女子栄養大学 栄養学部教授 上西一弘
学校給食はカルシウム供給量が高めに設定されており、献立には牛乳が入っています。これは成長期にある子どもたちが十分にカルシウムを摂取し、骨を育て、将来にわたって健康な生活を送ることができるようにとの考えからです。一方で、給食がない日はカルシウム摂取量が大幅に不足する子どもが多く、特に夏休みなどの長期休みに不足した状態が続くと、健康への影響も懸念されます。給食におけるカルシウム摂取の重要性と牛乳が果たしている役割、そして給食のない日にも牛乳を飲むことの意義について解説します。
学校給食には、食事の提供だけではなく、さまざまな役割がある
文部科学省による学校給食実施状況等調査(令和3年度)によると、国公私立学校において学校給食を実施している学校数は全国で29,614校であり、実施率は95.6%です。また、完全給食の実施率は94.3%であり、前回調査(平成30年)に比べると、小学校、中学校及び中等教育学校(前期課程)において増加していました。このように学校給食は学校に通うほとんどの子どもに提供されていることから、子どもたちの食生活において学校給食の占めるウエイトは非常に大きいといえます。
では、学校給食の意義とはなんでしょうか。学校給食におけるエネルギーおよび各栄養素の摂取量は、文部科学省の「学校給食摂取基準」で定められていますが、令和2年に発表された「学校給食摂取基準の策定について」の序文には次のような文言があります。
学校給食では1日の1/3量より多めに設定されている栄養素もある
学校給食はほとんどの場合、昼食として提供されています。1日3食のうちの1食なので、エネルギーや各栄養素は1日に摂取すべき基準量の1/3量を供給できれば十分だと考えられますが、実際にはどのくらいの量が供給されているのでしょうか。
「学校給食摂取基準(令和3年4月改正)」を見ると( 表1 )、エネルギーの基準値は6〜7歳(小学生1、2年生)が530kcal、8〜9歳(小学校3、4年生)が650kcal、10〜11歳(小学校5、6年生)が780kcal、中学生が830kcalであり、いずれも1日基準量に対する33%、まさに1/3量に定められています。食塩はとりすぎないほうがよいことから、33%未満の設定です。
栄養素によって重みづけは異なっており、マグネシウム(小学生)、ビタミンCが1日基準量の33%である以外は、マグネシウム(中学生)、鉄、ビタミンA、ビタミンB1 、B2は40%、食物繊維は40%以上と少し高めであり、カルシウムに至っては50%と、1日摂取基準量の半分を給食でとれるような設定になっています。
朝倉らは、給食の「ある日」と「ない日」の栄養素摂取状況の違いを明らかにする目的で、平成26年11〜12月に全国12県の 児童生徒1190人を対象として食事状況調査を行いました。
調査方法は、各児童生徒に連続しない3日間(うち2日間は学校給食のある日、1日は週末の学校給食のない日)の食事記録を提出してもらうというもので、その食事記録をもとに、一人一人の習慣的な1日あたりの栄養摂取量を推定しました。そして、「給食あり」と「給食なし」の日の1日の栄養摂取量が、食事摂取基準の「目標量」および「推定平均必要量」に適合しているかどうかを検討しました。
目標量の検討から見てみましょう。目標量とは、「生活習慣病の発症予防を目的として、特定の集団において、その疾患のリスクや、その代理指標となる生体指標の値が低くなると考えられる栄養状態が達成できる量として算定し、現在の日本人が当面の目標とすべき摂取量」のことで、たんぱく質、脂質、炭水化物、食物繊維、食塩、カリウムについて 表2 のように定められています。
特に食物繊維とカリウムについては「給食なし」の日に不足する子どもが多いことが示されました。一方で食塩は「給食あり」「給食なし」ともに不適合率が90%を超えていることから、ほとんどの子どもが給食の有無に関係なくとりすぎており、家庭においても減塩に留意する必要があります。
「給食なし」で牛乳を飲まない日はカルシウムが顕著に不足している!
推定平均必要量とは、「ある対象集団において測定された必要量の分布に基づき、母集団における必要量の平均値の推定値を示すもの」と定義されており、小中学生などの集団を対象にした場合には、この推定平均必要量を充たしている人がどれくらいいるかということが重要な指標となります。推定平均必要量は14種類の栄養素について定められています( 表3 )。
そして、栄養素のなかでも給食の有無による違いが最も顕著なのがカルシウムであり、必要量に充たないのが「給食あり」の日では男子35%、女子32%であるのに対し、「給食なし」の日では男子75%、女子78%にに跳ね上がっています。給食を食べなければ1日のカルシウム必要量を充たせない子どもが約80%いるということになります。
ここで冒頭の「なぜ給食におけるカルシウムの摂取基準はこれほど高いのか」という問いに戻りましょう。学校給食摂取基準は、以上のような学校給食の有無による小中学生の栄養摂取状況を把握した上で、給食でどれだけの量を供給すれば栄養不足を解消できるかを考慮して設定されています。特にカルシウムはふだんの(給食以外の)食事で不足しがちな栄養素であることを踏まえ、1日摂取基準量の50%を給食で摂取できるように定めているのです。ただし、給食のある日でも男女ともに約30%はカルシウム不足であり、給食を食べている日もそれだけで大丈夫というわけではないことを念頭に置く必要があります。
骨はカルシウムの貯蔵庫。
成長期にカルシウムを貯めることが大切
カルシウムは体内に最も多く存在するミネラルで、体重の1〜2%を占めています。骨をつくる栄養素としてよく知られていますが、カルシウムの働きはそれだけではありません。心臓をはじめとする筋肉の収縮機能、脳の指令を各器官に伝える神経細胞機能、唾液や胃液、ホルモンなどの分泌機能、細胞の増殖機能など、体のさまざまな機能を調節しているのです。それらの機能は生命維持に関わるため、滞りなく調節できるよう、血液中のカルシウム濃度は常に一定になっています。もしも血液中のカルシウムが少なくなったら、すぐに "貯蔵庫" からカルシウムが取り出されて血液中に補充され、血中濃度が保たれます。そのカルシウムの貯蔵庫が、骨です。体内のカルシウムの99%は骨や歯に蓄えられ、必要なときにいつでも取り出せるようになっています。
骨に貯蔵されているカルシウム量は、骨量(骨密度)と同じようなパターンで一生を通して変化します( 図3 )。出生時の体重が約3kgであれば体内のカルシウム量は約30gですが、成長とともに骨が大きくなって骨量が増えると体の中のカルシウム量もどんどん増加します。骨量がピークに達する20歳ごろには、男性で約1kg、女性で約700gのカルシウムが体の中にあると考えられています。その後40歳ごろまでは最大量が維持されますが、中年期になると加齢とともに骨量は徐々に減少し、同様にカルシウム量も減少の一途をたどります。
特に女性は閉経期に急激に骨量が減少するため、骨がもろくなり、60歳ごろから骨粗鬆症を発症しやすくなります。骨量が多く、減少が緩やかな男性においても、80歳を過ぎると骨粗鬆症のリスクが増加します。これからは「人生100年時代」といわれますが、もしも65歳で骨粗鬆症を発症したら、残りの35年間を骨折しやすい状態で生きることになり、QOL(生活の質)は著しく低下します。高齢になっても元気に生活するためには、骨粗鬆症の予防が重要なのです。
骨量を増やすことができるのは成長期だけです。この時期に骨量を十分に増やせなかったら、一生を低い骨量で過ごさなければなりません。骨粗鬆症予防という観点からも、いかに成長期に骨量を増やしてカルシウムを貯蔵できるかは重要な課題になっています。
高校生になって学校給食がなくなるとカルシウム摂取量がガクッと減る
もう一つ注目したいのは、男女とも15〜17歳でそれまでに比べてガクッと摂取量が低くなっている点です。これは、高校生になり学校給食がなくなったために、中学生までは毎日飲んでいた牛乳1本分のカルシウム量が減ったことが大きな理由であると推測されます。前述のように20歳ごろまで骨の成長は続いており、高校生もカルシウムを貯蔵できる大事な時期です。給食を食べなくなっても牛乳を飲む習慣は続けることが望ましいのです。
牛乳1本(200ml)のカルシウム量は227mgなので、1日の推奨量に対するカルシウム寄与率(男/女)は、小学校1、2年生(37.8/41.3%)、3、4年生(34.9/30.3%)、5、6年生(32.4/30.3%)、中学生(22.7/28.4%)です。中学生では推奨量が高いので寄与率も下がりますが、小学生は1日推奨量の約1/3をとることができます。また、前述の学校給食調査で不足しがちな栄養素として挙げられたカリウム、亜鉛、ビタミンA、B1、B2、B12なども、牛乳1本で中学生の推奨量の10〜25%ほどが供給できます。したがって、毎日牛乳を飲むことの意義はやはり大きいと考えられます。
なお、この研究では小松菜、モロヘイヤ、おかひじきなどカルシウム量の多い野菜を使いましたが、いずれもシュウ酸カルシウムという形で吸収されにくいことが影響しています。野菜は決してカルシウムの供給源として劣るわけではなく、ブロッコリーやケールなど、シュウ酸が少なくカルシウム吸収率が高いものもあります。毎日の食事では、牛乳・乳製品をはじめ、豆類、魚介類、穀類、野菜などいろいろな食品からカルシウムをとることが大事です。
給食がある日もない日も子どもも大人も牛乳を飲もう
給食以外に家でもこれだけの牛乳を飲めば、カルシウムの不足を補うことが可能だといえますが、給食のない日に牛乳を飲む子どもはあまり多くありません。小学生348人、中学生266人を対象とした亀ヶ谷らの検討では、給食では当たり前に牛乳を飲んでいる子どもの多くが、給食がない日の「昼食」では牛乳を飲まないことが示されています。
このような検討をもとに子どもたちに牛乳を飲むように勧めても、特に女子は「太るのではないか」と心配して飲みたがらないことがあります。しかし、牛乳1本分のエネルギー量は138kcal(1日のエネルギー寄与率が5%程度)であり、ケーキやスナック菓子に比べればはるかに低値なので、太る心配は不要だといえるでしょう。高校生女子を対象に牛乳摂取と体脂肪率の関係を調べた女子栄養大学の調査でも、牛乳を200 ml以上飲んでいる人のほうが、100〜200mlや100ml未満、あるいはほとんど飲まない人よりも、牛乳摂取分のエネルギー摂取量が高いにもかかわらず、体脂肪率は低いことが示されています。1日に3本程度までなら体重にはそれほど影響しないので、安心して飲んでほしいと考えます。
以上より、成長期にある子どもたちがカルシウムを十分に摂取する手立てとしては、学校給食のない日(土日や夏休みなど長期の休み)はもちろん、給食のある日も家庭で牛乳を飲むように習慣づけることが一番です。大人も一緒にいつでも飲めるように、冷蔵庫には牛乳を常備しておくことを勧めます。
女子栄養大学 栄養学部教授
徳島県生まれ。徳島大学大学院栄養学研究科修士課程修了後、食品企業の研究所を経て現職。専門は栄養生理学、特にヒトを対象としたカルシウムの吸収・利用に関する研究、成長期のライフスタイルと身体状況、スポーツ選手の栄養アセスメントなど。