「あたらしいミルクの研究」
乳製品を活用した炊き出しを通して災害時における食支援のあり方を学ぶ
地震や台風などの自然災害が多い❝災害大国❞日本。
いま求められているのが、 災害時に被災者に向けて迅速かつ適切な食支援を実行できる人材の育成です。
本研究では、管理栄養士を目指す学生たちが、災害時を想定した屋外炊き出し演習に取り組みました。
長期保存可能な乳製品を活用した献立の作成や100人分の大量調理実習などを通して、学生たちは災害時の食支援に関する知識やスキルを習得することができました。
いま求められているのが、 災害時に被災者に向けて迅速かつ適切な食支援を実行できる人材の育成です。
本研究では、管理栄養士を目指す学生たちが、災害時を想定した屋外炊き出し演習に取り組みました。
長期保存可能な乳製品を活用した献立の作成や100人分の大量調理実習などを通して、学生たちは災害時の食支援に関する知識やスキルを習得することができました。
乳製品を活用した炊き出しを通して災害時における食支援のあり方を学ぶ
研究報告「乳製品を活用した食・栄養面からの災害時対応可能な人材育成プログラムの構築とその教育効果の検証」(由田克士)をもとに作成。
大阪市立大学大学院生活科学研究科教授
由田 克士
研究報告「乳製品を活用した食・栄養面からの災害時対応可能な人材育成プログラムの構築とその教育効果の検証」(由田克士)をもとに作成。
大阪市立大学大学院生活科学研究科教授
由田 克士
災害時の食事を改善できる栄養士が必要
大規模な自然災害の発生時には、食料の供給不足による食生活の乱れや、長引く避難生活でのストレス増加などが理由となり、被災者に健康被害が生じる恐れがあります。たとえば、避難所で提供される食事は主食である炭水化物中心に偏りやすく 、乳製品、野菜、肉、 魚の摂取が不足しがちであることが報告されています1)。
一方で栄養士が献立を作成した避難所では乳製品や果物の提供回数も多いとされることから、災害時の食事は栄養士の食支援により改善される可能性があります。また、災害時にはしばしば炊き出しが行なわれますが、栄養価の高い温かい食事は被災者の心身に良い影響を及ぼすことが期待できます。
そこで本研究では、管理栄養士をめざす大学生を対象に 、災害時を想定した屋外炊き出し演習プログラムを実施し、このような教育プログラムが災害時において食支援を実行する人材の育成に有用であるかどうかを検証しました。
また、炊き出しの食材には、 LL牛乳(ロングライフミルク)や粉ミルク (育児用調製粉乳、スキムミルク)などの長期保存可能な乳製品を使用し、備蓄食糧や災害対策食としての乳製品の新たな可能性を探りました。
そこで本研究では、管理栄養士をめざす大学生を対象に 、災害時を想定した屋外炊き出し演習プログラムを実施し、このような教育プログラムが災害時において食支援を実行する人材の育成に有用であるかどうかを検証しました。
また、炊き出しの食材には、 LL牛乳(ロングライフミルク)や粉ミルク (育児用調製粉乳、スキムミルク)などの長期保存可能な乳製品を使用し、備蓄食糧や災害対策食としての乳製品の新たな可能性を探りました。
ライフステージやテーマに合わせた献立を作成
炊き出し演習を行なったのは、大阪市立大学生活科学部食品栄養科学科(管理栄養士養成課程)の4回生35名です。
プログラム期間は4月〜12月で、4月に事前アンケート調査を実施した後、学生たちは4班に分かれ、11月の炊き出し本番に向けて活動を開始しました。
5月には実際の炊き出しについて学ぶため、災害時に食の専門家として活動している日本栄養士会災害支援チーム(The Japan Dietetic Association-Disaster Assistance Team :JDA-DAT)から災害時対応のレクチャーも受けました。
1班の炊き出し対象者(ライフステージ)は「学童期・思春期」で、テーマは「カルシウム摂取」。
2班は「青年期・成人期」で「骨粗鬆症予防」、3班は 「 妊産婦・乳幼児」で「乳製品の備蓄・活用」、4班は「高齢者」で「乳製品を活用した低栄養の予防について」です。
それぞれのライフステージにふさわしい献立を考案するとともに、炊き出し時に対象者に配布するリーフレット(災害時の食や栄養に関する情報提供) の作成も進めました 。
なお、使用する食材は常温保存できるものに限定し、災害対策のフェイズ2*時の避難所における昼食を想定して、1食分の栄養量は「避難所における食事提供の計画・評価のために当面の目標とする栄養の参照量について(厚生労働省平成23年4月発出)の35% 程度を目標としました。
*フェイズ2… 応急対策期。災害発生後、概ね4日~2週間目を指す。 避難生活が続いて慢性疲労や体調不良を訴える人が増えたり、同じような食事が続くことで食欲不振になったり温かい物が食べたくなったりする時期。
プログラム期間は4月〜12月で、4月に事前アンケート調査を実施した後、学生たちは4班に分かれ、11月の炊き出し本番に向けて活動を開始しました。
5月には実際の炊き出しについて学ぶため、災害時に食の専門家として活動している日本栄養士会災害支援チーム(The Japan Dietetic Association-Disaster Assistance Team :JDA-DAT)から災害時対応のレクチャーも受けました。
1班の炊き出し対象者(ライフステージ)は「学童期・思春期」で、テーマは「カルシウム摂取」。
2班は「青年期・成人期」で「骨粗鬆症予防」、3班は 「 妊産婦・乳幼児」で「乳製品の備蓄・活用」、4班は「高齢者」で「乳製品を活用した低栄養の予防について」です。
それぞれのライフステージにふさわしい献立を考案するとともに、炊き出し時に対象者に配布するリーフレット(災害時の食や栄養に関する情報提供) の作成も進めました 。
なお、使用する食材は常温保存できるものに限定し、災害対策のフェイズ2*時の避難所における昼食を想定して、1食分の栄養量は「避難所における食事提供の計画・評価のために当面の目標とする栄養の参照量について(厚生労働省平成23年4月発出)の35% 程度を目標としました。
*フェイズ2… 応急対策期。災害発生後、概ね4日~2週間目を指す。 避難生活が続いて慢性疲労や体調不良を訴える人が増えたり、同じような食事が続くことで食欲不振になったり温かい物が食べたくなったりする時期。
牛乳・乳製品を活用した100人分の炊き出しを実施
炊き出しの実施場所は本学設置の災害ベンチです。
これはレンガ製の災害用かまどで、ふだんはベンチとして使用しています 。
各班とも本番1週間前に10人分を試作、演習当日には100人分の調理を実施しました(写真)。
炊き出しの献立と使用食材、栄養価は図1の通りで、いずれも食材に牛乳・乳製品を活用しています。
献立の工夫点は、1班が「カルシウム摂取量を上げるために、鮭の中骨と牛乳を使用」、2班が「ゆで時間を短縮するために水浸けパスタ(調理前にパスタをにつけて戻しておく方法)を使用」、 3班が「食物繊維摂取量を上げるために、さつまいもを使用」、4班が「塩分を控えるために、出汁を使わず鯖缶の汁を使用」としていました。
これはレンガ製の災害用かまどで、ふだんはベンチとして使用しています 。
各班とも本番1週間前に10人分を試作、演習当日には100人分の調理を実施しました(写真)。
炊き出しの献立と使用食材、栄養価は図1の通りで、いずれも食材に牛乳・乳製品を活用しています。
献立の工夫点は、1班が「カルシウム摂取量を上げるために、鮭の中骨と牛乳を使用」、2班が「ゆで時間を短縮するために水浸けパスタ(調理前にパスタをにつけて戻しておく方法)を使用」、 3班が「食物繊維摂取量を上げるために、さつまいもを使用」、4班が「塩分を控えるために、出汁を使わず鯖缶の汁を使用」としていました。
炊き出し演習を通して災害時の食支援に関する
さまざまな知識やスキルを習得
12月のプログラム終了時に事後アンケート調査を実施し、学生たちの災害時の食支援に関する知識が4月の事前調査と比べてどのように変化したかを調べました。
また、演習を行なった学生(教育群)の比較対照として、別の公立大学の管理栄養士養成課程に通う4回生(A大学大学・35名、B大学・25名、C大学・40名、D大学・40名)にも、同時期に同様のアンケート調査を行ないました。
その結果、「避難所における栄養の参照量を知っていますか?」の問いに「知っている」と回答した数が、教育群では事前調査の9名(27.3%)から事後調査では21名(65.7%)と増加しました(図2)。
また、「東日本大震災において、日本で初めて自治体の管理栄養士等が被災地へ派遣されたことを知っていますか?」という問いに「知っている」と回答した数は、教育群で事前調査の7名(21.2%)から事後調査では24名(75.0%)に増加しました。
一方、他大学の学生ではどちらの問いも事前と事後で大きな変化は認められませんでした。
他の質問項目でも概ね同様の傾向が見られたことから、教育群では炊き出し演習によって災害時の食支援に関する知識を深めた学生が多いことがわかりました。
また、災害時に乳製品を活用する意義とスキルに関しては、教育群の70%〜80%が「意義を理解して、そのスキルを習得できた」と回答していました。
このように、今回の炊き出し演習プログラムを通して、管理栄養士を目指す学生たちはその多くが災害時の食支援に関するさまざまな知識やスキルを習得することができました。
また災害時において乳製品を活用する意義への理解が深まり、献立展開などの活用法も十分に考えて調理を実行できたことから、プログラムの教育効果が認められたといえます。
今後も検証を重ねて本プログラムを発展させ、災害時の食支援に貢献できる人材の輩出を目指したいと考えます。
また、演習を行なった学生(教育群)の比較対照として、別の公立大学の管理栄養士養成課程に通う4回生(A大学大学・35名、B大学・25名、C大学・40名、D大学・40名)にも、同時期に同様のアンケート調査を行ないました。
その結果、「避難所における栄養の参照量を知っていますか?」の問いに「知っている」と回答した数が、教育群では事前調査の9名(27.3%)から事後調査では21名(65.7%)と増加しました(図2)。
また、「東日本大震災において、日本で初めて自治体の管理栄養士等が被災地へ派遣されたことを知っていますか?」という問いに「知っている」と回答した数は、教育群で事前調査の7名(21.2%)から事後調査では24名(75.0%)に増加しました。
一方、他大学の学生ではどちらの問いも事前と事後で大きな変化は認められませんでした。
他の質問項目でも概ね同様の傾向が見られたことから、教育群では炊き出し演習によって災害時の食支援に関する知識を深めた学生が多いことがわかりました。
また、災害時に乳製品を活用する意義とスキルに関しては、教育群の70%〜80%が「意義を理解して、そのスキルを習得できた」と回答していました。
このように、今回の炊き出し演習プログラムを通して、管理栄養士を目指す学生たちはその多くが災害時の食支援に関するさまざまな知識やスキルを習得することができました。
また災害時において乳製品を活用する意義への理解が深まり、献立展開などの活用法も十分に考えて調理を実行できたことから、プログラムの教育効果が認められたといえます。
今後も検証を重ねて本プログラムを発展させ、災害時の食支援に貢献できる人材の輩出を目指したいと考えます。
●文献
1)原田萌香 , 瀧沢あす香 , 岡純 , 笠岡(坪山)宜代 . 東日本大震災の避難所における食事提供体制と食事内容に関する研究 . 日本公衆衛生雑誌 . 2017;64(9)547-555.
1)原田萌香 , 瀧沢あす香 , 岡純 , 笠岡(坪山)宜代 . 東日本大震災の避難所における食事提供体制と食事内容に関する研究 . 日本公衆衛生雑誌 . 2017;64(9)547-555.
「あたらしいミルクの研究」
一般社団法人Jミルクと「乳の学術連合」(牛乳乳製品健康科学会議/乳の社会文化ネットワーク/牛乳食育研究会の三つの研究会で構成される学術組織)は、「乳の学術連合」で毎年度実施している乳に関する学術研究の中から、特に優れていると評価されたものを、「あたらしいミルクの研究リポート」として作成しています。
本研究リポートは、対象となる学術研究を領域の異なる研究者や専門家含め、牛乳乳製品や酪農乳業に関心のある全ての皆様に、わかりやすく要約したものになります。
なお、研究リポートに掲載されている研究内容詳細を確認する場合は、乳の学術連合公式webサイト内「学術連合の研究データベース」より研究報告書のPDFをダウンロードして閲覧可能です。あわせてご利用ください。
本研究リポートは、対象となる学術研究を領域の異なる研究者や専門家含め、牛乳乳製品や酪農乳業に関心のある全ての皆様に、わかりやすく要約したものになります。
なお、研究リポートに掲載されている研究内容詳細を確認する場合は、乳の学術連合公式webサイト内「学術連合の研究データベース」より研究報告書のPDFをダウンロードして閲覧可能です。あわせてご利用ください。
研究報告書は乳の学術連合のサイトに掲載しています
研究の詳細は、こちらをご覧ください。
乳製品を活用した食・栄養面からの災害時対応可能な人材育成プログラムの構築とその教育効果の検証
乳製品を活用した食・栄養面からの災害時対応可能な人材育成プログラムの構築とその教育効果の検証
乳の学術連合のサイトはこちら
我が国における牛乳乳製品の消費の維持・拡大及び酪農乳業と生活者との信頼関係の強化を図っていく観点から、牛乳乳製品の価値向上に繋がる多種多様な情報を「伝わり易く解かり易い表現」として開発し、業界関係者及び生活者に提供することを目的とした健康科学分野・社会文化分野・食育分野の専門家で構成する組織の連合体です。
乳の学術連合
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