「あたらしいミルクの研究」2018年度
牛乳・乳製品の摂取と適度な運動は、質の良い睡眠と高い仕事パフォーマンスにつながる
公益財団法人明治安田厚生事業団 体力医学研究所 北濃成樹
研究報告「勤労者の快眠・就労支援を目的とした牛乳乳製品摂取と身体活動の在り方の追究:疫学的検討」(北濃成樹)をもとに作成。
働く人にとって、質の良い睡眠をとることはとても大切です。
睡眠の質が悪いと、心身の健康を害するだけでなく、仕事のパフォーマンスも低下する可能性があるからです。
そこで、昔から安眠のための飲み物として知られる牛乳に注目。
「牛乳・乳製品の摂取」、「運動」という2つの生活習慣が、睡眠の質と仕事のパフォーマンスにどのような影響を及ぼすか、1000人以上の勤労者のデータを分析した大規模研究です。
研究報告「勤労者の快眠・就労支援を目的とした牛乳乳製品摂取と身体活動の在り方の追究:疫学的検討」(北濃成樹)をもとに作成。
働く人にとって、質の良い睡眠をとることはとても大切です。
睡眠の質が悪いと、心身の健康を害するだけでなく、仕事のパフォーマンスも低下する可能性があるからです。
そこで、昔から安眠のための飲み物として知られる牛乳に注目。
「牛乳・乳製品の摂取」、「運動」という2つの生活習慣が、睡眠の質と仕事のパフォーマンスにどのような影響を及ぼすか、1000人以上の勤労者のデータを分析した大規模研究です。
日本の勤労者の半数以上が睡眠に問題あり!?
現在、日本の勤労者の2、3人に1人は、仕事量や職場の人間関係などの理由から睡眠に何らかの問題を抱えているといわれています1,2)。そうした勤労者の睡眠の質の低下は、出勤はしているものの業務の遂行能力に支障をきたしている状態ープレゼンティーズムーにつながるため3)、社会的にも問題となっています。そこで、勤労者が良好な睡眠を保持しつつ、仕事で高い能力を発揮するための生活習慣を見出すため、勤労者の日常生活における「牛乳・乳製品(以下、乳類)の摂取量」と「運動量」が、「睡眠の質」および「労働生産性」にどのように関連するかを1372例の調査データに基づいて分析しました。
その結果、乳類を2日に1回以上摂取し、かつ1日に歩行にして7000〜8000歩程度の適度な運動をするという生活習慣により、良質な睡眠が得られ、仕事のパフォーマンスも向上する可能性が示されました。
なお、乳類は古くから他の食品以上に睡眠の質を高める食品だと考えられてきましたが、その理由として、睡眠促進ホルモンと呼ばれるメラトニンを体内で生成するために必要な必須アミノ酸のトリプトファンや、鎮静作用のあるカルシウムを多く含んでいることが挙げられます。
その結果、乳類を2日に1回以上摂取し、かつ1日に歩行にして7000〜8000歩程度の適度な運動をするという生活習慣により、良質な睡眠が得られ、仕事のパフォーマンスも向上する可能性が示されました。
なお、乳類は古くから他の食品以上に睡眠の質を高める食品だと考えられてきましたが、その理由として、睡眠促進ホルモンと呼ばれるメラトニンを体内で生成するために必要な必須アミノ酸のトリプトファンや、鎮静作用のあるカルシウムを多く含んでいることが挙げられます。
勤労者1372名を対象に大規模調査を実施
調査対象となったのは、2017年に都内健診施設を受診した勤労者1372名です。乳類の摂取状況や睡眠の質、プレゼンティーズムの有無については自己記入質問紙の回答を分析データとし、運動量については加速度計により測定した1日の歩数を分析に用いました。加速度計は最低4日間、睡眠時や入浴時を除いて1日中装着します。
乳類摂取状況は、牛乳および牛乳以外の乳製品(チーズやヨーグルトなど)のそれぞれについて、日常生活における平均的な摂取頻度を「①ほとんど食べない、②1週間に数回、③2日に1回、④1日に1回、⑤1日に2回、⑥1日に3回以上」の6択で回答を求めた後、両食品の摂取頻度を加算したものを乳類摂取頻度としてまとめ、「ほとんど食べない/1週間に数回、2日に1回、1日に1回、1日に2回以上」の4群に分類しました。
睡眠の質は、「自分の睡眠の質を全体としてどう評価しますか?」という問いに対し、「①非常に良い、②やや良い、③やや悪い、④非常に悪い」の回答を求めた後、①と②を良好、③と④を不良な睡眠の質と定義しました*。
プレゼンティーズムの有無については、「0があなたの仕事において誰でも達成できるような仕事のパフォーマンス、10がもっとも優れた勤務者のパフォーマンスとした0から10までの尺度上で、過去4週間(28日間)の間の勤務日におけるあなたの総合的なパフォーマンスをどのように評価しますか?」という問いに対する回答を求めました。そして、「問いの回答×10(%)」を絶対的プレゼンティーズムとし、40%以下をプレゼンティーズム有りと定義しました4)**。
その他、年齢、性、body mass index(BMI)、職種、1週間の残業時間、教育年数、主観的経済状況、主観的健康感などを調査し、これらの因子の影響を除外した上で、「乳類摂取頻度と1日の歩数の組み合わせと睡眠の質の関連性」、「睡眠の質とプレゼンティーズムの関連性」について分析を行ないました。
*質問はピッツバーグ睡眠質問票Pittsburgh Sleep Quality Index5)日本語版より。
**質問は世界保健機関による健康と労働パフォーマンスに関する質問票World Health Organization Health and Work Performance Questionnaire6)より。
乳類の摂取と適度な運動は相乗効果で睡眠に寄与
分析の結果、乳類摂取頻度が2日に1回以上かつ1日の歩数が7298〜8025歩の人は、乳類摂取頻度が1週間に数回以下かつ8025歩以下の人に比較して睡眠の質が不良である可能性が有意に低くなりました(表1)。つまり、乳類摂取頻度が2日に1回以上かつ1日の歩数が7298〜8205歩の人は、良好な睡眠の質を保てる可能性が高いということになります。また、乳類摂取頻度が2日に1回以上でも歩数が1日7297歩以下の場合は、良好な睡眠の質との関連性は認められませんでした。乳類摂取量と運動量の双方を適切に組み合わせることで、相加・相乗的な効果が得られると考えられます。
さらに睡眠とプレゼンティーズムの関連性を見ると、睡眠の質が不良な勤労者は、良好な人に比べてプレゼンティーズムが生じている可能性が有意に高くなりました(表2)。したがって、良好な睡眠の維持はプレゼンティーズムの防止につながると考えられます。
以上のように、日常生活において勤労者が乳類摂取量や運動量を適切に保つことは、良質な睡眠を介して、仕事のパフォーマンスの最適化につながる可能性が示されました。
以上のように、日常生活において勤労者が乳類摂取量や運動量を適切に保つことは、良質な睡眠を介して、仕事のパフォーマンスの最適化につながる可能性が示されました。
文献
1) Nakata, A. Work hours, sleep sufficiency, and prevalence of depression among full-time employees: a community-based cross-sectional study. The Journal of clinical psychiatry 2011, 72, 605.
2) Doi, Y. An epidemiologic review on occupational sleep research among Japanese workers. Industrial health 2005, 43 (1), 3.
3) Kucharczyk, E. R.; Morgan, K.; Hall, A. P. The occupational impact of sleep quality and insomnia symptoms. Sleep Med Rev 2012, 16 (6), 547.
4) Suzuki, T.; Miyaki, K.; Sasaki, Y.; Song, Y.; Tsutsumi, A.; Kawakami, N.; Shimazu, A.; Takahashi, M.; Inoue, A.; Kurioka, S.et al. Optimal cutoff values of WHO-HPQ presenteeism scores by ROC analysis for preventing mental sickness absence in Japanese prospective cohort. PLoS One 2014, 9 (10), e111191.
5) Doi, Y.; Minowa, M.; Uchiyama, M.; Okawa, M.; Kim, K.; Shibui, K.; Kamei, Y. Psychometric assessment of subjective sleep quality using the Japanese version of the Pittsburgh Sleep Quality Index (PSQI-J) in psychiatric disordered and control subjects. Psychiatry research 2000, 97, 165.
6) Kessler, R. C.; Barber, C.; Beck, A.; Berglund, P.; Cleary, P. D.; McKenas, D.; Pronk, N.; Simon, G.; Stang, P.; Ustun, T. B.et al. The World Health Organization Health and Work Performance Questionnaire (HPQ). J Occup Environ Med 2003, 45 (2), 156.
-「あたらしいミルクの研究」2018年度 -
一般社団法人Jミルクと「乳の学術連合」(牛乳乳製品健康科学会議/乳の社会文化ネットワーク/牛乳食育研究会の三つの研究会で構成される学術組織)は、「乳の学術連合」で毎年度実施している乳に関する学術研究の中から、特に優れていると評価されたものを、「あたらしいミルクの研究リポート」として作成しています。
本研究リポートは、対象となる学術研究を領域の異なる研究者や専門家含め、牛乳乳製品や酪農乳業に関心のある全ての皆様に、わかりやすく要約したものになります。
なお、研究リポートに掲載されている研究内容詳細を確認する場合は、乳の学術連合公式webサイト内「学術連合の研究データベース」より研究報告書のPDFをダウンロードして閲覧可能です。あわせてご利用ください。
本研究リポートは、対象となる学術研究を領域の異なる研究者や専門家含め、牛乳乳製品や酪農乳業に関心のある全ての皆様に、わかりやすく要約したものになります。
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我が国における牛乳乳製品の消費の維持・拡大及び酪農乳業と生活者との信頼関係の強化を図っていく観点から、牛乳乳製品の価値向上に繋がる多種多様な情報を「伝わり易く解かり易い表現」として開発し、業界関係者及び生活者に提供することを目的とした健康科学分野・社会文化分野・食育分野の専門家で構成する組織の連合体です。
乳の学術連合
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