世界の乳文化をおいしく楽しむ

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世界の乳文化をおいしく楽しむ

平田昌弘 帯広畜産大学教授

(2) 搾乳起源の地域で始まった「ヨーグルトソース」

2020年7月15日

 ヨーグルトの起源は西アジアです。ミルクは、栄養価が高いですから、搾乳して温かい場所においておくと、すぐに自然発酵してきます。搾乳の起源も西アジアです。夏に高温となる西アジアで、搾乳が始まり、同時にヨーグルトの加工も始まったのです。
 西アジアの人々は、ヨーグルトをデザートとしてではなく、食事として食べています。朝食にプレーンヨーグルトを平焼きパンですくって食べたり(写真1)、料理に用いたりしています。ヨーグルトソースも、そのうちの一つです。

 例えば、シリアにはクーサ・シーヒ・アル-マハシーと呼ばれるズッキーニの詰め込み料理があります(写真2)。ズッキーニ(クーサ)を、へたとは反対側からくり抜きます。中にミックススパイスで味付けしたミンチ肉を詰め込みます。これをバターオイルで炒め、トマトペースト、トウガラシペースト、塩で煮込みます。ズッキーニの詰め込み料理(マハシー)を各自の皿に盛りつけ、ミント入りのヨーグルトをマハシーに少しかかるように添えます。その格好が、白いターバンを付けたシーハ(老人)に似ているところから、この名前がつきました。バターオイルライスと一緒に食べます。夏の暑い時でも、このヨーグルトソースのおかげで、食が進みます。

 ヨーグルトは、すり潰したニンニク、塩とで混ぜて、大人向き味付けのヨーグルトソースにもします。サラダのドレッシングにすると、さっぱりして、とてもおいしいです。夏には45℃を超えることもある西アジア。そんな厳しい環境で、西アジアの人々が食生活を快適にするための知恵の一つが、このヨーグルトの利用なのです。
 シリアでは、各家庭で牛乳を加熱殺菌し、人肌くらいまで冷まします。牛乳1リットルに対して、プレーンヨーグルトを100ミリリットル加え、よく混ぜ合わせます。布などをかぶせて保温し、40℃弱の場所に一晩おきます。ぜひ、ヨーグルトソースをこってりしたものやステーキ、焼き魚、サラダなどに、そっと添えて楽しんでみてください。ヨーグルトの新たな発見があることでしょう。
  • 写真1.朝食の風景。平焼きパンでヨーグルトをすくって食べます。
  • 写真2.クーサ・シーヒ・アル-マハシー

家庭で手軽にできるヨーグルトソース(Jミルクからのご紹介)


 ご家庭で、シリアと同じようなヨーグルトを作るのは難しいかもしれません。市販のプレーンヨーグルトを使ってアレンジしたヨーグルトソースでも十分においしく召し上がれます。そこで、ここでは手軽にできるヨーグルトソースの作り方を、ミルク料理研究家の奥泉明子さんに紹介していただきました。

 奥泉さんのオススメは「トマトときゅうりのヨーグルトサラダ」のヨーグルトソースのレシピ。ソースの材料は、市販プレーンヨーグルト(無糖)、蜂蜜、塩、オリーブオイル、黒こしょうです。詳しいレシピは、下記URLで確認できますのでご参考にしてください。

(1) ミルクの魅力を知る国で愛される「ヘータリーエ」

2020年6月18日

 新型コロナウイルス感染拡大のため休校や外出自粛が続いた今春以降、「ラッシー」をはじめ、家庭でできるミルク料理レシピへのアクセスが急増しました。ラッシーといえば、インドの暮らしに根付いた牛乳乳製品で作る飲み物ですが、世界にはまだまだ、その国の乳文化を通して育まれた、日本人の知らないおいしい料理やスイーツがたくさんあります。乳文化が日本よりも何千年も昔から根付き、発展してきた西アジアや周辺地域のミルク料理やスイーツを、乳文化に詳しい専門家にご紹介いただきました。ご家庭で世界の国々の乳カルチャーを味わってみてはいかがでしょうか。
  • ミルク1万年の歴史で牧畜民が育んだ乳文化
 シリアに乳菓「ヘータリーエ」があります。夏に作られる、アイスクリームをトッピングしたミルクスイーツのことです。
 シリアは西アジアにあります。西アジアは、今から1万年前に搾乳が始まった地域であり、乾燥地の牧畜民が乳文化を脈々と育んできました。乾燥地で人々が生きていけるのも、乳文化があるからこそです。この西アジアの乳文化は、やがてオリエントや西欧の文化・文明を支え、日本の近代的な畜産へと発展していきます。
 ヘータリーエの作り方は、いたって簡単です。シリアでは、ミルクを温めてバニラエッセンスで風味を加え、コーンスターチを入れて一煮立ちさせたら、容器に移し、そのまま置いておいて冷まします。ミルクがムース状に固まったら、適当な大きさに切って、小皿に移し入れます。そこにミルクを注ぎ、上からミルクのアイスクリームをのせます。このようなミルクづくしの乳菓がヘータリーエなのです。
 ミルクムースの上でミルクアイスクリームが溶けだし、甘味と冷たさがミルクムースとミルク全体に行き渡っていきます。ミルクの新鮮さ、ミルクアイスクリームの冷たさととろける甘さ、そして、ミルクムースの心地良い歯ごたえが調和して、ヘータリーエは至極上等な乳菓です。
  • ミルクムースに牛乳注ぎ、アイスをトッピング
 シリアの気候は地中海性気候です。夏は40℃以上になり、暑く乾燥します。身体がほてり、脱水気味な中で、このヘータリーエを食べた時は生き返る思いがしました。ヘータリーエは、シリアの人々に愛されている夏の乳菓です。乳文化を育んできた地域の人々だからこそ、素朴でありながら、ミルクの魅力を十分に引き出す方法を知っています。それがヘータリーエなのです。
 ミルクムースを抹茶風味にしてみると、色彩も鮮やかになることでしょう。また、好きな果物を添えても魅力的です。作り方が簡単なだけに、いろんな工夫ができます。この夏、自分好みにアレンジして、ヘータリーエを家族一緒に作って楽しんでみてください。笑顔と涼を運んできてくれることでしょう。
  • 「ヘータリーエ」のアレンジレシピ(レシピ・写真協力:ミルク料理研究家 奥泉明子氏
≪作り方≫
  1.     鍋にコーンスターチと砂糖を入れ、ゴムべらなどでよく混ぜる。
  2.     牛乳を少しずつ加えてのばし、だまを作らないように混ぜたら、残りの牛乳も加えて混ぜる。
  3.     火にかけて、かき混ぜながら沸騰するまで加熱し、濃度が出たら、火を止める。
  4.     密閉容器などに移して、粗熱をとり、冷蔵庫で冷やす。
  5.     器にムースを盛り付け、牛乳をかけ、アイスクリームをのせたら完成。

≪調理する際の留意点≫

コーンスターチと砂糖をあらかじめ混ぜておくと、砂糖の親水性でコーンスターチが牛乳と混ざりやすくなります。火加減は中火くらいで、沸騰が近づいてきたら火を弱め、ふつふつと泡立ったら、加熱を止めます。
※コーンスターチと砂糖に抹茶小さじ2を加えると、和風デザートに変身。写真はインスタントの栗あんをかけています。小豆アイスや凍らせたゆで小豆をトッピングするのもおいしいと思います。