乳の健康効果を「実感」してもらうために

j-milkリポートvol-34より

株式会社明治 明治イノベーションセンター 研究本部 乳酸菌研究所 参与 山地 健人 氏

乳の学術連合・牛乳乳製品健康科学会議では昨年度、乳業研究者の方々のご意見を活動に反映する新たな組織として、「乳業学術委員会」を設置しました。委員として活動する山地健人氏に、これからの乳の価値向上のあり方と、委員会への期待をお聞きしました。

効果を体感することが、牛乳乳製品の摂取習慣につながる

—ご専門の研究分野と、研究活動で大切にされている心情やモットーをお聞かせください。

山地氏:食品や食品素材の機能性を評価・研究しています。乳由来の成分や、チーズやヨーグルトなど乳製品の健康効果を以前から扱ってきました。最近では、美肌効果のあるヨーグルトや、高カカオのチョコレートに関する研究などを行っています。

研究で大切にしていることは、例えば食品の機能性に関する試験であれば、計画をしっかり立てて、自分たちの仮説が証明されるかどうかを明確にした上で取り組むこと。さらに人を対象とする試験では、機能や効果をご自身の体で実感してもらうことや、納得してもらえるデータを示すことが重要だと思っています。

ミルクプロテインを強化した乳飲料を研究した際、愛知県豊田市実栗町の高齢者の方に、ロコモティブシンドロームなどの予防研究の一環として半年間飲んでいただいたことがあります。半年後に訪れると、腰の痛みで坂の上り下りに苦労されていた方が、「元気に歩けるようになりました」と声をかけてくれたり、試験後も飲み続けたいから販売店を教えてほしいと言われたりしました。効果を実感して続けたいと思ってもらえたことは、研究者としても大変うれしかったですね。
  • 乳業学術委員会 委員 山地健人氏

新たな研究成果でさらに注目される、乳の認知症予防効果

—ご専門の研究分野から見た乳の価値や可能性、今後の課題についてはどうお考えですか。

山地氏:今年の日本老年医学会で桜美林大学及び東京都健康長寿医療センターとの共同研究の成果を発表したのですが、女性高齢者を対象にした試験で、カマンベールチーズが認知症予防に寄与する可能性のあることがわかりました。カマンベールチーズを一定期間摂取した対象者は、血中のBDNFという脳由来の神経栄養因子が上がるという結果が出ました。牛乳乳製品の認知症予防効果については、これまでも久山町研究などで示されていますが、より具体的な乳製品を対象にした新たな効果として、今後証明していければと考えています。

超高齢社会において健康寿命をのばすという点で、牛乳乳製品は素晴らしい可能性を持っています。とりわけ認知症予防の効果はこれから明らかにしていく価値があり、社会的にも期待されている分野でしょう。

一方で乳は食品ですから、健康効果はあっても医薬品ほどの“キレ”はないのです。研究する側から見ると、有意差を出しにくかったり、効果が出るまでに時間がかかったりする可能性があるということです。この違いを踏まえた上で、いかに適切な試験デザインを組んで評価できるかという点が、乳を含めた食品研究の課題だと思います。

学術的な知見を、わかりやすく伝えられる研究活動が必要

—「乳業学術委員会」の活動に対する期待をお聞かせください。

山地氏:健康機能のメカニズムや有効成分に関する研究も重要ですが、一般の消費者の方に体感的に理解していただける研究や、わかりやすいデータを示せるような研究を充実させる必要があると思います。公募研究にもこうした視点を求めたいですし、乳業学術委員会としても新たな提案ができればいいと考えています。ある食品に関する研究で、継続的に摂っていただいている方の肌年齢を専用装置で計測しています。高齢者施設が対象ですが、皆さんもイベントに参加するような感覚で、多くの人が集まって興味を持ってくれます。牛乳乳製品の良さを体感・実感できる場として、こうした機会をつくってみるのも面白いかもしれませんね。

—先生方の思いに応えるため、Jミルクも引き続き、最新の研究成果をわかりやすく伝える情報発信に取り組んでいきたいと考えています。本日はありがとうございました。