MILK通信II ほわいと(2003年夏号より)
生活習慣病という疾病概念が、わが国でも成長期から取り組むべき重要な問題として認識されるようになってきています。つまり人生の後半に発病する動脈硬化症などの生活習慣病の危険因子である、学童期における肥満や高脂血症が、現実の小児の健康問題として発現しており、早急な対策を必要としているのです。
1950年代以前よりアメリカにおいて、心臓病が死亡原因で一番高い割合を占めていました。そして、朝鮮戦争の際、戦死したアメリカ人兵士を解剖し、大動脈や冠動脈を調べた際、驚くべき事実が判明したのです。平均22.1歳の兵士たちの70%に動脈硬化の初期に見られる病理学的変化、血管の内腔の狭窄が始まっていたのです。対照的に、同じ年齢の日本人を含むアジア人兵士の動脈には、かような動脈硬化の所見は見られませんでした。
これは、成人になってから突然動脈硬化が始まるのではなく、小児期から動脈硬化の危険因子が、影響を及ぼしていることを示唆していました。
1999年に発表されたJ・P・ストロングのPDAY-STUDY(成長期の動脈硬化の病理学的研究)で、このことが裏付けらました。
この研究は、シカゴを中心に殺人事件などで死亡した遺体を解剖して、危険因子の有無と小児・若年層における動脈硬化の進展の比較検討がなされたものです。その結果は、VLDL+LDL-C(悪玉コレステロール)値が高く、HDL-C(善玉コレステロール)値が低くかつ喫煙する群は、これらの三つの因子をまったく持たない群に比べ、動脈硬化の進行を示す病理所見の割合が高く、20代後半になると、危険因子重複群は、まったく持たない群の2~3倍にもなっている結果を得たのです。(図1)
この報告の結論的意味は、動脈硬化のマクロの病変は、子どもの頃から始まっており、早期予防として、10代の後半までには、これらの生活習慣に関連する危険因子に対応すべきであるということになります。
小児の肥満が引き起こすさまざまな健康障害
動脈硬化は、遺伝的素因のほかに環境因子、生活環境が相互に関連性を持ち、危険因子を作り出します。危険因子には、喫煙、高血圧、高コレステロール、肥満、高血糖、精神的緊張、身体活動不足があげられますが、これらの危険因子を有する小児の頻度は、わが国でも確実に、現在増加傾向にあるのです。
小児の肥満に関しては、1995年には20年前の約2倍に増え、いまもどんどん増え続け、合併症を伴った肥満も多くなっています。なぜ、このような傾向が起こるのか。
小児の肥満に関しては、1995年には20年前の約2倍に増え、いまもどんどん増え続け、合併症を伴った肥満も多くなっています。なぜ、このような傾向が起こるのか。
一つには食生活の変化があげられます。それは食生活の欧米化。具体的には肉の摂取量が増加し、逆に魚介類の摂取量が減少。その影響が大きい一日のエネルギーにおける脂質の過剰摂取。さらに、ペットボトル症候群を起こす危険性のある、コーラに代表される糖分を含んだ清涼飲料水の過剰摂取などにつながっているのです。
食事以外では、運動不足、そして夜型の生活による睡眠不足、朝食を食べなくなるなどのライフスタイルの変化が影響しています。
小児肥満は、高血圧、高脂血症、糖尿病、心肺機能の低下、黒色表皮腫、大腿骨頭すべり症、情緒不安定など、さまざまな健康障害(合併症)を引き起こす原因にもなります。
さらに、学童期に肥満だった500人を10年ごとに40年にわたって、追跡調査したスウェーデンのモスバーグの1989年に発表されたレポートは、ショッキングな内容でした。肥満だった人は、心血管病の罹病率が、30~40歳で26.3%にもおよび、一般の人の10倍。そして、40歳前後で55人の人が死亡し、そのうち43.6%の人は心血管病が原因だったというもの。
このような小児肥満に対する警鐘に対し、肥満や合併症の増加という現実を省みると、成長期における生活習慣病に対するわが国の対策は、保護者を含め、いまだ十分ではないといわざるをえません。
生活習慣病を予防し、成長期の重要な栄養源である牛乳
私たちは1993年~99年にかけ、19都道府県、9~16歳を対象に調査し、健康管理に必要なわが国独自の小児の血清脂質レベルの基準値を出しました。これは、わが国の生活環境に合った独自の数値上の判断基準を設定する必要性があったからです(表1)。基準値を設けたからといって、生活習慣病は改善されません。肥満などの危険因子に対し、小児の食生活などの生活習慣をどのように、改善していくかが大事なのです。
成長期なので、肥満だからといって食事でのむやみなエネルギー制限はいけません。ここで注目したいのが、牛乳・乳製品。小学校4年生から同一対象者を3年間追跡調査。牛乳摂取が与える影響を、500ml以上、未満の2群に分け、体格に及ぼす影響、コレステロール値などを比較した結果、次のようなことがわかりました。
牛乳摂取の多い学童では、●身長の伸びは促進する可能性がある●肥満度、総コレステロールはより低下する傾向がある。つまり牛乳摂取は、生活習慣病を予防し、むしろ学童期の成長にとって重要な栄養源であると考えられるのです。
また、ある種の乳酸菌で作られたヨーグルトを飲むと高血圧が改善されるという論文がアメリカで発表されています。
牛乳・乳製品には、まだまだおもしろい働きがいっぱいあるかもしれません。成長期には、単に成長を助けるだけでなく、いろいろな健康障害に効用をもつ可能性を、私たちは確認しました。
最後に生活習慣病の予防に役立つ”学童に対する食習慣指針“をあげておきます。
1. 早起きをして朝食を食べよう
2. バランスよく何でも食べよう
3. 牛乳や乳製品を摂ってイライラを吹き飛ばそう
4. 魚を食べて頭をよくしよう
5. 果物や野菜を食べて丈夫な体を作ろう
6. ジュースやお菓子の摂り過ぎに注意しよう
7. 味の濃いものは食べ過ぎないように注意しよう
8. ファストフードはできるだけ食べないようにしよう
9. みんなといっしょに食事をし、食前・食後の挨拶をしよう
10. 食事の準備や後片付けの手伝いをしよう
2. バランスよく何でも食べよう
3. 牛乳や乳製品を摂ってイライラを吹き飛ばそう
4. 魚を食べて頭をよくしよう
5. 果物や野菜を食べて丈夫な体を作ろう
6. ジュースやお菓子の摂り過ぎに注意しよう
7. 味の濃いものは食べ過ぎないように注意しよう
8. ファストフードはできるだけ食べないようにしよう
9. みんなといっしょに食事をし、食前・食後の挨拶をしよう
10. 食事の準備や後片付けの手伝いをしよう
【用語解説】
[VLDL、LDL、HDL]
血中の脂質は、球状のリポ蛋白になって運搬されるが、上のそれぞれは、超低比重リポ蛋白、低比重リポ蛋白、高比重リポ蛋白のこと。一般的にVLDL、LDLを悪玉コレステロール、HDLは善玉コレステロールと呼ばれている。
[VLDL、LDL、HDL]
血中の脂質は、球状のリポ蛋白になって運搬されるが、上のそれぞれは、超低比重リポ蛋白、低比重リポ蛋白、高比重リポ蛋白のこと。一般的にVLDL、LDLを悪玉コレステロール、HDLは善玉コレステロールと呼ばれている。
[ペットボトル症候群]
清涼飲料水ケトーシスとも呼ばれる。糖分の多い清涼飲料水の飲み過ぎにより、血液中の糖の割合が上がる。この高血糖によって、のどの渇きをおぼえ、さらに清涼飲料水を摂取するという悪循環に陥る。そうすることで、糖尿病の悪化した状態と同じ、糖尿病性ケトアシドーシスを起こす。糖尿病体質や肥満の小児は、特に注意が必要。
清涼飲料水ケトーシスとも呼ばれる。糖分の多い清涼飲料水の飲み過ぎにより、血液中の糖の割合が上がる。この高血糖によって、のどの渇きをおぼえ、さらに清涼飲料水を摂取するという悪循環に陥る。そうすることで、糖尿病の悪化した状態と同じ、糖尿病性ケトアシドーシスを起こす。糖尿病体質や肥満の小児は、特に注意が必要。
(5月20日開催/(社)日本乳業協会セミナーより抄録)
MILK通信II ほわいと(2003年夏号より)