2013年に開催されたWorld Dairy Summitのプレゼン資料(日本語版)です。
丸山 章 一般社団法人Jミルク
本日の演題の内容は、日本の農薬等の残留規制はネガティブリスト制度からポジティブリスト制度へと大きく改正されましたが、このことに酪農・乳業界はどの様に対応してきたか、また今後に向けた課題は何か、についてお話をします。
なお、以下の説明で、「農薬等」という言葉を使いますが、これには農薬・動物用医薬品・飼料添加物を含んでいます。
なお、以下の説明で、「農薬等」という言葉を使いますが、これには農薬・動物用医薬品・飼料添加物を含んでいます。
Jミルクについて
まず初めに、私が所属する「Jミルク」という組織についてご説明します。
「Jミルク」の目的や機能を理解いただくことで、私がこの演題についてお話しする理由を理解いただけると思います。
「Jミルク」の目的や機能を理解いただくことで、私がこの演題についてお話しする理由を理解いただけると思います。
Jミルクは、生乳の生産から牛乳乳製品の処理・加工、そして販売に至る関係者を会員とした、ミルクサプライチェーンを構成する関係者が一体となった、業界横断的なユニークな組織です。
国民の豊かな食生活の向上と、酪農・乳業の安定的な発展を目的とし、牛乳乳製品の普及・啓発に関する事業と、生乳及び牛乳乳製品の生産・流通・消費に係る情報の収集・分析・提供、及び酪農・乳業の共通課題の検討に関する事業を行っています。
本日の演題は、酪農・乳業の共通課題の検討の一端として、農薬等の残留規制ルールの大きな改正にどう対応していくかという課題について、Jミルクにおいて関係者が協議し取りまとめ、そして取り組んできたことを報告するものです。
ポジティブリスト制度導入前の食品市場
さて、ポジティブリスト制度が導入される前の食品市場を振り返ってみますと、当時、食品に対する不安が生ずる問題が頻発しました。
それは、BSEの発生、産地や原料また賞味期限などの食品表示の偽装事件、日本で登録されていない農薬の使用、安全性が確認されていない遺伝子組み換え食品の流通、鳥インフルエンザ発生による人への感染の不安など、わが国の食品を食べることによって健康に悪い影響を与えるのではないかという、これまでの食への信頼を揺るがす事件の発生でした。
また同時に、日本の食品市場の国際化が進展してきたことで、一部の輸入野菜に残留農薬が検出されるなど、消費者が安心して食品を購入したり食べたりすることへの不安も膨らみました。
こうした状況に対応するため、食品の安全を確保することを通じて、わが国の農業や食品に対する信頼や支持を確保することが、食品安全行政の喫緊の課題としてクローズアップしてきました。
食品安全基本法施行(2003年7月)
こうした状況に対応するため、食品衛生法の大改正が行われましたが、それに先立ち、2003年7月1日、食品安全基本法が施行されました。
この食品安全基本法では、食品の安全性確保のための措置を講ずるに当たっての基本的認識を以下のように規定しています。
すなわち、国民の健康の保護が最も重要であり、そのために、食品の安全性確保に必要な措置が講じられること、とされています。
同時に、食品関連事業者の責務も明示され
「①食品の安全性確保の一義的な責任を有することを認識して必要な措置を適切に講ずること、②正確かつ適切な情報の提供に努めること、③国等が実施する施策に協力すること」
とされました。
「①食品の安全性確保の一義的な責任を有することを認識して必要な措置を適切に講ずること、②正確かつ適切な情報の提供に努めること、③国等が実施する施策に協力すること」
とされました。
ポジティブリスト制度施行(2006年5月)
ポジティブリスト制度施行(2006年5月) ①
食品安全基本法の下に食品衛生法が改正され、2006年5月末より、農薬等の残留規制の方法がネガティブリスト制度からポジティブリスト制度へと変更になりました。
ネガティブリスト制度では、規制すべき対象に残留基準を設定しリスト化していました。
そのため、残留基準が設定されていない農薬等は規制されませんでした。
そのため、残留基準が設定されていない農薬等は規制されませんでした。
農薬等の開発は日進月歩であり、新しい農薬等の開発に規制が追い付かない、また、貿易自由化の進展により食品の輸入も飛躍的に増加したため、海外では規制されていても国内では規制できないなど、当時の農薬等の残留規制は後手になった感が否めませんでした。
ポジティブリスト制度施行(2006年5月) ②
こうした状況に対応するため、ポジティブリスト制度では、農薬等の残留を原則禁止としました。
そして、一律基準0.01ppmを超えて農薬等が残留した食品は、販売するための製造等を禁じました。
この一律基準は、人の健康を損なうおそれのない量として厚生労働大臣が定めたものです。
この一律基準は、人の健康を損なうおそれのない量として厚生労働大臣が定めたものです。
併せて、
1. 健康を損なうおそれがないとして定めた「対象外物質」
2. 残留限度量の規格である「暫定基準を定めた物質」
については、使用を認めるものとしてリスト化することとなりました。
1. 健康を損なうおそれがないとして定めた「対象外物質」
2. 残留限度量の規格である「暫定基準を定めた物質」
については、使用を認めるものとしてリスト化することとなりました。
酪農・乳業界における検討
こうした農薬等の残留規制の改正に対し、酪農・乳業界はどの様に対応していくかが課題となりました。
対応策の方向としては、まず、制度改正に前向きに取り組むこととし、酪農・乳業界における農薬等の残留実態や、新たな制度への対応方策等を開示していくこととしました。
対応策の方向としては、まず、制度改正に前向きに取り組むこととし、酪農・乳業界における農薬等の残留実態や、新たな制度への対応方策等を開示していくこととしました。
また、この機会を情報発信のチャンスととらえ、酪農・乳業界の日頃の品質管理状況や酪農生産現場にHACCP的手法を導入する取り組みなどを情報発信していくこととしました。
HACCP的手法による管理とは
HACCP的な管理手法による生産・管理システムとはどのようなものでしょうか。
Jミルクでは、次のように定義しました。
Jミルクでは、次のように定義しました。
1.まず、農薬等を使用する際にはその使用基準を守る、
2.次に、その使用履歴を残し確認できるようにする、
3.そして、第三者が記録を確認し農薬等の使用に係る安全性を評価するといった、生産現場の確実な取り組みを支援する体制を確立する、
4.さらに、定期的なモニタリング検査によって生産・管理システムがきちんと機能していることを確認する、
5.最後に、これら情報を共有する、
2.次に、その使用履歴を残し確認できるようにする、
3.そして、第三者が記録を確認し農薬等の使用に係る安全性を評価するといった、生産現場の確実な取り組みを支援する体制を確立する、
4.さらに、定期的なモニタリング検査によって生産・管理システムがきちんと機能していることを確認する、
5.最後に、これら情報を共有する、
といった生産・管理システムを想定しました。
酪農・乳業界が定めた3つの基本
こうした考えを基に、酪農・乳業界では、ポジティブリスト制度に対応した3つの基本を定めました。
一つ目は、酪農生産者の責務ですが、農薬等の使用基準を守って安全を確保し、その使用実態を記録・保管します。
一つ目は、酪農生産者の責務ですが、農薬等の使用基準を守って安全を確保し、その使用実態を記録・保管します。
二つ目は、酪農・乳業関係者や獣医師などで構成する地域支援組織の責務ですが、酪農生産者が農薬等を適正に使用しその使用実態の記録・保管を指導・検証する体制を構築し、安全をさらに確保します。
三つ目は、Jミルクの責務ですが、①②の生産・管理システムが的確に機能していることを確認するためのモニタリング検査を実施します。
そして、こうした関連情報をJミルクに集約し、酪農・乳業関係者の共有情報として活用するほか、消費者への情報開示を行います。
制度施行(2006年5月)までの準備
制度施行(2006年5月)までの準備 ①
ポジティブリスト制度の施行までに、酪農・乳業界が準備し取り組むことについて、Jミルクで検討を行いました。
まず、①酪農生産現場で農薬等がどのように使用されているのか実態調査し、調査結果は次年度以降の取り組みの基本情報として活用することとしました。
まず、①酪農生産現場で農薬等がどのように使用されているのか実態調査し、調査結果は次年度以降の取り組みの基本情報として活用することとしました。
また、②酪農生産現場の取り組みについて、各生産者組織が啓発・指導を開始しました。
そして、③酪農生産現場の取り組みを啓発・支援する組織については、各地域で生産者組織を中心に乳業者や獣医師などに参画を仰ぎ、それぞれに地域支援組織を立ち上げ取り組みを開始しました。
制度施行(2006年5月)までの準備 ②
また、④抗菌性物質、特にβラクタム系の抗生物質には簡易迅速検査法が普及していることから、全国全地域で、出荷時の悉皆検査ができる体制整備に取り組みました。
並行して、⑤自給粗飼料を作付する際に使用する可能性のある農薬、牛に適用のある動物用医薬品、牛用飼料に使用する飼料添加物をリストアップし、全国を対象にサーベイランスを実施しました。
さらに、⑥こうした取り組みについて、酪農・乳業関係者が共有し円滑な取り組み推進が行えるよう、ブロック会議を開催して説明するとともに、流通並びに消費者の信頼確保のため、関連情報をJミルクが収集・整理してHPを通じて情報公開しました。
現在の具体的な取り組み
こうして2006年5月末にポジティブリスト制度が施行され、当初の準備的な取り組みを含め、今日まで計画的に取り組みを推進しています。
①各地に設置した地域支援組織は、すべての酪農生産者を対象に、年1回以上の現地巡回を実施し、農薬等の使用に係る記録等を指導・検証しています。
②酪農生産現場における農薬等の使用実態については、全国を対象に3年毎に調査を実施し、
③この結果を基に、モニタリング検査の対象物質を設定するとともに、全国を対象としたモニタリング検査を、毎年実施しています。
④これらの情報は、JミルクのHPを通じて情報公開し、流通・消費者の信頼確保に資する情報として活用しています。
生産者(団体)による生乳の安全・安心の担保
冒頭に、食品安全基本法によって食品関連事業者の責務が明示されたことをお話ししましたが、酪農・乳業の共同の取り組みと並行して、酪農生産者並びに生産者団体の責務も確認されました。
酪農生産者は、日々出荷する生乳が安全であることを担保するため、確実な記録を残し開示できるような仕組みづくりに努めることとしています。
また乳業に対する生乳の販売者となる生産者団体は、地域支援組織などの指導・検証を通じて、構成する各酪農生産者の記録が確実に実施されていること、並びに取引される生乳には基準を超過する農薬等の残留がないことを担保することとしています。
今後の課題
これまで、日本の酪農・乳業界は、ご説明してきた取り組みにより、農薬等の残留のない生乳を生産・出荷し、安全な牛乳乳製品を消費者の皆様に提供していますが、今後とも、牛乳乳製品に対する一層の信頼をいただけるよう努力してまいります。
引き続いた課題としては、
引き続いた課題としては、
1.酪農生産現場における農薬等使用の確実な記録とその保管について徹底すること
2.それらを指導・検証する地域支援組織活動の機能を強化し充実すること
です。
2.それらを指導・検証する地域支援組織活動の機能を強化し充実すること
です。
こうした取り組みの基本は、何と言っても、酪農生産現場において農薬等の使用基準を厳しく守ることに他なりません。
これまでも、牛乳乳製品による農薬等の残留事故は発生していませんが、Jミルクは、引き続き、酪農・乳業の一体的取り組みを推進しつつ、その改善を重ね、万一の事故を出さないよう関係者の共通認識を醸成していこうと決意しています。
これまでも、牛乳乳製品による農薬等の残留事故は発生していませんが、Jミルクは、引き続き、酪農・乳業の一体的取り組みを推進しつつ、その改善を重ね、万一の事故を出さないよう関係者の共通認識を醸成していこうと決意しています。
このプレゼン資料の詳細版です。(0.7MB)
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日本における農薬等に関するポジティブリスト制度に対する酪農・乳業の共同の取り組み