牛乳・乳製品を毎日摂取する習慣が高齢者のフレイル、サルコペニア予防に役立つ

「あたらしいミルクの研究」2018年度

牛乳・乳製品を毎日摂取する習慣が高齢者のフレイル、サルコペニア予防に役立つ

東京都健康長寿医療センター研究所 成田美紀
研究報告「高齢者の牛乳・乳製品摂取及び食品摂取の多様性とフレイル・サルコペニアの予防に関する研究」(成田美紀)をもとに作成。

最近、高齢者の健康問題としてよく耳にする「フレイル」や「サルコペニア」という言葉。フレイルとは、加齢によって身体機能や認知機能が低下した“虚弱”の状態、サルコペニアは筋肉量が減少した状態をいいます。

いずれも低栄養が大きな原因となりますが、カルシウムやたんぱく質などの栄養をバランスよく含む牛乳・乳製品を日常的に摂ることは、はたして高齢者のフレイルやサルコペニアの予防に有効でしょうか。

2つの地域における高齢者810名が対象

高齢者における骨量や筋肉量の減少はフレイルやサルコペニアの発症につながるとされ、予防のためには適切な栄養の摂取が重要です。

私たちの研究では、牛乳・乳製品を毎日摂取する習慣に加え、日頃から多くの食品を食事に取り入れることが、フレイルやサルコペニアの予防に役立つ可能性が明らかになりました。

研究の対象は、地域住民の老化・虚弱に関する調査として2001年より継続実施中の「鳩山コホート研究1)」(埼玉県鳩山町)および「草津町研究2)」(群馬県草津町)の登録者のうち、鳩山町2012年調査、草津町2013年調査に参加した70歳以上の高齢者810名です(鳩山405名、草津405名)。これらの高齢者における牛乳・乳製品とその他の食品の摂取状況を調べ、それがフレイルやサルコペニアの有無とどのような関連性にあるかを検討しました。

食品摂取状況の調査には自己記入式の食事質問票(簡易型自記式食事歴法質問票:BDHQ)を用い、習慣的な食品摂取量や栄養素摂取量を算出しました。また、身体計測や血液検査のほか、体力や認知機能の測定、生活習慣を把握するための面接調査も行ない、追跡調査で4年後までのデータを収集しました。

普通乳を毎日1杯飲む人は筋骨関連の栄養素が充足

牛乳・乳製品の習慣的な摂取頻度については、コップ1杯程度の牛乳やヨーグルトを「毎日1回以上摂取」「毎日1回未満摂取」「摂取しない」の3群に分類し、乳脂肪量(低脂肪あるいは普通・高脂肪)も考慮して各群の栄養学的特徴を調べました。その結果、普通乳または高脂肪乳を毎日コップ1杯以上摂取する人は、普段摂取しない人に比べて、総エネルギー摂取量が高く、体重1kg当たりのたんぱく質量も有意に多くなり、エネルギー比率ではたんぱく質比や脂質比が高い一方で炭水化物比が低く、さらに微量栄養素量ではカルシウム量が多いという特徴が見られました。食品摂取多様性スコア*も有意に高値でした。このように、普通乳・高脂肪乳の摂取頻度が高い人の食事は、筋肉や骨に必要な栄養素を充足できる内容であることが確認されました。

*魚介類、肉類、卵、牛乳、大豆製品、緑黄色野菜、海草類、いも類、果物、油脂類の各食品群に対して、「ほぼ毎日食べる」場合を1点とし、1日10点満点で1週間の合計点を算出しました。
  • 多重ロジスティック回帰分析を使用〔性、年齢、対象地域、総エネルギー摂取量、BMI、生活習慣(飲酒、喫煙および運動の習慣)、食品摂取の多様性スコア(牛乳の摂取頻度以外)、既往症(脊椎系疾患、骨粗鬆症の有無)について調整した〕
    ※フレイルの判定にはJ-CHS基準を用いた。

牛乳・乳製品に加え、多様な食品を摂取するとフレイルになりにくい

フレイルに対しては、牛乳・乳製品の摂取量と食品多様性が有意な関連を示しました。総エネルギー摂取量1000kcal当たりの牛乳・乳製品の摂取量を、低摂取群(67.77g以下/1000kcal)、中摂取群(67.78g〜105.20g/1000kcal)、高摂取群(105.21g以上/1000kcal)の3群に分類し、フレイルの有無に関して多変量解析を行なったところ(表1)、高摂取群のフレイル保有リスク(多変量調整オッズ比)は、低摂取群の1.0に対し、0.37と有意に低くなりました。また、食品摂取の多様性群のフレイル保有リスクは0.71でした。

この結果からは、牛乳・乳製品の摂取量が多い人や多様な食品を摂取している人では、牛乳・乳製品の摂取量が少ない人よりもフレイルの罹患者が少ないということが示唆されます。

1日1杯の牛乳摂取はサルコペニア罹患に防御的

一方、サルコペニアに対しては、牛乳・乳製品の摂取頻度や摂取量が有意な関連を示しました。普通乳または高脂肪乳の摂取頻度とサルコペニアの有無に関して多変量解析を行なったところ、毎日1回以上摂取する群のサルコペニア保有リスク(多変量調整オッズ比)は、摂取しない群の1.0に対して0.41を示し、有意に低くなりました。

さらに、牛乳・乳製品の摂取量とサルコペニアの有無に関して多変量解析を行なったところ(表2)、高摂取群のサルコペニア保有リスク(多変量調整オッズ比)は、低摂取群の1.0に対して0.42を示し、有意に低くなりました。これらの結果からは、普通乳または高脂肪乳を毎日コップ1杯以上摂取する人、もしくは牛乳・乳製品の摂取量が多い人では、普段摂取しない人や摂取量の少ない人に比べて、サルコペニアの罹患者が少ないということがいえます。

以上のように、牛乳・乳製品を習慣的に摂取する人にサルコペニアが少なく、加えて日頃から多様な食品摂取を心がけている人はフレイルになっている人が少ないことが明らかになりました。フレイルやサルコペニアの予防に必要な対策として、高齢者の低栄養予防の観点から、牛乳・乳製品をはじめ、多様な食品をバランスよく摂取する習慣が重要だと考えられます。
  • 多重ロジスティック回帰分析を使用〔性、年齢、対象地域、総エネルギー摂取量、BMI、生活習慣(飲酒、喫煙および運動の習慣)、食品摂取の多様性スコア(牛乳の摂取頻度以外)、既往症(脊椎系疾患、骨粗鬆症の有無)について調整した〕
    ※サルコペニアの診断にはAWGSの診断基準を用いた。

文献

1) Murayama H, Nishi M, Shimizu Y, Kim MJ, Yoshida H, Amano H, Fujiwara Y, Shinkai S: The Hatoyama Cohort Study: design and profile of participants at baseline. J Epidemiol. 2012;22:551-558.
2) 新開省二,吉田裕人,藤原佳典,天野秀紀,深谷太郎,李相侖,渡辺直紀,渡辺修一郎,熊谷修,西真理子,村山洋史,谷口優,小宇佐陽子,大場宏美, 清水由美子,野藤悠,岡部たづる,千川なつみ,土屋由美子:群馬県草津町における介護予防10年間の歩みと成果.日本公衆衛生雑誌. 2013;60(9):596-605.

-「あたらしいミルクの研究」2018年度 -

一般社団法人Jミルクと「乳の学術連合」(牛乳乳製品健康科学会議/乳の社会文化ネットワーク/牛乳食育研究会の三つの研究会で構成される学術組織)は、「乳の学術連合」で毎年度実施している乳に関する学術研究の中から、特に優れていると評価されたものを、「あたらしいミルクの研究リポート」として作成しています。

本研究リポートは、対象となる学術研究を領域の異なる研究者や専門家含め、牛乳乳製品や酪農乳業に関心のある全ての皆様に、わかりやすく要約したものになります。
なお、研究リポートに掲載されている研究内容詳細を確認する場合は、乳の学術連合公式webサイト内「学術連合の研究データベース」より研究報告書のPDFをダウンロードして閲覧可能です。あわせてご利用ください。 

乳の学術連合のサイトはこちら

我が国における牛乳乳製品の消費の維持・拡大及び酪農乳業と生活者との信頼関係の強化を図っていく観点から、牛乳乳製品の価値向上に繋がる多種多様な情報を「伝わり易く解かり易い表現」として開発し、業界関係者及び生活者に提供することを目的とした健康科学分野・社会文化分野・食育分野の専門家で構成する組織の連合体です。

乳の学術連合