ミルクバリューチェーン 特集3
筑波乳業株式会社(茨城県石岡市)
生産基盤を全力で支える 東日本の需給調整の要

j-milkリポートvol-37より

ミルクバリューチェーン 特集3

 業務用練乳や粉末乳製品の製造と並んで、東日本の余乳処理の一大拠点という役割も果たしている筑波乳業株式会社。需給の急変動に対応するための備えや、厳格な感染防止策も含めた新型コロナ対応の現状を、梅澤弘社長にお聞きしました。(聞き手=内橋政敏・Jミルク常務理事)
  • 筑波乳業株式会社 代表取締役社長
    梅澤 弘(うめざわひろし)氏

常にフル稼働できる体制で余乳処理に臨む

——御社の概要と余乳処理能力についてご紹介ください。

 現在の事業の主な柱は、余乳の委託処理、業務用乳製品の加工販売、ナッツ類の加工販売の3本です。
 余乳処理に関しては、1982年に全農さんとの共同事業で乳製品製造ラインを設置したことが一つの転機になっています。当時は、都府県の生産が一定量あり、全農さんも24時間体制で余乳を受け入れる工場が必要だったと思います。その後、他社が撤退して集約が進み、弊社が東日本の広域的な余乳処理・需給調整を担うようになりました。現在の処理能力は1日最大430トン、貯乳能力は最大1,000トン弱を備えており、東日本で最大規模です。

——生乳需給の変動への対応は難しいのではないですか。

 「一滴たりとも廃棄乳を出さない」が生乳の受託販売を担う指定団体の考え方です。それに応えるため、フル稼働時に対応できる人員と設備を常時確保しなければならないのが経営上の難しさです。
 余乳処理は玉里工場で行っていますが、ピーク時には他製品のラインから人を回して対応しますし、飲用需要期は、稼働を停止します。こうした柔軟な対応こそが、生乳の需給調整に貢献する弊社の役割だと考えています。

—社員の雇用、育成、採用についてどのように考えていらっしゃいますか。

 弊社の社員はほぼすべて正規雇用で、技術者も社内で育成しています。人手不足が言われている中で、安定した事業を継続していくためにも雇用の安定・確保が重要だと考えています。また、私が社長に就任してから約10年になりますが、採用した社員のほとんどが県内出身者で、地元の高校からも毎年一定数を採用しています。経営的に厳しい時期もありましたが、地元とのつながりを保っておかないと長期的な人手の確保はできないと考えています。

感染防止対策の徹底で操業への影響を回避

——新型コロナ対応で特に苦労された点は。

 弊社工場の操業停止は生乳廃棄に直結してしまいます。したがって、工場内で感染者を出さないこと、万一出ても濃厚接触者を極力減らし、影響を最小限に食い止める対策が必要です。
 そこで3月以降は、余乳処理の人員と他のラインの人員の接触機会を減らしています。食事場所や更衣室、使うトイレまですべて分け、このテーブルでだれが何時に食事をしたといった行動履歴も記録して接触経路を辿れるようにしています。また、社員の工場への立ち入りを原則禁止、工場間での人の交流も最小限に抑制をしています。

——感染対策の基本方針やマニュアルは用意されていたのですか。


 今回の件を受けてすぐに、全役職員にむけた社内予防策および工場内での感染症対応マニュアルを作成して、社長権限で命令を出しました。緊急事態宣言解除後はお願いベースでの呼びかけになっていますが、社員もさまざまな制約下でストレスを感じながらも協力してくれています。
 もちろん、社員へお願いをするだけではなく、管理職にも感染症対策を徹底させています。私もその一環で、東京と茨城の往来にあたっては、車で移動しています。

——リスクマネジメントにおけるトップの役割の重要性を感じます。


 会社経営を維持・継続させていくためには、それが重要だと考えています。社会的信用を得るために必要なのは、リスクに対し、未然防止とその対処をどうマネジメントするかだと思います。こうした姿勢は感染症だけでなく、お客さんから製品に関する指摘を受けたときのためにも必要です。
 ただ、今回の対策はトップダウンで行いましたが、上意下達だけの組織はよくありません。私は社長就任後に約370名のほとんどの社員と面接をして、言いたいことがあれば何でも言ってほしいと伝えています。会社を信頼して定着してもらうためにも、お互いに隠しごとをしない関係づくりが大切だと考えています。
  • 中島靖勝専務取締役(右)と君山幸男・取締役乳品工場長は感染防止策の策定と運用でも大きな役割を果たした。
  • 玉里工場の貯乳タンクは100トン8基と50トン2基。写真右端の1本は2000年代に増設した100トンタンク。

コロナ後も不変の経営姿勢 需給調整の要として信頼される企業へ

——感染再拡大や新しい生活様式の定着なども踏まえた長期的な展望は。

 弊社の業務用製品では、販売量が想定の半分以下になったものもあります。消費の原動力だったインバウンドがほぼゼロ、外食・行楽需要等の大幅な減少、消費者の節約志向も高まるなど、需要の回復までには数年がかかるのでないかと言われています。
 営業環境の厳しさはあるものの、確かなのは、生乳生産を陰で支える「黒子」としての弊社の役割は今後も変わらず、需給変動に対応した工場の稼働体制の構築、安定した品質の確保に努めていくこと、これらを念頭に置きつつ、愚直に正直に、やるべきことを粛々とやっていこうと考えています。

—広域的な需給調整の担い手として、今後の酪農乳業のあり方に対する提言を。


 乳牛資源の高騰や後継者問題などにより都府県の生産が漸減する一方で、北海道の一極集中が進んでいます。しかし消費地との関係からしても、北関東はある程度の生産力を維持する必要があると思います。
 私は弊社にくる前は、商社で輸入食品原料を扱っていました。そこで鉄則とされていたのは、供給地は最低でも世界の3か所に分散することでした。自然災害の多発する日本だからこそ、リスクの分散が肝要であり、一極集中を見直すべき時期がきているのではないかと考えています。

——Jミルクでも、全国的にバランスの取れた生乳生産基盤の維持を提言しています。御社のような生産基盤を支える役割も含めた議論が今後必要だと考えています。本日はありがとうございました。
  • 主力製品の業務用練乳や濃縮乳。
  • 今回の取材も同社が定める感染防止策の範囲内で実施した。
筑波乳業株式会社

(本社)〒315-0025 茨城県石岡市泉町6番1号
TEL  0299-24-2111
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