させたものや野菜のくずなど、牛が食べなければ廃棄せざるを得ないものを餌として利用しています。酪農家はみんなこのような工夫もしています。とにかく良い時がくるのを信じて頑張るしかありません。

学校・家庭・地域で牛乳消費を増やすために

  • 酪農乳業が学校や家庭、地域と連携し、酪農や牛乳・乳製品の価値を伝え、積極的な摂取につなげるための提言を。
 相川 子どもは香りや酸味の強いものが苦手だったのが、ある年齢を過ぎると飲めるようになったりします。そうした味覚の変化に合わせて、味に変化をつけてはどうでしょう。小さい子は量が飲めないので、飲みやすい量を提供してあげるのも有効ではないかと思いました。

 薬師寺 こども食堂の運営者の方への情報発信が大事だと思います。メニューの中に牛乳を入れるかは、頭の中にあるかないかでだいぶ違います。 例えば、お話に出ている牛乳パックのクイズを、インスタなどで発信して関心を持ってもらうのはどうでしょうか。それから、牛乳と合わせて朝食になる食材とのコラボレシピを提案するのも、運営者の方に気づきを提供することができるので牛乳の認知が高まると思います。

 長島 給食現場でも、例えばひじきや切り干し大根を牛乳に浸してから一緒に煮込むなど、調理への牛乳活用を日々工夫しています。こうした調理用牛乳としての活用アイデアを家庭に発信することも大事な取り組みです。
 もう一つは、生産現場と連携した食育の充実です。お話にあったように、食べ物を調理された形でしか認識できない環境にいると、食への感謝の心は育ちません。牛乳は牛の乳、命に直結したものだということを実体験を通して学ぶことが重要です。子どもが学ぶ姿を見てもらうことは、酪農家のみなさんを応援することにもつながると思います。

 児玉 牛乳パックを利用した情報発信は素晴らしいので、学校だけでなく店頭販売用でも広めていただきたいですね。
 給食での牛乳の飲み残しは、小学校高学年から中学生に多いです。その年代に響くような食育を行うことが、高校以降の食生活にもつながっていくのではないかと考えます。

座談会参加者プロフィール

ダウンロードはこちら