「あたらしいミルクの研究」2017 年度
日常的な牛乳摂取と身体活動が筋肉量増加と筋機能向上に役立つか?
近畿大学医学部公衆衛生学:立木隆広
牛乳・乳製品の日常的な摂取と運動が、筋肉量や筋機能(筋力、身体能力)にどのような影響を及ぼすのか解明したところ、身体活動量が「多い」者では、日常的な牛乳摂取が身体能力の向上を増強させることがわかりました。
つまり、日常的に牛乳を摂取することで身体能力が低下することを予防するためには、一定レベルを超える身体活動量を日常生活で保つことが必要である可能性が示されました。
牛乳・乳製品の日常的な摂取と運動が、筋肉量や筋機能(筋力、身体能力)にどのような影響を及ぼすのか解明したところ、身体活動量が「多い」者では、日常的な牛乳摂取が身体能力の向上を増強させることがわかりました。
つまり、日常的に牛乳を摂取することで身体能力が低下することを予防するためには、一定レベルを超える身体活動量を日常生活で保つことが必要である可能性が示されました。
栄養と運動の介入でサルコペニアを予防
超高齢社会となった日本は、様々な健康問題を抱えています。そのひとつにサルコペニアがあり、近年、健康問題として浮上してきました。サルコペニアとは、加齢や疾患により全身の筋肉量が減少し、筋機能(筋力、身体能力)が低下することを言います。予防のための対策としては、現在、薬物療法や栄養・運動介入がありますが、一般的には栄養や運動の介入が推奨されています。
栄養介入のひとつとして有効性が期待されるのが牛乳・乳製品摂取です。筋肉量や筋機能の維持向上に、牛乳・乳製品摂取が有効であることが報告されています1-3)。
一方、運動介入としては、筋力トレーニングで全身の筋肉量や筋力を増加させることに効果的であると報告されています4)。さらに筋力トレーニングに乳清タンパク質の摂取を取り入れることで筋肉量が増強されること5) や、筋力を維持向上するために効果があること6) も報告されています。ちなみに乳清たんぱく質とは、チーズを作る際に副作物として大量に作られるホエイ(乳清)に含まれるたんぱく質のことです。
このように筋肉量や筋機能を維持向上させるためには、牛乳・乳製品を摂取し、筋力トレーニングなど運動を行う複合的な介入が効果を上げるとされています。しかし、このような効果は短期間の介入試験で得られた結果であり、日常の牛乳・乳製品摂取と運動が筋肉量、筋機能にどのような効果を及ぼすかは明らかではありませんでした。
そこで本研究では、地域在住の日本人女性を無作為に抽出して作成したコホート研究であるJapanese Population-basedOsteoporosis (JPOS) Cohort Study7) において、日常的に摂取する牛乳の量が運動による筋肉量および筋機能(筋力、身体能力)の向上を増強するかどうか明らかにすることを目的にしました。
栄養介入のひとつとして有効性が期待されるのが牛乳・乳製品摂取です。筋肉量や筋機能の維持向上に、牛乳・乳製品摂取が有効であることが報告されています1-3)。
一方、運動介入としては、筋力トレーニングで全身の筋肉量や筋力を増加させることに効果的であると報告されています4)。さらに筋力トレーニングに乳清タンパク質の摂取を取り入れることで筋肉量が増強されること5) や、筋力を維持向上するために効果があること6) も報告されています。ちなみに乳清たんぱく質とは、チーズを作る際に副作物として大量に作られるホエイ(乳清)に含まれるたんぱく質のことです。
このように筋肉量や筋機能を維持向上させるためには、牛乳・乳製品を摂取し、筋力トレーニングなど運動を行う複合的な介入が効果を上げるとされています。しかし、このような効果は短期間の介入試験で得られた結果であり、日常の牛乳・乳製品摂取と運動が筋肉量、筋機能にどのような効果を及ぼすかは明らかではありませんでした。
そこで本研究では、地域在住の日本人女性を無作為に抽出して作成したコホート研究であるJapanese Population-basedOsteoporosis (JPOS) Cohort Study7) において、日常的に摂取する牛乳の量が運動による筋肉量および筋機能(筋力、身体能力)の向上を増強するかどうか明らかにすることを目的にしました。
日本では数少ない大規模調査を実施
JPOS Cohort Study7) は、1996年に全国の7市町で無作為に抽出された15~79歳の地域在住の女性4,550人を対象に開始されました。これまで15年の追跡調査を完遂し、骨密度、既往歴、生活歴、骨折歴、食事、牛乳摂取量、体格、筋力、血液データ等を把握。骨粗鬆症とそれによる骨折を予防し、高齢者の高い生活の質(QOL)の維持と健康寿命の延伸に貢献する多数の成果を挙げてきました。さらに2011、2012年の15年次調査では、JPOS Cohort Study 対象地域の内4市町にて、新たに筋肉量、筋機能(筋力、身体能力)測定を行いました。合わせて、対象者が身につけて動くだけで身体活動量がわかる3軸活動量計という測定器を使って身体活動量の測定も行いました。これによりサルコペニアに関する研究を多角的に遂行する基盤が整った、日本では数少ない大規模で前向きなコホート研究となりました。今回は、20年次追跡調査を15年次追跡調査と同様の内容で実施し、牛乳摂取量と身体活動量が、5年間の筋肉量と筋機能(筋力、身体能力)の変化に与える複合的な影響を検討することにしました。
495人を対象に筋肉量、筋機能5年間の変化を調査
対象地域はJPOS Cohort Study の対象地域内で、15年次調査と20年次調査が行われた香川県さぬき市、福島県西会津町、新潟県上越市としました。対象者はJPOSCohort Study 初回調査に参加し、15年次調査の時点で追跡調査が可能な50歳以上の者1154人としました。このうち、15年次調査で牛乳摂取量、身体活動量、筋肉量、筋機能(筋力、身体能力)、20年次調査でも筋肉量、筋機能(筋力、身体能力)を測定した50歳以上の女性495人を解析対象としました。
はじめに対象者を身体活動量で三分位に分けました。三分位は、3軸活動量計で測定した身体活動量の小さい群から「第1分位」「第2分位」「第3分位」としました。次に三分位を牛乳摂取量で3群に分け、「ほとんど牛乳を摂取しない」「1日にコップ1杯(200 ml)未満摂取する」「1日にコップ一杯以上摂取する」とし、筋肉量、筋機能(筋力、身体能力)の変化をそれぞれ評価しました。評価の指標は、筋肉量は「四肢の除脂肪軟部組織量を身長の2乗で割った値」、筋力は「握力」、身体能力は「最大努力歩行速度」としました。
なお、解析対象者495人の15年次調査時の身体特性を表1に示しました。筋肉量の指標とした「四肢の除脂肪軟部組織量を身長の2乗で割った値」は5.96kg/㎡で、アジア人のサルコペニアの診断基準である5.40 kg/㎡を上回っていました。筋力の指標とした「握力」も22.3kg で、こちらもアジア人のサルコぺ二の診断基準である18.0 kgを上回っていました。
はじめに対象者を身体活動量で三分位に分けました。三分位は、3軸活動量計で測定した身体活動量の小さい群から「第1分位」「第2分位」「第3分位」としました。次に三分位を牛乳摂取量で3群に分け、「ほとんど牛乳を摂取しない」「1日にコップ1杯(200 ml)未満摂取する」「1日にコップ一杯以上摂取する」とし、筋肉量、筋機能(筋力、身体能力)の変化をそれぞれ評価しました。評価の指標は、筋肉量は「四肢の除脂肪軟部組織量を身長の2乗で割った値」、筋力は「握力」、身体能力は「最大努力歩行速度」としました。
なお、解析対象者495人の15年次調査時の身体特性を表1に示しました。筋肉量の指標とした「四肢の除脂肪軟部組織量を身長の2乗で割った値」は5.96kg/㎡で、アジア人のサルコペニアの診断基準である5.40 kg/㎡を上回っていました。筋力の指標とした「握力」も22.3kg で、こちらもアジア人のサルコぺ二の診断基準である18.0 kgを上回っていました。
一定レベル以上の身体活動量により効果
調査の結果、まずは15年次調査時の身体活動量で分けた三分位のみで調べたところ、20年次までの5年間の筋肉量は三分位全てにおいて低下していました。反面、筋力と身体能力は低下していませんでした。
次に15年次調査時の身体活動量で分けた三分位をさらに15年次調査時の牛乳摂取量で3群に分け、筋肉量の平均値を比較しました。年齢と摂取エネルギー量の影響を調整した結果、身体活動量の「第2分位」および「第3分位」群において、「牛乳を1日にコップ1杯以上飲む」群は他の群より筋肉量の減少が少ない傾向にありました。
続いて筋力の指標である「握力」の平均値を、年齢の影響を調整して分析しました。こちらは身体活動量の三分位全てにおいて牛乳摂取量に関わらず、握力の変化に差はありませんでした。
最後に身体能力の指標である「最大努力歩行速度」を、やはり年齢の影響を調整して平均値を解析しました。こちらは身体活動量の「第3分位」で、「ほとんど牛乳を摂取しない群」から「牛乳を1日にコップ1杯以上飲む」群にかけて最大努力歩行速度の平均値が増加する傾向を示しました。この結果から、牛乳摂取量の増加が歩行速度低下の予防に効果を与えるためには、日常生活での身体活動量がある一定レベルを超える必要があることが示唆されました。つまり、日常的な牛乳摂取による効果的な身体能力の低下の予防には、一定レベルを超える身体活動量を日常的に保つ必要があるかもしれないと考えられます。
次に15年次調査時の身体活動量で分けた三分位をさらに15年次調査時の牛乳摂取量で3群に分け、筋肉量の平均値を比較しました。年齢と摂取エネルギー量の影響を調整した結果、身体活動量の「第2分位」および「第3分位」群において、「牛乳を1日にコップ1杯以上飲む」群は他の群より筋肉量の減少が少ない傾向にありました。
続いて筋力の指標である「握力」の平均値を、年齢の影響を調整して分析しました。こちらは身体活動量の三分位全てにおいて牛乳摂取量に関わらず、握力の変化に差はありませんでした。
最後に身体能力の指標である「最大努力歩行速度」を、やはり年齢の影響を調整して平均値を解析しました。こちらは身体活動量の「第3分位」で、「ほとんど牛乳を摂取しない群」から「牛乳を1日にコップ1杯以上飲む」群にかけて最大努力歩行速度の平均値が増加する傾向を示しました。この結果から、牛乳摂取量の増加が歩行速度低下の予防に効果を与えるためには、日常生活での身体活動量がある一定レベルを超える必要があることが示唆されました。つまり、日常的な牛乳摂取による効果的な身体能力の低下の予防には、一定レベルを超える身体活動量を日常的に保つ必要があるかもしれないと考えられます。
(文献)
1) Zemel, M.B., et al., Effects of calcium and dairy on body composition and weight loss in African-American adults. Obes Res, 2005. 13(7): p. 1218-25.
2) Abargouei, A.S., et al., Effect of dairy consumption on weight and body composition in adults: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled clinical trials. Int J Obes (Lond), 2012. 36(12): p. 1485-93.
3) Radavelli-Bagatini, S., et al., Association of dairy intake with body composition and physical function in older community-dwelling women. J Acad Nutr Diet, 2013. 113(12): p. 1669-74.
4) Binder, E.F., et al., Effects of progressive resistance training on body composition in frail older adults: results of a randomized, controlled trial. J Gerontol A Biol Sci Med Sci, 2005. 60(11): p. 1425-31.
5) Hayes, A. and P.J. Cribb, Effect of whey protein isolate on strength, body composition and muscle hypertrophy during resistance training. Curr Opin Clin Nutr Metab Care, 2008. 11(1): p. 40-4.
6) Cooke, M.B., et al., Whey protein isolate attenuates strength decline after eccentrically-induced muscle damage in healthy individuals. J Int Soc Sports Nutr, 2010. 7: p. 30.
7) Iki, M., et al., Cohort Profile: The Japanese Population-based Osteoporosis (JPOS) Cohort Study. Int J Epidemiol, 2015. 44(2): p. 405-14.
1) Zemel, M.B., et al., Effects of calcium and dairy on body composition and weight loss in African-American adults. Obes Res, 2005. 13(7): p. 1218-25.
2) Abargouei, A.S., et al., Effect of dairy consumption on weight and body composition in adults: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled clinical trials. Int J Obes (Lond), 2012. 36(12): p. 1485-93.
3) Radavelli-Bagatini, S., et al., Association of dairy intake with body composition and physical function in older community-dwelling women. J Acad Nutr Diet, 2013. 113(12): p. 1669-74.
4) Binder, E.F., et al., Effects of progressive resistance training on body composition in frail older adults: results of a randomized, controlled trial. J Gerontol A Biol Sci Med Sci, 2005. 60(11): p. 1425-31.
5) Hayes, A. and P.J. Cribb, Effect of whey protein isolate on strength, body composition and muscle hypertrophy during resistance training. Curr Opin Clin Nutr Metab Care, 2008. 11(1): p. 40-4.
6) Cooke, M.B., et al., Whey protein isolate attenuates strength decline after eccentrically-induced muscle damage in healthy individuals. J Int Soc Sports Nutr, 2010. 7: p. 30.
7) Iki, M., et al., Cohort Profile: The Japanese Population-based Osteoporosis (JPOS) Cohort Study. Int J Epidemiol, 2015. 44(2): p. 405-14.
-「あたらしいミルクの研究」2017 年度 -
一般社団法人Jミルクと「乳の学術連合」(牛乳乳製品健康科学会議/乳の社会文化ネットワーク/牛乳食育研究会の三つの研究会で構成される学術組織)は、「乳の学術連合」で毎年度実施している乳に関する学術研究の中から、特に優れていると評価されたものを、「あたらしいミルクの研究リポート」として作成しています。
本研究リポートは、対象となる学術研究を領域の異なる研究者や専門家含め、牛乳乳製品や酪農乳業に関心のある全ての皆様に、わかりやすく要約したものになります。
なお、研究リポートに掲載されている研究内容詳細を確認する場合は、乳の学術連合公式webサイト内「学術連合の研究データベース」より研究報告書のPDFをダウンロードして閲覧可能です。あわせてご利用ください。
本研究リポートは、対象となる学術研究を領域の異なる研究者や専門家含め、牛乳乳製品や酪農乳業に関心のある全ての皆様に、わかりやすく要約したものになります。
なお、研究リポートに掲載されている研究内容詳細を確認する場合は、乳の学術連合公式webサイト内「学術連合の研究データベース」より研究報告書のPDFをダウンロードして閲覧可能です。あわせてご利用ください。
2018年5月22日
日常的な牛乳摂取と身体活動が筋肉量増加と筋機能向上に役立つか?
近畿大学医学部公衆衛生学:立木隆広
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研究報告書は乳の学術連合のサイトに掲載しています
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我が国における牛乳乳製品の消費の維持・拡大及び酪農乳業と生活者との信頼関係の強化を図っていく観点から、牛乳乳製品の価値向上に繋がる多種多様な情報を「伝わり易く解かり易い表現」として開発し、業界関係者及び生活者に提供することを目的とした健康科学分野・社会文化分野・食育分野の専門家で構成する組織の連合体です。
乳の学術連合
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