MILK通信II ほわいと(2003年春号より)
日本ではあまりなじみがないですが、アメリカでは40年間にわたって展開されている学校朝食プログラム。そのプログラムを通して、朝食摂取が子どもたちに及ぼす影響を検証するさまざまな研究がなされています。ここでは子どもが質のよい朝食を食べることで期待できる効果、そして学校朝食プログラムの必要性を検証していきます。
アメリカにおける学校朝食は、実験的に1966年に開始されました。そして75年には学校朝食プログラムとして、アメリカ議会で児童栄養法のもとに立法化。それによってプログラム維持の資金が確保されました。
学校朝食プログラムの支払い基準は3分類されています。基準にしたがって負担が、全額、減額、無料にわかれています。
また、この法律の施行令では、学校朝食においては1日のエネルギー所要量の25%を、かつ選ばれた栄養素を提供するものでなければならないと規定されています。そのため、いろいろなメニューを提供できますが、パターン化されてきています。2分の1パイント(236ml)の全乳あるいは無脂肪のミルク、フルーツかフルーツジュース、パン一切れを中心に、肉類や穀類が提供されるようになってきています。それは学校朝食がフルーツを食べ、ミルクを飲む唯一の機会である児童も多くいるからです。
参加児童数は、70年には45万人であったのが、80年には360万人、2002年には700万人。そしてなんといっても一番多いのが無料の群に入る児童で、増加率も一番高くなっています。
また、学校朝食のプログラムがあることと児童が朝食を食べるという関係は、朝食をどのように定義するかによって大きく変わってくることがわかってきています。例えば、朝食の定義を「何でもいいから食べた、食べればそれが朝食である」とすれば、アメリカの児童の88%が朝食を摂っているとなります。しかし、例えばフルーツとミルクといった5大栄養素群を摂取できる食品が少なくとも2つは入っており、しかも1日のエネルギー所要量の15%が摂れるという定義になると、実際に朝食を食べている児童は45%にすぎない。つまり、学校朝食は質の高いレベルの朝食を摂る率の向上に寄与しているといっても過言ではないのです。
朝食プログラムが及ぼす栄養面での効果とは?
学校朝食プログラムには、二つの大きな効果が期待できるという仮説からいろいろな研究が進められています。
その効果の一つは、朝食プログラムに参加することによるその児童の適切な食事摂取の効果-短期的・長期的に栄養状態、健康状態を改善するというもの。もう一つは、さらに進んで学校朝食があることとそれを摂取することによる学校の成績への効果。
前者の朝食プログラムへの参加と適切な食事摂取についての関係は、過去30年間に非常に多くの研究が累積されてきています。
その効果の一つは、朝食プログラムに参加することによるその児童の適切な食事摂取の効果-短期的・長期的に栄養状態、健康状態を改善するというもの。もう一つは、さらに進んで学校朝食があることとそれを摂取することによる学校の成績への効果。
前者の朝食プログラムへの参加と適切な食事摂取についての関係は、過去30年間に非常に多くの研究が累積されてきています。
1978年のホーグランドの研究は非常に重要なものの一つです。この研究で初めて全国レベルのサンプルで、栄養レベルのモニタリングが行われました。朝食群と非朝食群を比較検討したところ、非朝食群に比べ、朝食を摂っている児童の方が適切な栄養素摂取を行っていることがわかったのです。
またもう一つの重要な研究として、89年の「学校栄養摂取プログラムに関する全国評価」があります。これはアメリカ全土で代表的サンプルをとって、学校朝食を摂る群とそうでない群にわけ、さらに年齢群に分類しました。これによると、学校朝食を摂った5~10歳の群ではカロリー、カルシウム、マグネシウムの摂取率が高いという結果に。また、11~21歳の群では、カルシウムとマグネシウムの摂取率は高いという結果になっていることがわかりました。
このほかにも多くの研究がありますが、結論として、学校朝食の食事栄養効果を確定評価した研究は残念ながらありません。しかし、これらの研究で共通の結果が見えてきました。家庭や学校で質の高い朝食を摂っている児童の方が、栄養摂取の面で優れ、特に学校朝食プログラムに含まれる栄養素、つまりカルシウム、ビタミンC やエネルギーの摂取量も高い傾向にあるということです。
児童の出席率を高め遅刻率を下げる効果も確認
次に朝食が、栄養面以外のものに及ぼす影響、認知能力の発達などの身体能力への効果について検証していきましょう。
初期に行われた研究がその効果の可能性について示唆しています。学校で働いている教員や指導者、あるいは親と話をしてみると、朝食を食べると成績がよくなる、出席率が高くなる、あるいは学校での挙動に問題がなくなると言っています。
1980年代になると、研究者たちが体系的なかたちで、それらの効果を検証するようになりました。 80年代エネスト、パレットらが行った研究では、朝食摂取は記憶に関するような能力を高めると言っています。
さらにより厳密な研究が行われてきていますが、その一つがマサチューセッツ州で行われたもの。朝食プログラムが州のすべての学校で実施されるようになり、40%以上の児童に無償、あるいは一部助成のかたちで朝食が提供されました。この朝食プログラムの拡大が、児童たちの学校での成績にどのような影響を及ぼすかを検証していきました。研究者は16の小学校のうち6校をサンプルとして研究。一連の基本的技能を測るようなテストおよび、欠席率や遅刻率を評価指標として測定。これを朝食プログラム導入前後で比較してみると、朝食を摂った児童たちの出席率が明らかに向上し、遅刻率も減少するという結果を得たのです。
それ以外にも、一連の研究がアメリカばかりでなく他の国々でも行われています。ジャマイカで行われた研究では、出席率の向上のほか、算数のテストで成績がアップしたと報告しています。また、運動能力や視覚認知能力への効果を報告しているものもあります。
これらの研究で、共通の結果としてとらえられたのは、朝食プログラムに参加すると、学校への出席率が高くなり、遅刻率が減少するということ。それ以外の認知能力や学習能力に関しては、一貫性のある結果は得られません。その原因としては、視点のばらつきや、朝食のメニュー自体などにばらつきがあったことなどが理由に挙げられます。しかし現在、アメリカでさらに進んだ研究が行われていますので、新たな結果が引き出されるのではないかと期待しています。
肥満を防ぎ、質の高い食事の維持に今後も欠かせないプログラム
学校朝食の将来はどうなっていくのか?
アメリカ議会は現在、児童栄養法を2003年に改正すべく審議を行っています。そして、この分野の研究を行っている私たちにアドバイスを求めてきました。私は3つの点を指摘し、学校朝食プログラムの維持を推奨しました。
まず第1点は、このプログラムの開始当初、重要課題であった子どもの栄養の欠乏、エネルギー摂取の不足は解消され、現在アメリカでは、むしろ過体重、肥満の方が問題になってきています。しかし、私たちの子どもに関する研究や、それ以外の研究でも自宅であれ学校であれ、朝食を摂っている子どもたちは肥満傾向が低いという結果を得ています。朝食摂取がどうやら健康的ライフスタイルの指標になっているといってよいのです。言い換えれば、朝食を摂っている子どもたちの方が身体的にも活発で、ライフスタイルが改善され、健康であるといえるのです。
2点目ですが、朝食プログラムではミルクやフルーツを積極的に摂取するように進めてきました。その結果プログラム参加者は、カルシウム、ビタミンC摂取が非参加者より高いという結果を得ています。一方アメリカでは70年代以降、児童のカルシウム摂取の減少が問題になっています。そこで、プログラムを進めることは、ミルクを飲む可能性を高くし、カルシウムの摂取不足を解消することにつながるといえるのです。
3点目に、共働きをしている家庭が増え、子どもが朝食にファストフードを摂っているケースの増加が指摘されています。もちろん栄養の質はよくありません。これを考えると、質の高い朝食を提供するこのプログラムは、低所得層の子どもに朝食を提供するだけでなく、中・高所得層の子どもにとっても、必要なものになってきているのです。
(平成14年11月30日開催 第17回国際学術フォーラムより抄録)