牛乳へのネガティブ情報拡散 1ヶ月以内にエビデンス情報発信が抑制効果

「わかりやすい最新ミルクの研究」2016 年度

牛乳へのネガティブ情報拡散 1ヶ月以内にエビデンス情報発信が抑制効果

代表研究者 学習院大学経済学部教授:上田隆穂

三条市教育委員会では、米飯給食に牛乳が合わないとして、2014年12月 - 2015 年 3月まで市内小・中学校の30校で学校給食の牛乳を試験的に中止しました。

この事象に関連して、SNS のツイッターに投稿された様々な意見をカテゴリーに分けて分析しました。

その結果、ツイッターにおける牛乳に対するネガティブな書き込みは、最初の1ヶ月は反応が高いもののその後は低下し、短期間で拡散は収束することがわかりました。

一方、牛乳へのネガティブな意見に抑制効果として機能するポジティブな意見は、科学的根拠に基づいたポジティブ情報を、即座に提供することが効果的なことがわかりました。 

ツイッターを利用 伝染プロセスと抑制効果を調査

2013年、日本で22年ぶりとなるワールド・デイリー・サミットが横浜で開催され、世界60カ国、約2,200名の酪農乳業関係者や学術研究者が集結しました。そこで座長を務めた「新しいコミュニケーションのカタチ」のセッションで、世界7カ国の報告者の講演を聞きながら2つの疑問を感じました。ひとつは、牛乳に対してネガティブ情報の拡散プロセスが明らかにされていないこと。もうひとつは、ポジティブ情報がネガティブ情報に効果があるのではないかということです。

そこで、ネガティブ情報の拡散プロセスとポジティブ情報の抑制効果について調査を 進めるため、SNSのツイッターを中心に対象データを収集。加えて、ネットニュース、新聞(全国・地方・専門紙)、テレビ放送(全国・地方)のデータも収集しました。事象として選択したのは、全国的に注目されていた三条市の学校給食における牛乳の試験的な中止に関連した情報でした。

対象期間は、三条市教育委員会が地方新聞で給食の牛乳一時中止を発表した 2014年2月23日から2014年7月13日までとしました。 

反応期間短いネガティブ情報 1ヶ月間で収束

対象期間のツイッターのデータは、「牛乳+給食」で検索した10,230データからカテゴリーに分類するため500データをランダムに抽出し、三条市の給食における牛乳提供中止に対して、「中止反対」をポジティブ、「中止支持」をネガティブ、「どちらでもない」をニュートラルとしました。当時、牛乳の異味・異臭事案に関連した意見も多かったため、それらに関連した1,404データはキーワード検索によって除去しました。残り8,826データについて3人の研究補助者によってカテゴリー分類を行いましたが、3人すべてが異なるカテゴリーに分類した
454データは、関連性が低いことからさらに削除。2人以上が同じカテゴリーであると判断した8,372データを採用し、分析に利用しました。

その結果、ツイッターにおけるネガティブな書き込みは、「給食での牛乳提供中止支持」 を後押しする内容が圧倒的に件数も多く、次いで件数は少ないものの、「態度(牛乳が嫌いなど)」「牛乳有害説」とあり、この3つを注目すべきカテゴリーとして取り上げました。書き込み期間として最も反応が多い期間は、2014年3月末から1ヶ月間で、これは即効性の高いテレビ放送とネットニュースの報道が3月末に本格化し、その影響をツイッターも受けたものと思われます。しかしながら、その後は書き込みが減少し、非常に短期間で収束に向かいました。このような状況を考慮すると、ツイッターのネガティブ情報に対して何らかの手段を講じるのであれば、1ヶ月以内が有効であることがわかりました。(グラフ1)

「給食での牛乳提供中止反対」に分類したポジティブな書き込みについては、「好き」「いい思い出」など態度に関する情報が多く、次いで「牛乳の栄養補給機能」がありましたが、ネガティブに比べると書き込み数はかなり少なく、反応期間もネガティブ同様、最初の1ヶ月間でした。記事紹介や客観的な感想などニュートラルな書き込みについては、1ヶ月で収束したポジティブやネガティブと比較すると、2ヶ月半くらいまでは書き込み数が多いのが特徴でした。 

栄養補給効果のエビデンス 「牛乳有害説」を抑制

次に、牛乳に対してポジティブな意見がネガティブな意見を抑制する効果があるのか、ないのか、仮に効果があるとすれば、どのタイミングでどのような内容を伝えることが妥当なのかを検討しました。
その結果、タイミングとしては、ネガティブな意見が出た1日後は、「牛乳は栄養補給に効果がある」というポジティブな意見がむしろ反発を生み、牛乳に対するネガティブな態度や学校給食における「牛乳中止支持」をあおる結果となりました。これは牛乳を頭から否定し、ダメと思い込んでいる層が即反応し、ネガティブな意見を助長したと考えられます。しかしながらポジティブな意見が出た2日後には、ネガティブな意見を抑制する働きを見せました。つまり2日過ぎると、迷っている中間層が説得されて、ポジティブな意見を支持する側に回ったと思われます。

次に、内容としては、ネガティブな意見の中でも一番抑制したい「牛乳有害説」に効果的な意見は、「牛乳は栄養補給の効果がある」という栄養に関することで、この意見が増えれば増えるほど抑制効果が高まります。前述のように、2日後には迷っている層が説得されることから、対抗できるエビデンスをすぐに発信できるように、事前に準備しておくことが求められます。 さらに、ニュートラルな意見も、「牛乳有害説」に影響を与えることがわかりました。当日および2日前の「客観的な感想」は、「牛乳有害説」を増加させる影響がありました。しかしながら2日前の「事実をそのまま記述」は「牛乳有害説」を減少させる影響がありました。(グラフ2) 

- 「わかりやすい最新ミルクの研究」2016 年度 -

一般社団法人Jミルクと「乳の学術連合」(牛乳乳製品健康科学会議/乳の社会文化ネットワーク/牛乳食育研究会の三つの研究会で構成される学術組織)は、「乳の学術連合」で毎年度実施している乳に関する学術研究の中から、特に優れていると評価されたものを、「わかりやすい 最新ミルクの研究リポート」として作成しています。

本研究リポートは、対象となる学術研究を領域の異なる研究者や専門家含め、牛乳乳製品や酪農乳業に関心のある全ての皆様に、わかりやすく要約したものになります。
なお、研究リポートに掲載されている研究内容詳細を確認する場合は、乳の学術連合公式webサイト内「学術連合の研究データベース」より研究報告書のPDFをダウンロードして閲覧可能です。あわせてご利用ください。 
2017年1月25日 

牛乳へのネガティブ情報拡散 1ヶ月以内にエビデンス情報発信が抑制効果

代表研究者 学習院大学経済学部教授:上田隆穂

- 「わかりやすい最新ミルクの研究」2016 年度 - 

研究報告書は乳の学術連合のサイトに掲載しています

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我が国における牛乳乳製品の消費の維持・拡大及び酪農乳業と生活者との信頼関係の強化を図っていく観点から、牛乳乳製品の価値向上に繋がる多種多様な情報を「伝わり易く解かり易い表現」として開発し、業界関係者及び生活者に提供することを目的とした健康科学分野・社会文化分野・食育分野の専門家で構成する組織の連合体です。
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