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J-MILK REPORT Vol.45より

J-MILK REPORT Vol.45 地域連携のポジティブ発信(北海道広尾町)


地域連携のポジティブ発信
  ~楽しくつながる、北海道広尾町~
 ーSNSの活用で酪農乳業と牛乳・乳製品の価値向上へ ー

北海道広尾町では、農協を中心に酪農家と乳業メーカー、役場が連携して、消費拡大運動の動画をSNSで公開したり、女性酪農家たちが酪農と牛乳の魅力を伝えるイベントを開催するなど、ポジティブ発信を活発に行っています。今回、関係者による座談会を開催。厳しい状況と向き合いながらも、酪農と牛乳・乳製品の魅力を大切にするみなさんの言葉から、酪農乳業が直面する課題を乗り越えるヒントを探ります。

  • 【前列左から】
    角倉 円佳 氏 (株式会社マドリン 代表取締役)
    菊地 亜希 氏 (菊地ファーム)
    【後列左から】
    芳賀 基浩 氏 (広尾町農業協同組合 営農事業部 農業振興課 課長)
    田村 朋之 氏 (広尾町農業協同組合 営農事業部 農業振興課 主任)
    松山 孝三 氏 (広尾町農業協同組合 営農事業部 部長)
    斉藤 祐輔 氏 (広尾町農林課農政林務係 主事)
    三田寺 真助 氏 (雪印メグミルク㈱ 酪農部 北海道酪農事務所 課長〔十勝エリア〕)
    小澤 達也 氏 (広尾町農林課農政林務係 係長)

時代の課題、地域の課題に酪農はどう応えていくか

  • 今、みなさんが仕事で感じている厳しさと、その中で工夫していることをお聞かせください。

 三田寺真助 氏(以下、三田寺) 厳しさを感じるのは、生乳の需給緩和による乳製品在庫の積み増しです。業界でいろいろな対策をしていますが、大樹工場としても何ができるかを考えながら日々取り組んでいます。単独の活動ではなく広尾のみなさんと一緒になって消費拡大を図る活動が一助になればと思います。

 小澤達也 氏(以下、小澤) 行政としての課題は、コロナの影響、生乳廃棄の危機、飼料や燃料費の高騰などをどう支援し、政策をどう組み立てるかを、マニュアルのない中で判断しなければならないことです。
 工夫点は、関係機関と連携して農協や雪印メグミルクと一緒にキャンペーンを行ったり、広尾町の公式YouTubeに動画を投稿したりしています。地元高校生が牛乳料理のレシピを考えて授業で作った動画もあるので、ぜひ見ていただきたいです。
  • 北海道広尾高等学校の生徒たちが、牛乳を使ったオリジナルレシピを開発し、実際に授業で調理。
  • 広尾町の女性職員と村瀬町長が牛の衣装で登場し、牛乳消費を呼びかけたPR動画。
 松山孝三 氏(以下、松山) 役場でのSNSに対する理解はどうですか?

 小澤 ここ1~2年でSNSの重要性が認識されて、動画などをどんどんアップするようになっています。

 三田寺 弊社も、若い社員はテレビよりSNSですね。

 菊地亜希 氏(以下、菊地) 私は、酪農という仕事を地元の方にもっと知ってもらうために、小学生の課外授業や「ピロロフェス」というイベントを行っています。きっかけは、役場主催の人材育成塾で出会った広尾町の異業種の方たちが、酪農の仕事内容をほとんど知らなかったことです。酪農家が身近にいる環境だからこそ、地元のみなさんに酪農をもっと知ってほしいという思いから情報発信を続けています。
 私は千葉から新規就農しましたが、その際にも地域の連携で酪農を支えようという意欲を感じました。
 新規就農は、役場と農協どちらの支援も必要で、そこが広尾はすごく手厚くて本当にありがたかったですね。JAひろおは新規就農者の受け入れ実績があって、他の農協だと辞めてしまう方もいる中で、誰一人脱落しない広尾はすごいなという話はよく聞きます。
  • 牧場を会場にした、食・音楽・雑貨販売の体験型イベント「ピロロフェス」は、今年10年目を迎えた。
  • 地元の子どもたちに酪農を知ってもらう活動として、牛と触れ合う酪農体験学習を実施。
 松山 広尾町でも離農と高齢化が進んでいて集落の限界点という課題があります。その解決策としても新規就農者の受け入れは重要なので、さまざまな形でサポートしています。

 芳賀基浩 氏(以下、芳賀) 今後集落の維持にどう対応していくかという施策の一つとして、学生との接点づくりにも力を入れています。

 松山 人と人のつながりを大事にして、夢を追いかける人を支援することもJAひろおの使命です。菊地さんがカフェを開かれる際、立地条件や数字だけで判断せず、本人がやりたい夢ならきっとがんばってくれるはずと支援を決めさせていただきました。

 角倉円佳 氏(以下、角倉) 私は、「SAKURA会」という北海道内の農業に関わる仕事をしている女性たちの会を開いています。この会で多くの農業女性たちとつながれたことで「酪農女性サミット」という企画も生まれました。
 この活動の中で感じたのは、酪農は酪農家だけで成り立っているのではなく、JAひろお、ホクレン、乳業メーカーをはじめ、消費者へつなげるまで多くの方々が関わっているから、私たちは安定して生産できるということでした。
 今、コロナ禍やコストの高騰など厳しいことはいっぱいあります。「酪農家がかわいそうだから牛乳を飲んであげる」と言われたこともありますが、それは違うと思うんです。そうではなくて、健康意識が高まっている今だからこそ牛乳の素晴らしさをあらためて知ってもらい、積極的に飲んでもらうチャンスにしたいと感じています。
 私の牧場では、畜産系や農業関係の学生たちの研修を受け入れています。かれらは今の情勢に流されず、酪農がやりたい、酪農家を目指したいというぶれない気持ちを持っています。今後の担い手となる若い学生たちの想いを大事にしたいなと思います。
  • 就農希望の学生を積極的に研修で受け入れ、牧場経営の夢を後押ししている。
  • ラジオ番組「とかちウーマンフロンティア(FM JAGA)」のDJも担当。酪農の魅力を明るく楽しく発信中。

これまでと違う部分で酪農家の力になるために

  • JAひろおは、昨年からSNSを積極的に活用されていますが、その狙いは?

 松山 SNSは、多くの人に広く発信するのに重要なツールです。最近の情勢を踏まえて農協から酪農家へお願いすることが多い中、JAひろおがこれまでと違う部分で酪農家の力になれることは何かと考えました。その一つが、SNSを使った情報発信です。Jミルクの「#1日1L」企画を活用し、業界関係者自らが牛乳を消費する姿を見える化する動画投稿も始めました。
 私たちのSNSを見て「何をやっているんだ」というご意見もありますが、牛乳のおいしさと大切さを楽しくポジティブに発信することを、酪農家、乳業メーカー、役場など、いろんな人たちと連携してやっていきたいと思っています。

 角倉 私もSNSの連携を大切にしています。牛乳はおいしいね、酪農は面白そうだねと言ってくれる方が増えると励みになるので、広尾町みんなで楽しいことを発信できればいいですよね。

企画を面白がることが、広がりとつながりを生む

  • 昨年の年末年始「#1日1L」、6月の牛乳月間「#ミルクのバトンリレー2022」に参加した理由と、取り組んでみた感想を。。

 三田寺 JAひろお独自の「#1日1L」に参加したきっかけは、訪問時に芳賀課長から「せっかく来たからやっていって」と呼び止められて、部下と2人で各1リットル飲みました。
 大樹工場に帰って、工場長に「農協の『#1日1L』に参加してきました」と話したら、「うちでも何かやるか」となり、誰がどれだけ飲んだかを競うレースをやることになりました。
 さらに当社酪農部では、北海道、東日本、西日本などの各事務所対抗で、来客時にお出しした牛乳と、自分達が飲んだ牛乳の合計本数を競うレースをしました!優勝した事務所に酪農担当役員がポケットマネーで賞品を出してくれました!みんなで牛乳を飲んでいる姿をポスターにして事務所に貼ったりして盛り上がりましたね。SNSのつながりもそうですが、人と人がつながるのは楽しいなと思いました。
  • 3年ぶりとなる十勝港まつり・ふるさと夏まつりの仮装盆踊り大会で、JAひろお職員有志が雪印メグミルクのパッケージで参加し優勝。雪印メグミルクよりお礼を届けた。
  • 雪印メグミルク 酪農部で昨年の年末年始に実施した、役職員自らで行う牛乳消費拡大ポスター。小板橋 正人常務、戸邉 誠司常務、大平 昭彦酪農部長がポスターに登場。
 小澤 「#1日1L」は、役場の職員や地域おこし協力隊のメンバーに参加してもらいました。継続した動画にいろんな人が登場してくるので、次はこの人か、あの人は出ないかなと思っていたら、あ、出た!みたいな感じで楽しく見られました。自分の見たいときに見られるのはSNSの発信ツールとしての利点ですね。

 斉藤祐輔 氏 私は、ウシの着ぐるみを着て飲ませていただきました(笑)。おいしくて、すごく楽しかったです。JAひろおのSNS、ぜひご覧ください。

 菊地 6月1日の「牛乳の日」では、消費者のみなさんへ感謝を伝えようとスタッフを含めみんなで写真を撮って、「いつも牛乳を飲んでくれてありがとう」の気持ちを発信しました。

 角倉 農協が最初に動画を始めた時、私もやる!とすぐに手を挙げました。実は酪農家もみんな参加したい気持ちはあって、声かけを待っている人は結構います。だからこういう機会があればやる人は増えるでしょうから、JAひろおには積極的なきっかけづくりを期待しています。誰でも参加できる企画と場所があることで、関係者の一体感も生まれます。
 「#ミルクのバトンリレー」は、6月の牛乳月間に限らず続けてほしいですね。参加者は記憶に残る楽しい思い出になるし、今後の牛乳消費にもつながります。きっかけは「面白いな」でいいじゃないですか。牛乳を楽しく飲んでもらえることが大事なので。

 芳賀 学生との接点づくりの関係で地元の大学生と連絡をとる機会が増えたので、私もSNSを始めました。
 「#1日1L」を本当に飲むインパクトを与えたいと思い、田村と動画を撮っていたら、松山が「編集する、さらに俺も飲むぞ」と言ってくれて。そしたら勢いですね、どんどん周りに広がっていったのがJAひろお独自の「#1日1Lチャレンジ」です。

 松山 企画は〝ノリ〟が大事ですから。

 芳賀 今年の「#ミルクのバトンリレー」は、6月をすべて「#1日1L」動画で埋めようと思い、毎日バトンみたいにつなげて投稿していきました。そのバトンを帯広畜産大学の学生も受け取ってくれて、40人近く飲んでくれました。今後も続けたいですね。
 農協は新しいことに慎重な面もありますが、松山のチームは、課の若い職員たちも集まって、否定するより進める力が強いのでみんなで楽しみながら取り組めました。
  • 「#1日1Lチャレンジ」と題して、生産者、農協職員らが1リットルの牛乳を飲み干す連作動画をSNSで配信。
  • 昨年末には、関係者約40名が集合した牛乳消費拡大プロモーション動画を作成。

困難な時期にこそ連携の強さが試される

  • 「今こそ連携」というキーワードで、全国の酪農乳業関係者へメッセージをお願いします。

 三田寺 私が北海道庁の畜産振興課に出向していた時、行政も生産者も農協も全部同じ土俵で議論して同じ方向に向かう酪農業界の密接さを見て、ある職員が「他の農産物ではあり得ない」と驚いていたのが記憶に残っています。だから「今こそ連携を」というより、「今こそさらに連携を」だと思います。
 私たちは、何かあればすぐに集まって議論し、話し合い、協力できる。この酪農、乳業の密接な連携があれば、情勢は厳しくとも必ず乗り越えられると信じていますし、乗り越えたその先を一緒に考えていきたいです。

 小澤 自治体職員として、日頃からおいしい牛乳・乳製品を供給してくださっている方々に感謝したいと思います。昨年、消費拡大キャンペーンを実施した時、参加者から牛乳はいいね、おいしいね、がんばってなど、あたたかい言葉をたくさんいただきました。その言葉を施策という形に変えて生産者の方々にお届けしたいと思っています。厳しい情勢が続きますが、今こそ連携して乗り切って、さらにより良い業界になると信じています。

 菊地 厳しい情勢の中、今後の酪農乳業界について消費者を含めて考え、連携する必要があると思っています。
 その議論をする上で重要なのは、生乳やミルクサプライチェーンの特性を業界関係者はもちろん、消費者にも知ってもらうことです。今の酪農の状況をみんながきちんと理解することから連携は始まると思います。

 角倉 ここ数年、農林水産省「食料・農業・農村政策審議会」の委員として、年間の乳量を決める場に参加し、数字をクリアするために酪農家の規模拡大やロボット化を進めることがすべてなのだろうかと、現場の目線でずっと考えてきました。
 結局、牛乳をもっと飲んでもらうことが大事で、快く飲んでもらうためには、牛乳の素晴らしさを伝えることが大切だと思って、消費者へ酪農の魅力を発信するイベントを開いています。
 最初は、牛の苦しさを伝えるような劇を考えましたが、やはり牛乳は栄養満点でコスパが良く、体にもいい、そんな飲み物はなかなかないことを素直に伝えればいいと気づきました。
 同じメッセージを一つの組織で伝えるより、みんなの力を合わせた方が広がります。私たち酪農家もうまく使ってもらって、誰かが誰かをつなぐ、まさに連携した発信をしていきましょう。
 田村朋之 氏 市場に牛乳が出回るまで、こんなにいろいろな機関が携わっていることを一人でも多くの方に知ってもらえるよう知恵を絞っていきたいと思います。

 芳賀 何もないところから連携は始まらないので、きっかけをつくることが大切です。農協からもSNSなどで積極的に発信していきたいと思います。

 松山 連携という意味でミルクサプライチェーンはどこが欠けても駄目だと思います。大きい歯車も小さい歯車もあって、全部がうまく絡み合ってチェーンがつながり回っていくもの。厳しい情勢にもネガティブになることなく、それぞれの立場で精いっぱいやって、楽しく一緒に、前向きな力を発信していければと思っています。

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