「あたらしいミルクの研究」2019年度
千葉大学大学院園芸学研究科 助教 石田 貴士
研究報告「乳業メーカーによるCSR 活動としての食育の取り組みと経営戦略」(石田貴士)をもとに作成。
研究報告「乳業メーカーによるCSR 活動としての食育の取り組みと経営戦略」(石田貴士)をもとに作成。
CSR はCorporate Social Responsibility の略で、「企業の社会的な責任」という意味です。
一般的には、企業が利益を追求するだけではなく社会貢献となるような活動を行なうことを指し、近年は食品企業がCSR 活動として「食育」に取り組む例が増えています。本研究では、乳業メーカーによる食育活動の実態を調査。
その結果、食育は社会貢献や販売促進、消費者との関係維持など多様な目的で実施されていること、一方で実施に伴う資金や人材不足などの課題が大きいことも浮き彫りにされました。
一般的には、企業が利益を追求するだけではなく社会貢献となるような活動を行なうことを指し、近年は食品企業がCSR 活動として「食育」に取り組む例が増えています。本研究では、乳業メーカーによる食育活動の実態を調査。
その結果、食育は社会貢献や販売促進、消費者との関係維持など多様な目的で実施されていること、一方で実施に伴う資金や人材不足などの課題が大きいことも浮き彫りにされました。
乳業メーカーの食育の実態をアンケート調査で明らかに
食品企業がCSR 活動として食育を行なうことは、国民の食育の機会を広げるという観点から非常に重要です。また、CSR 活動としての食育は、社会貢献であると同時に経営戦略につながる側面もあります。たとえば、食育活動を通して企業の製品に対する消費者からの認知やロイヤルティが向上し、短期的な需要が拡大したり、企業イメージが向上して長期的な需要拡大につながるなどのほか、活動に参加する従業員のモチベーションの向上などが期待できます。
乳業メーカーはもともと食育との関係が深く、2005 年の食育基本法成立以前から工場見学などを実施してきた例があります。現在も多くのメーカーがCSR 活動の一環として食育に取り組んでいますが、乳業メーカーによる食育活動の実態や問題について、本格的な研究は行なわれていません。
そこで私たちは、乳業メーカーの食育活動への取り組みに関するアンケート調査を実施しました。調査対象は乳業メーカー288 社で(日本乳業協会会員のうち、清涼飲料水を主に提供している企業を除く)、調査方法はアンケート調査用紙を郵送して回答を求める方式でした。調査項目は「食育実施の有無」「実施内容」「従業員数」「学校給食用牛乳およびプライベートブランド(PB)商品の取り扱い」「乳業メーカーの意識」「危機感」ほかです。調査の実施期間は2018 年10 月〜11 月でした。
乳業メーカーはもともと食育との関係が深く、2005 年の食育基本法成立以前から工場見学などを実施してきた例があります。現在も多くのメーカーがCSR 活動の一環として食育に取り組んでいますが、乳業メーカーによる食育活動の実態や問題について、本格的な研究は行なわれていません。
そこで私たちは、乳業メーカーの食育活動への取り組みに関するアンケート調査を実施しました。調査対象は乳業メーカー288 社で(日本乳業協会会員のうち、清涼飲料水を主に提供している企業を除く)、調査方法はアンケート調査用紙を郵送して回答を求める方式でした。調査項目は「食育実施の有無」「実施内容」「従業員数」「学校給食用牛乳およびプライベートブランド(PB)商品の取り扱い」「乳業メーカーの意識」「危機感」ほかです。調査の実施期間は2018 年10 月〜11 月でした。
食育実施の動機は牛乳消費量全体の低迷や児童の食に関する知識不足
アンケート回収数は102 件(回収率35.4%)でした。このうち有効回答であった97 件のデータを、(1)「食育を実施しているメーカーと実施していないメーカーの違い」、(2)「食育を実施しているメーカーの食育活動の実態と課題」、(3)「食育を実施していないメーカーの意識」に分類してまとめ、今後、食育を実施する乳業メーカーを増やすための方策について検討しました。
まず、(1)「食育を実施しているメーカーと実施していないメーカーの違い」についてですが、食育を実施している企業は46%で、従業員数20 人以下の零細企業および301 人以上の企業では実施の割合が低くなりました( 図1 )。「乳業業界としてどの組織が食育に関わるべきか」という問いには、食育を実施している乳業メーカーでは約40%が「各乳業メーカーが関わるべき」と答えていますが、非実施メーカーは約80%が「乳業業界全体で関わるべき」と回答しました。
なお、実施、非実施のどちらのメーカーも、80%以上が「CSR 活動の必要性」に対する認識を持ち、70%以上が「牛乳消費量全体の低迷」、「児童の食に関する知識不足」に対する危機感を持っていましたが、とくに、「牛乳消費量全体の低迷」および「児童の食に関する知識不足」は、実施メーカーのほうが危機感を「とても感じる」と回答している割合が大きいことから、この2点が食育実施の主要な動機となる可能性がうかがえました。
まず、(1)「食育を実施しているメーカーと実施していないメーカーの違い」についてですが、食育を実施している企業は46%で、従業員数20 人以下の零細企業および301 人以上の企業では実施の割合が低くなりました( 図1 )。「乳業業界としてどの組織が食育に関わるべきか」という問いには、食育を実施している乳業メーカーでは約40%が「各乳業メーカーが関わるべき」と答えていますが、非実施メーカーは約80%が「乳業業界全体で関わるべき」と回答しました。
なお、実施、非実施のどちらのメーカーも、80%以上が「CSR 活動の必要性」に対する認識を持ち、70%以上が「牛乳消費量全体の低迷」、「児童の食に関する知識不足」に対する危機感を持っていましたが、とくに、「牛乳消費量全体の低迷」および「児童の食に関する知識不足」は、実施メーカーのほうが危機感を「とても感じる」と回答している割合が大きいことから、この2点が食育実施の主要な動機となる可能性がうかがえました。
食育実施の目的は多様 解決すべき問題もあり
(2)「食育を実施しているメーカーの食育活動の実態と課題」についてですが、食育の実施目的は、ほとんどの企業が「牛乳・乳製品への理解関心を高める」に「とてもあてはまる」と回答したほか、「自社商品を知ってもらう」、「ブランド力を高める」など販売促進に関するもの、「健康的な食生活に貢献」、「社会・地域への貢献」といった社会貢献に関するもの、そして「取引先との良好な関係作り」、「株主からの評価を高める」、「学校や地域からの依頼」のようにステークホルダー(消費者、従業員、株主、取引先、地域社会、行政機関など利害関係のある相手)との関係性を良好に維持するためのものなど多岐にわたりました( 図2 )。そこで企業の特性とこれらの実施目的の関係性について分析を行なったところ、零細企業、PB 商品取り扱いメーカー、牛乳以外の乳製品も扱う多角化しているメーカーは、食育の目的において、社会貢献を通じたステークホルダーとの関係性を重視していることがわかりました。
また、食育を実施している乳業メーカーの半分以上が実施に満足している一方で、15%が不満を持っていました。不満の原因を探るために、食育を実施しているメーカーが抱える課題をまとめると、(本業への支障や予算の確保などの問題よりも)人的資源に関する問題をあげているメーカーの割合が高いことがわかりました( 図3 )。
また、食育を実施している乳業メーカーの半分以上が実施に満足している一方で、15%が不満を持っていました。不満の原因を探るために、食育を実施しているメーカーが抱える課題をまとめると、(本業への支障や予算の確保などの問題よりも)人的資源に関する問題をあげているメーカーの割合が高いことがわかりました( 図3 )。
食育実施メーカーを増やすには、乳業業界全体で行なう食育活動も必要
最後に、(3)「食育を実施していないメーカーの意識」をまとめたところ、食育を実施していない主な理由としては「食育のための予算確保が困難」、「参加社員の確保が困難」など、資金や人的資源の不足が大きいことが示されました( 図4 )。一方で、食育を実施しない理由については、「乳業企業が食育を実施する必要性を感じない」や「食育の必要性を感じていない」といった項目で「とてもあてはまる」と回答した乳業メーカーはなく、食育を実施していないメーカーにおいても、その必要性についてはある程度認識されていることがわかりました。
以上より、乳業メーカーによるCSR 活動としての食育の今後の展望を考察すると、食育を実施しているメーカーにおいては、人的資源に関する問題への対処法を検討する必要があります。また、食育を実施していないメーカーは、その多くが必要性は認識していますが、前述したように食育は「乳業業界全体で関わるべき」と考えています。
つまり、資金や人的資源の不足から現在は食育を実施していないメーカーも、J ミルクなどの乳業団体が主導するなどして乳業業界全体が関わる食育を実施すれば、協力する可能性があるといえるでしょう。加えて、小規模乳業メーカーへのサポート、蓄積された食育のノウハウや経験をシェアできる仕組みなどが整備されれば、今後、食育を実施する乳業メーカーはさらに増加するものと考えられます。
以上より、乳業メーカーによるCSR 活動としての食育の今後の展望を考察すると、食育を実施しているメーカーにおいては、人的資源に関する問題への対処法を検討する必要があります。また、食育を実施していないメーカーは、その多くが必要性は認識していますが、前述したように食育は「乳業業界全体で関わるべき」と考えています。
つまり、資金や人的資源の不足から現在は食育を実施していないメーカーも、J ミルクなどの乳業団体が主導するなどして乳業業界全体が関わる食育を実施すれば、協力する可能性があるといえるでしょう。加えて、小規模乳業メーカーへのサポート、蓄積された食育のノウハウや経験をシェアできる仕組みなどが整備されれば、今後、食育を実施する乳業メーカーはさらに増加するものと考えられます。
-「あたらしいミルクの研究」2019 年度 -
一般社団法人Jミルクと「乳の学術連合」(牛乳乳製品健康科学会議/乳の社会文化ネットワーク/牛乳食育研究会の三つの研究会で構成される学術組織)は、「乳の学術連合」で毎年度実施している乳に関する学術研究の中から、特に優れていると評価されたものを、「あたらしいミルクの研究リポート」として作成しています。
本研究リポートは、対象となる学術研究を領域の異なる研究者や専門家含め、牛乳乳製品や酪農乳業に関心のある全ての皆様に、わかりやすく要約したものになります。
なお、研究リポートに掲載されている研究内容詳細を確認する場合は、乳の学術連合公式webサイト内「学術連合の研究データベース」より研究報告書のPDFをダウンロードして閲覧可能です。あわせてご利用ください。
本研究リポートは、対象となる学術研究を領域の異なる研究者や専門家含め、牛乳乳製品や酪農乳業に関心のある全ての皆様に、わかりやすく要約したものになります。
なお、研究リポートに掲載されている研究内容詳細を確認する場合は、乳の学術連合公式webサイト内「学術連合の研究データベース」より研究報告書のPDFをダウンロードして閲覧可能です。あわせてご利用ください。
研究報告書は乳の学術連合のサイトに掲載しています
乳の学術連合のサイトはこちら
我が国における牛乳乳製品の消費の維持・拡大及び酪農乳業と生活者との信頼関係の強化を図っていく観点から、牛乳乳製品の価値向上に繋がる多種多様な情報を「伝わり易く解かり易い表現」として開発し、業界関係者及び生活者に提供することを目的とした健康科学分野・社会文化分野・食育分野の専門家で構成する組織の連合体です。