ひとりひとりの「障害特性」に応じた支援で自閉症児の牛乳嫌いを改善

「あたらしいミルクの研究」2017 年度

ひとりひとりの「障害特性」に応じた支援で自閉症児の牛乳嫌いを改善

代表研究者
 筑波大学医学医療系 :水野智美
共同研究者
 富山大学人間発達科学部 :西館有沙
 東京未来大学こども心理学部 :西村実穂
 子ども支援研究所専任相談員 :大越和美


自閉症スペクトラムのある子どもは、「大多数の子どもと比べて、苦手な食品の種類が多い」、「限定された食材しか食べない」などの極端な偏食傾向を示すことが多くあり、牛乳も例外ではありません。

そこで偏食の背景にある特有の「こだわり」や「感じ方」など個々の障害特性に応じた支援を行ったところ、まったく飲めなかった子どもの牛乳嫌いに改善の兆しが見られました。

障害特性に応じた支援の必要性

自閉症スペクトラムのある子ども(以下、自閉症児)は、音や光のほか、肌触り、歯ごたえなどの感じ方が鋭敏だったり、鈍感だったりします。そのため、「大多数の子どもと比べて苦手な食品の種類が多い」、「限定された食材しか食べない」など極端な偏食傾向を示すケースが多くみられます。これらの背景には「初めて口にする」、「味が混ざっている」、「触感が固い」、「においがきつい」など特有の「こだわり」や「感じ方」といった障害特性が大きくかかわっていることが明らかになっています 1)。

幼稚園や保育所を巡回し、保育者や保護者に対して発達障害傾向のある子どもの相談活動を行う中で、しばしば自閉症児が牛乳を飲めないという相談を受けます。保育者は、「牛乳をおいしそうに飲む様子を見せる」、「牛乳は身体にいいことを教える」という一般的な偏食指導を実践していますが、指導効果を感じていないということでした。

一般的な偏食指導で改善につながらない理由の一つとして、自閉症児は他者の感情やその場の雰囲気を感じることが苦手であることが考えられます。牛乳は、幼稚園・保育所・学校など多くの場所で毎日の給食やおやつに出されますが、牛乳が飲めないために給食やおやつの時間を憂鬱に感じる子どももいます。そこで、障害特性に応じた支援で牛乳嫌いを改善できれば、給食やおやつの時間に憂鬱を感じることが少なくなり、また牛乳を使用した食のレパートリーを広げることにもつながると考えました。 

「こだわり」や「感じ方」の違いにも注目

研究では牛乳が嫌いな自閉症児を担当する保育者に対して、障害特性、牛乳が嫌いな原因、偏食の状況などについてヒアリング調査を行いました。調査の結果を、8つの牛乳嫌いの原因に分類したところ、同じ牛乳嫌いの原因でも「こだわり」や「感じ方」の障害特性が異なることがわかりました。たとえば、「においや味」に対して、においに敏感、温度に敏感、牛乳を口に含んだ際の舌触りに敏感など原因は様々でした。そのため、牛乳嫌いを改善するためには、嫌いな原因の中にはさらに細かな障害特性の違いがあることを知り、支援を考えていく必要があるといえます。 

根気強い支援と達成感を大切に

研究では11名の自閉症児について、保育者から詳細な情報提供を受ける、給食時間の様子や普段の保育中の生活を観察するなど、個々の支援について保育者と検討して実践しました。実際の支援としては、①食器へのこだわりや冷たいものを嫌がる子どもには、牛乳を与えるスプーンを金属製から木製にかえる②白色の食べ物や飲み物を嫌がる子どもやパッケージが変わることを嫌がる子どもには、蓋つきのコップへ移す③味やにおいに敏感な子どもには、1滴の牛乳をなめるところからはじめ、毎日1滴ずつ増やす、あるいはココア味の牛乳調味品を入れて、その量を徐々に減らすなどスモールステップを行う④口に後味が残る食材を嫌がる子どもには、低温殺菌の牛乳や炭酸飲料で割るなどの支援を実施しました。障害特性が似ている場合でも、③のケースや④のケースのようにひとりひとり支援を変えることもありました。また、味覚や食器に関係ないケースもありました。それは、牛や牛乳に恐怖心を感じているケースです。そのため、⑤牛が怖いあるいは牛の乳を飲むことが怖いと感じている子どもには、乳しぼりのまねをしたり、上に座ることができる牛のぬいぐるみを近くに置き、牛に慣れ親しむ環境を作ることで恐怖心を少しずつ和らげるような支援を行いました。

このように、牛乳嫌いの原因と障害特性に応じた支援を行うことで、牛乳がまったく飲めなかった子どもに改善の兆しが確認できました。

自閉症児の偏食指導には、ひとりひとりが持つ特有の「こだわり」や「感じ方」の障害特性に応じた根気強い支援が必要となります。また、無理のない範囲でチャレンジを促し、「がんばって飲むことができた」と子ども自身に感じさせることで自己肯定感を高めていくことも大切になると思われます。

本研究は、筑波大学医学医療系医の倫理委員会の承認を得て実施しています。(承認番号:1126) 
(引用文献)
1) MIZUNO T., NISHIMURA M., AJIMI A., NISHIDATE A., Ohkoshi K. and TOKUDA K.(2014)Research related to the nursery teachers’diet instruction for autistic children with extremely unbalanced diet, The Asian Journal of Child Care, 5, 1-10. 

-「あたらしいミルクの研究」2017 年度 -

一般社団法人Jミルクと「乳の学術連合」(牛乳乳製品健康科学会議/乳の社会文化ネットワーク/牛乳食育研究会の三つの研究会で構成される学術組織)は、「乳の学術連合」で毎年度実施している乳に関する学術研究の中から、特に優れていると評価されたものを、「あたらしいミルクの研究リポート」として作成しています。

本研究リポートは、対象となる学術研究を領域の異なる研究者や専門家含め、牛乳乳製品や酪農乳業に関心のある全ての皆様に、わかりやすく要約したものになります。
なお、研究リポートに掲載されている研究内容詳細を確認する場合は、乳の学術連合公式webサイト内「学術連合の研究データベース」より研究報告書のPDFをダウンロードして閲覧可能です。あわせてご利用ください。
2018年5月22日 

ひとりひとりの「障害特性」に応じた支援で自閉症児の牛乳嫌いを改善

代表研究者
 筑波大学医学医療系 :水野智美
共同研究者
 富山大学人間発達科学部 :西館有沙
 東京未来大学こども心理学部 :西村実穂
 子ども支援研究所専任相談員 :大越和美

- 「あたらしいミルクの研究」2017 年度 - 

研究報告書は乳の学術連合のサイトに掲載しています

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我が国における牛乳乳製品の消費の維持・拡大及び酪農乳業と生活者との信頼関係の強化を図っていく観点から、牛乳乳製品の価値向上に繋がる多種多様な情報を「伝わり易く解かり易い表現」として開発し、業界関係者及び生活者に提供することを目的とした健康科学分野・社会文化分野・食育分野の専門家で構成する組織の連合体です。
乳の学術連合