日本骨粗鬆症学会(採録)
超高齢化社会の日本において、寝たきりの原因にもなる骨粗鬆症とそれによる骨折は大きな問題となっています。骨粗鬆症を予防するには、カルシウムをはじめ、タンパク質、ビタミンDステージにおいて、牛乳・乳製品の摂取が骨量や骨折リスクにどのように関連するかを国内外の疫学研究を中心に解説します。
日本人は男女ともどの年代もカルシウム摂取不足!
牛乳・乳製品摂取量も少ない
では、日本人はカルシウムを十分に摂取できているのでしょうか。世界的に見ると、成人における食事からのカルシウム摂取量は欧米の国々で1日に700〜900mgであるのに対し、日本では1日に500〜600mgとかなり少なくなります。また、令和元年の「国民健康・栄養調査」によると、1日あたりのカルシウム摂取量は、男女とも、どの年齢層においても「日本人の食事摂取基準」が定める推奨量を下回っています(図1)。このように、日本人は性別・年齢に関係なくカルシウム不足であるというのが実状です。
しかしながら、日本人は1人あたりの牛乳消費量が年間30.9kgと主要国の中では非常に少ないのです(図2)。特に、学校給食が終了すると男女ともに牛乳・乳製品の摂取量は著しく低下することが指摘されています。
そこで、牛乳・乳製品の摂取と骨の脆弱性を主題に、「思春期前後における骨量との関連」、「成人期における骨量との関連」、「中高年期における骨折リスクとの関連」という3つの観点から、主に国内外の疫学研究結果をもとに考えていきます。
思春期前後に牛乳を十分飲むことが骨折と将来の骨粗鬆症予防につながる
思春期前後の牛乳・乳製品摂取と骨密度の関連を検討した海外の無作為割付介入試験を見ると、ニュージーランドの検討では15〜17歳の対象にカルシウム1000mg分の牛乳・乳製品を2年間毎日摂取させた結果、介入群は介入しなかった群に比べ、大腿骨頸部、転子部、腰椎の骨密度が有意に高くなりましたが、介入終了1年後の骨密度には2群で有意差がありませんでした(骨密度を高めるには継続的な牛乳・乳製品の摂取が重要)。
フィンランドの検討では平均年齢11歳の対象にカルシウム換算で900mg以上となる低脂肪チーズを2年間毎日摂取させた結果、摂取群は摂取しなかった群に比べ、全身の骨密度が高く、脛骨の皮質骨(*1)も厚くなりました。中国の検討では平均年齢10歳の対象にカルシウム560mgを含む牛乳1杯を2年間毎日追加摂取させた結果、期間中に初潮を迎えた摂取群は摂取しなかった群に比べ、全身の骨密度が高くなり、また、9〜10歳の対象にミルクパウダー80gあるいは40gを水に溶いて1年6ヶ月摂取させた結果、80g摂取群ではミルクパウダーを摂取しなかった群に比べて骨密度変化率が有意に高値となりました。
もともと食事からのカルシウム摂取量が多い北米やヨーロッパの対象集団では、牛乳・乳製品摂取を増加した介入による大きな効果が見られない場合もあります。しかし、食事からのカルシウム摂取量が低いアジアにおける検討では、介入群は対照群に比べて有意に骨密度が高くなる結果が得られており、牛乳・乳製品の摂取が子どもの骨密度を高めることが示唆されています。
日本においても、子どもたちの中軸骨の状態を確認し、また最大骨量を大きくするためにはどの年齢の子どもに何をすればよいかを確認する目的で、「小児の骨折を防ぎ、50年後の骨粗鬆症を防ぐための追跡研究」が実施されています。対象は小学校4年生~中学校3年生の男女各50人および中学校1年生男女400人で、それぞれの牛乳・乳製品の摂取状況と骨密度を調査し、小学校4年生~中学校3年生の群は3年後に再調査を、中学校1年生の群は中3時と高2時に2回の追跡調査をしました。
その結果、男女とも牛乳を1日コップ1杯以上飲んでいる生徒は、2〜3日に1杯や週に1杯以下の生徒に比べ、腰椎および大腿骨近位部の骨密度が高い傾向が見られました。また、女子では小学校の給食で出た牛乳を飲んだ生徒のほうが、飲まなかった生徒に比べて中学生での腰椎、大腿骨近位部の骨密度が有意に高くなりました(図3)。以上より、思春期前後における十分な牛乳・乳製品の摂取は、骨量を増加させ、高い最大骨量獲得につながることが期待できると考えられます。
*1 皮質骨… 骨には海綿骨と皮質骨がある。海綿骨は骨の内側にある網目状の部分で、皮質骨は外側(表面)の部分で非常に硬い組織。
成人期において牛乳の摂取量が多い人ほど骨量減少や骨密度低下を抑制できる
成人女性の骨密度低下は、牛乳・乳製品の摂取によって抑制されるでしょうか。海外の無作為割付介入試験を見ると、アメリカで平均36.5歳の有経女性を対象に、3年間乳製品摂取を増やすように指導した試験では、指導群は3年間の腰椎骨密度に有意な減少がなかったのに対し、指導しなかった群では有意に減少しました。
オーストラリアで平均63歳の閉経女性を対象に、カルシウムを1g添加したスキムミルクを2年間毎日摂取させた試験では、摂取群は摂取しなかった群に比べて大腿骨大転子部骨密度の低下が有意に抑制されました。また、アメリカで平均71歳の閉経女性を対象に、カルシウム摂取量が1000mgとなるように牛乳4杯を2年間毎日摂取させた試験では、摂取群は大腿骨頸部の骨密度変化率に有意な低下は認められなかったのに対し、摂取しなかった群では有意に低下しました。
一方で成人男性については、高齢者を対象に牛乳・乳製品の摂取頻度と骨密度の関連を調べたいくつかの観察研究があります。スペインで平均63歳の高齢男性を対象に行った4年間の追跡調査では、牛乳を1日3杯以上摂取している群は牛乳摂取なしの群に比べて骨密度低下が有意に抑制されました。また、アイスランドで平均76歳の高齢男性を対象に行った断面研究では、牛乳摂取が週1回未満、週に1〜6回、1日1回以上の3群で比較した結果、週1回未満群に比べて摂取頻度が高い群ほど骨密度のZスコア(*2)も有意に高くなりました。
日本の奈良県在住の平均73歳の高齢男性を対象に行ったコホート研究「藤原京スタディ男性骨粗鬆症研究」の断面的検討では、牛乳の摂取頻度を週にコップ1杯未満、週に数杯、1日1杯、1日2杯以上の4群で比較したところ、1日2杯以上の群ほど大腿骨頸部骨の骨密度も高く、低骨量のオッズ比(危険度)も低いという結果が得られ(図4)、牛乳の摂取頻度が高い人ほど低骨量になりにくいことが示唆されました。
*2 骨密度のZスコア… 同年齢の骨密度の平均値との比較。
大腿骨近位部骨折予防にはカルシウム摂取に加えて十分なタンパク質摂取も必要
また、骨折リスクにはカルシウム摂取のみならず、タンパク質摂取も影響します。高齢女性3656例を対象に、1日のカルシウム摂取量が800mg未満と800mg以上の2群に分け、さらに動物性・植物性タンパク質摂取量を多い順に3群に分けて(T3、T2、T1)、大腿骨近位部骨折の発症リスクを比較した検討では、カルシウム800mg/日以上で動物性タンパク質摂取量が多い(T3)群でのみ、大腿骨近位部骨折リスクが有意に低下することが示唆されました(図5)。
牛乳摂取が1日にコップ1杯未満でビタミンD不足だと、骨折リスクはより高まる
JPOSスタディの対象は開始時に15〜79歳だった4550人ですが、そのうち50歳以上の閉経女性を対象に、骨粗鬆症性骨折リスクに対する牛乳摂取習慣の影響を縦断的に検討したところ、牛乳摂取頻度が1日にコップ1杯以上、2杯以上と高くなるほど、骨粗鬆症性骨折発生リスクが他の骨折リスク要因(飲酒や喫煙など)と関係なく低下する傾向を認めました(図6)。
さらに、牛乳摂取頻度と血清25(OH)Dの骨折リスクに対する複合影響を検討したところ、牛乳摂取1日1杯未満の群では血清25(OH)Dが低いほど全骨折リスク上昇を認めましたが、牛乳摂取1日1杯以上の群では、血清25(OH)D低値と骨折リスクとの関連を認めませんでした。この結果は、牛乳摂取が1日1杯未満と少ない場合は、ビタミンD不足との複合影響により、骨折リスクがより高まることを示唆しています。
カルシウムとビタミンDの関係ですが、カルシウムは腸管吸収される際に、活性型ビタミンDの働きによって腸管の細胞に取り込まれやすくなり、これによって血中カルシウム濃度の恒常性が維持されます。前述の検討では、1日1杯未満群において血清25(OH)D低値による骨折リスク上昇がより明瞭でしたが、そのメカニズムは(図7)のように説明できます。
カルシウム摂取量と血清25(OH)D値がともに低値だと、腸管におけるカルシウム吸収が低下するため、血中カルシウム濃度が低下します。すると副甲状腺ホルモン分泌が上昇し、血中カルシウム濃度を上昇させようとして骨から血中にカルシウムを送り出します。その結果、骨に蓄積されていたカルシウムが減少して骨密度が低下し、骨折リスクが高まります。このようにビタミンDは骨折リスクに深く関連しますが、日本各地を対象としたいくつかの研究で、日本人の7〜9割はビタミンD非充足(血清25(OH)D 30ng/ml未満)であることが指摘されています。
また、中高年における骨折予防の観点から望ましいカルシウム摂取量について、米国医学研究所では、51〜70歳の男性では1000mg/日、女性は1200mg/日、71歳以上は1200mg/日のカルシウム摂取を推奨しています。日本人男女を用いた出納実験からは、800mg/日未満ではカルシウムバランスが負となって骨吸収促進が起こり、骨密度低下につながる可能性があるとの報告もされています。
カルシウム吸収率の高い牛乳・乳製品で骨粗鬆症の予防を
では、生涯を通して骨粗鬆症とそれによる骨折を防ぐためにはどうすればいいでしょうか。繰り返しになりますが、日本人はカルシウムの摂取源の3割を牛乳・乳製品に頼っていながら、その消費量は主要国の中でも非常に少なく、結果としてカルシウム不足の状況にあります。ビタミンDを含むのでカルシウムの吸収効率がよく、摂取したカルシウムの約4割を吸収できる牛乳は、カルシウム不足の解消に適した食品だといえます。
したがって、日本人は思春期前後、成人期、中高年期のいずれにおいても十分に牛乳・乳製品を摂取し、カルシウム摂取量を高めることが重要です。そうすることにより、思春期前後には高い最大骨量を獲得し、成人期には最大骨量を維持、そして中高年期には骨量の減少を抑制し、生涯を通して骨粗鬆症とそれによる骨折を防ぐことが期待できます。
大阪医科薬科大学医学部衛生学・公衆衛生学(医学博士)
1987年北海道大学医学部卒業。97年米国ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生学修士課程修了。2000年和歌山県立医科大学公衆衛生学助手、01年北海道大学予防医学講座公衆衛生学助手。03年近畿大学医学部公衆衛生学講師、10年同准教授、13年より現職。高齢者の要介護の大きな原因である骨粗鬆症とそれによる骨折について、疫学調査を通して実態や原因を研究し、予防に役立つ科学的根拠の提示に努めている。