「温室効果ガス削減への取り組み加速を」GDP専務理事ドナルド・ムーア氏のメッセージを発表しました

お知らせ

「温室効果ガス削減への取り組み加速を」
GDP専務理事ドナルド・ムーア氏のメッセージ

GDPが気候変動への酪農乳業セクターの国際動向をJミルク理事へ紹介

9月の国連食料システムサミット、11月の第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)といった、農業分野での温室効果ガス(GHG)排出削減が大きなテーマとなる見込みの国連会議を前に、グローバル・デーリー・プラットフォーム(GDP)のドナルド・ムーア専務理事が日本の酪農乳業界に向けてメッセージを寄せた。

メッセージは、気候変動に対する酪農乳業セクターの国際連携の一環で、GDPが、国連食糧農業機関(FAO)や国際酪農連盟(IDF)、学術研究機関の「農業温室効果ガスに関するグローバル・リサーチ・アライアンス(GRA)」など様々な国際組織と協力し、「酪農乳業ネット・ゼロへの道筋(Pathways to Dairy Net Zero)」と銘打つ取り組み(イニシアチブ)を進めていることについて、日本にも積極的な役割を期待する趣旨から作成された。このメッセージは、7月19日に一般社団法人Jミルクの理事会でビデオメッセージとして紹介された。

GDPは、現在37カ国から100を超える会員の企業や業界団体によって構成されており、酪農乳業・牛乳乳製品の意義や価値を科学的なエビデンスに基づいて全世界に発信し、国連機関、政府系機関、学術機関への働きかけを通じて、健康栄養、環境、社会経済などの側面から業界全体の持続的発展を目指している。

なお、7月26日に、イタリア・ローマで開催された国連食料システムサミット準備会合(プレサミット)の付属セッションにおいて、GDPのムーア氏は「酪農乳業ネット・ゼロへの道筋」の概要を説明した。また、この取り組みを支持するウルグアイ、ニュージーランド、ケニア、コスタリカの政府関係者から酪農乳業セクターにおけるGHG排出の各国状況について、GRAからこの取り組みの技術的実現性について、それぞれ説明が行われた。

ムーア氏のビデオメッセージの概要は以下の通り。

「気候変動対策は酪農乳業の責務である」

現在、2015年に国連が掲げた「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向けて、全世界で取り組みが開始されている中で、酪農乳業セクターも様々な取り組みを行っており、その中でも気候変動に対する業界全体としての取り組みはとりわけ注目を集めている。

気候変動は現実に存在する脅威であり、2015年のパリ協定で採択された気温上昇の抑制目標達成のためのGHG排出量削減は、全世界、全産業を挙げて意欲的に取り組まなくてはならず、酪農乳業セクターも例外ではない。

一般的に農業は、化石燃料に頼る他の産業に比べるとGHG排出量は少なく、また農業自体がGHGの吸収源ともなりうるとも言われるが、国際社会の一員である以上は、自らの排出量を削減する努力をしなくてはならない。

「解決策は一つではない」

しかし酪農乳業におけるGHG発生は特徴的かつ複雑である。発生源には腸内発酵によるゲップ、糞尿、飼料などがあり、ガスの種類も二酸化炭素(CO2)よりもメタン(CH4)や一酸化二窒素(N2O)の寄与が大きい。地球温暖化係数(GWP)は、二酸化炭素よりもメタンや一酸化二窒素の方が高いとされているが、その算定方法については様々な議論があり、見直しも図られている。

また酪農システムも、放牧、フリーストール、つなぎ飼いなど飼養形態の違いや、規模の違いなど、世界中の様々な地域での多様性や独自性があり、気候変動への取り組みについては、それぞれの地域のシステムに適した解決策が求められる。

具体的には、調査段階のものも多いが、GHG排出の生乳生産効率向上による低減、牛の健康状態改善による低減、メタン抑制剤やメタン発酵などの糞尿処理による低減、食料副産物の飼料化や低炭素につながる飼料の開発などによる排出の回避、土壌改善や植樹などでGHG吸収量を上げることによる除去、発生したメタンを再生可能エネルギーに転換する産業内のオフセット(埋め合わせ)などの選択肢がある。

「酪農乳業の調査研究はすでに始まっている」

酪農乳業セクターでは、すでにGHG排出量削減の調査研究が15年以上前から始まっており、GDPではFAOなどと共同で報告書も発行している。この報告書によれば、2005~2015年の10年間で、牛乳乳製品の単位1kg当たりの排出量は11%減少している。製品単位あたりの排出量は、開発途上地域で高い傾向があり、中南米やアジアで先進地域の約3倍、アフリカで約5倍程度となっているが、注目すべきは世界の全地域で減少していることである。日本は先進地域に該当し、製品単位あたりの排出量は非常に少ないと考えるが、国内の排出量を算出し、日本の酪農システムに見合った排出量削減の手段を開発してもらいたい。

「酪農乳業は非常に多くの人々が関与する」

酪農乳業セクターは、全世界で1億3300万の酪農場があり、酪農場で6億人、その上流と下流でかかわる4億人の人々の生計に関与しており、合計約10億人にのぼる。また女性の社会活動においても非常に重要な意味を持ち、全世界の約3700万の酪農場が女性によって経営され、酪農乳業で雇用される女性は世界で8000万人である。そして農産物の中で牛乳乳製品の生産額は世界最大、生産量でも世界3位である。

つまり酪農乳業は社会的にも経済的にも重要で影響力がある、責任ある産業であり、SDGs17項目のうち社会的SDGsと呼ばれるいくつかの項目の達成に貢献している。GHG削減の取組みも、人々の生計の維持改善、世界の人々への栄養と食料の安定供給、そして地球環境面における生物多様性、水質や土壌などの維持といった他のSDGsへの取り組みと、両立する形で進めるよう注意を払うことが必要である。

「今後のロードマップ」

2021年、2つの主要な国連会議が開催される。一つは9月にアメリカ・ニューヨークで開催予定の国連食料システムサミット、もう一つは11月にイギリス・グラスゴーで開催予定の第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)である。

これら2つの会議では、農業、とりわけ酪農乳業を含めた畜産業が議論の対象になると思われる。動物性食品からの脱却を訴える活動家グループの存在も、議論に拍車をかけるであろう。

GDPではこれをむしろチャンスととらえ、酪農乳業における気候変動への野心的・戦略的な取り組みとして「酪農乳業ネット・ゼロへの道筋」を掲げ、この活動の「チャンピオン(優等者)」と「アーリーアダプター(早期導入者)」を提示することで、酪農乳業だけでなく畜産業全体、そして全世界の農業分野における気候変動対策への道筋を示したいと考えている。日本の酪農乳業界にも「酪農乳業ネット・ゼロへの道筋」の取り組みへの積極的な関与をお願いしたい。