ちょっと気になる基礎知識
「疫学研究」って?

牛乳の気になるウワサをスッキリ解決!

その情報、確かな根拠がありますか?

「○○が△△に効く!」 「□□は◇◇の原因になる!」
テレビやインターネットには、このような健康情報があふれています。でも、何の根拠も示されていないのに、こうした情報を鵜呑みにする人は、さすがに少ないでしょう。
「エビデンス」という言葉を聞いたことがありますか? 「エビデンス」とは、科学的な「根拠」のことです。エビデンスとされているものの多くは大学や専門機関による研究結果ですが、ひとくちに「研究」といってもさまざまなレベルがあり、エビデンスとしての信頼度も異なります。

下の図は、科学における研究の「エビデンスピラミッド」と呼ばれるものです。
試験管(細胞)レベルの研究は数多くありますが、そのままヒトには当てはめられないので、エビデンスとしてのレベルは低くなります。
動物を使った研究や専門家の意見は、試験管の研究よりも少しエビデンスレベルが高くなり、ヒトを対象としたコホート研究などの疫学研究になると、さらにエビデンスレベルがぐっと上がります。
そして、ピラミッドの頂上、最も信頼度が高いとされているのが複数の疫学研究をもとにした「メタ解析」、「システマティック・レビュー」と呼ばれるものです。

疫学研究とは?

「疫学」とは、地域や特定の人間集団の中で出現する健康事象(病気など)の発生頻度や要因を明らかにする科学研究です。集団の特徴(年齢、性別、地域など)や、調査対象とする期間(年)などを明確に規定し、発生頻度や分布を調べます。
大勢からなる集団について、あらかじめ個々の人の生活習慣についての情報を集めておき、長期間(たとえば10〜30年)にわたって、個々の人がどのような病気になったかを追跡するのが「コホート研究」です。
「コホート」とは「集団」を意味します。

コホート研究における分析のしかた

たとえば、ある疾患と牛乳摂取との因果関係を調べるとします。まず参加者を牛乳摂取量の多い・少ないによってグループに分け(この例は4段階に分けています。それぞれの人数は同じになるようにします。牛乳摂取量以外は同じと仮定します)、グループごとに発症数を調べます。
その結果が図のようになったとします。図の横軸は牛乳摂取量(右へ行くほど多い)、縦軸は発症数(上へ行くほど多い)、グラフ棒は発症数を表します。
研究1では、牛乳摂取量が増えるに従って発症数が増えているため、牛乳摂取がその疾病の発症を促進していると考えられます。
研究2では、牛乳摂取量が増えるに従って発症数が減っており、牛乳摂取がその疾病の発症を予防していると考えられます。
牛乳を飲まないグループ(左端)の発症数を1としたとき、飲んでいるグループの発症率を「相対危険度」といいます。
相対危険度>1 ならリスクあり、
相対危険度=1 なら中立的、
相対危険度<1 なら予防効果あり
となります。
注意したいのは、相対危険度とは、バラつきをもった統計値であることです。どれくらいバラつくかは、コホートの規模(登録者数が多いか少ないか)によりますが、理論的に計算される「95%信頼区間」で表すことができます。
「95%信頼区間」の意味は、「今回の研究では、相対危険度は計算上丸印の位置になったが、真の値は、縦棒の範囲のどこか別の位置である可能性もある」、というものと考えてください。

分析結果を表す「Forest Plot」

こうした疫学研究は、通常、単一のコホート研究だけで結論づけることはされません。同じような目的で行われた複数のコホート研究を比べて、総合的に判断されます。このとき、それぞれのコホート研究の相対関係が一目でわかるように、しばしば「Forest Plot」と呼ばれる図で表示します。

下の図は、乳がんと牛乳摂取の関係についての疫学研究の結果です。12のコホート研究が縦に並べて示されています。それぞれのコホート研究における相対危険度の「95%信頼区間」は、横棒の長さで示されます。
「95%信頼区間」が1をまたいでいる場合は、「予防効果あり」と「リスクあり」の判定が逆転する可能性もあるので、その場合は「有意差なし」の判定となります。また、丸の大きさは、一般的に、コホート研究の規模の大きさを相対的に表したものです。

「システマティック・レビュー(メタ解析)」によりエビデンスとしての信頼性が飛躍的に高まる

上図の最下段に示されているひし形が、「システマティック・レビュー(メタ解析)」の結果です。これは複数の類似した研究結果を統合的に解析した結果で、「95%信頼区間」の幅も縮まり、全体としての信頼性が飛躍的に高まります。メタ解析後の相対危険度をひし形の中央位置、「95%信頼区間」をひし形の幅で示します。
乳がんと牛乳摂取の研究では、メタ解析の結果、相対危険度は0.90となり、信頼区間を考慮しても「心配なし」という結果を示しています。
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「疫学研究」って?   (0.3MB)