
第1回 明治時代創業の小さな乳業会社“柳川牛乳”の物語 ~藤島豊太郎一代記~ その1
福岡県南の水郷のまち、柳川市にある株式会社柳川牛乳(以下、柳川牛乳)。明治時代中頃、牛をつれて佐賀・小城からやってきた藤島豊太郎が創業した歴史ある乳業会社です。柳川で牛乳の製造販売を行い、柳川の発展にも尽くした藤島豊太郎の半生を、当時の世相とともにご紹介します。
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掘割をゆったりすすむ柳川市の名物「川下り」のどんこ船と、明治時代から続くビン牛乳「柳川牛乳」。
知る人ぞ知る柳川の「レア牛乳」
福岡県柳川市に、明治時代からの歴史を待つ柳川牛乳があります。創業年は記録がなくはっきりしませんが、明治20年代後半から30年代前半あたり。いずれにしても、100年以上の長い歴史を持つ乳業会社です。
柳川牛乳が製造販売している現在の商品は、75℃15分間殺菌の「柳川均質牛乳」と豆から淹れる「柳川コーヒー」の2アイテムだけ。どちらもビン入りで紙キャップにビニルフードのレトロなスタイルです。最近の生産量は僅か月間約4千本。販売は宅配がほとんどで、宅配以外は工場直売や近隣の数店舗でしか買うことができない知る人ぞ知るレア牛乳となっています。
柳川牛乳が製造販売している現在の商品は、75℃15分間殺菌の「柳川均質牛乳」と豆から淹れる「柳川コーヒー」の2アイテムだけ。どちらもビン入りで紙キャップにビニルフードのレトロなスタイルです。最近の生産量は僅か月間約4千本。販売は宅配がほとんどで、宅配以外は工場直売や近隣の数店舗でしか買うことができない知る人ぞ知るレア牛乳となっています。
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レトロなスタイルで人気の牛乳とコーヒー。
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柳川牛乳の工場。初代柳河藩主・立花宗茂公、岳父の戸次道雪公、宗茂の妻である誾千代姫を祀った三柱神社の裏手にある。
旧柳河藩の城下町から発展した「水郷のまち」柳川市
柳川牛乳がある柳川市は、福岡市中央区にある九州一の繁華街・天神から西鉄電車で約45分、福岡県南部の筑紫平野に位置し、旧柳河藩の城下町から発展した人口約6万人の地方都市です。筑後川、矢部川、有明海に挟まれ、市内には矢部川から分かれた沖端川、塩塚川が流れ、生活用水や農業用水、水運などに利用されてきた930キロメートルにも及ぶ掘割(水路)が網の目のように張り巡らされており、「水郷のまち」とも呼ばれています。
市街地に張り巡らされた掘割を「どんこ船」でまわる「川下り」は柳川観光の名物。船頭さんの語りを聞きながら、柳川のまちをゆったりとめぐる川下りを目当てに、たくさんの観光客が訪れています。明治から昭和にかけて活躍した詩人、北原白秋の出身地としても知られており、秋には白秋祭が盛大に開催されます。
市街地に張り巡らされた掘割を「どんこ船」でまわる「川下り」は柳川観光の名物。船頭さんの語りを聞きながら、柳川のまちをゆったりとめぐる川下りを目当てに、たくさんの観光客が訪れています。明治から昭和にかけて活躍した詩人、北原白秋の出身地としても知られており、秋には白秋祭が盛大に開催されます。
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左:市街地に張り巡らされた掘割をどんこ船でゆったりすすむ川下り。
右:観光名所になっている北原白秋生家。
海沿いの地域では、最大6メートルにもなる有明海の干満差を利用して、古くから干拓事業が行われ、いまでも米、麦、大豆などの主要産地となっています。また、有明海ではムツゴロウやワラスボなど独特の海産物を利用する漁業や、のりの養殖などが盛んに行われています。
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干拓地の初夏の風景。黄金色に実った麦畑の向こうには、有明海を渡った先にそびえる島原半島の普賢岳が見える。
柳川市は、蒲池氏、田中氏、立花氏の城下町として発展してきました。市内には田中吉政の菩提寺である眞勝寺、立花家菩提寺の福厳寺をはじめとした寺が多く、また、お寺の関係なのか、和菓子店が多くみられるのも特徴のひとつです。
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左:掘割や街道の整備、河川改修など、柳川市の基礎をつくった大名、田中吉政の菩提寺である眞勝寺。
右:柳川市を代表する和菓子のひとつ「千代香」(廣松宝来堂)。
創業家は小城藩旧藩士の藤島家
お寺が多いこの福岡県山門郡柳河町(現:柳川市)に目をつけ、佐賀県小城郡小城町(現:小城市小城町)から牛をつれてやってきたのが、柳川牛乳の創業者、藤島豊太郎です。豊太郎は牛乳販売だけでなく、さまざまな産業に携わり、柳川の発展に尽くした事業家でした。
豊太郎は、藤島行蔵と妻キワの長男として1872(明治5)年に誕生。父親の行蔵は佐賀藩の支藩である小城藩の元藩士で、藩士時代は藤織(現:小城市三日月町藤島)の武家屋敷に住んでいました。
豊太郎は、藤島行蔵と妻キワの長男として1872(明治5)年に誕生。父親の行蔵は佐賀藩の支藩である小城藩の元藩士で、藩士時代は藤織(現:小城市三日月町藤島)の武家屋敷に住んでいました。
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小城羊羹の老舗、村岡総本舗本店前にある須賀神社。赤い橋がかかる祇園川の下流に、行蔵が住んでいた藤織地区があります。
明治維新後、行蔵はキワの里に近い梅野村(現:佐賀市大和町梅野)に移り、寺子屋で漢学を教え始めます。寺子屋では漢学を教える一方、人物の品定めをしていたようで、教え子のなかでも特に優秀な江村喜三に、次女のクマを嫁がせています。優秀な人物を一族に加えることで、藤島家の繁栄を願っていたのでしょう。
1899(明治32)年に行蔵が亡くなったあと、教え子たちが「藤嶋行蔵君之碑」と書かれた立派な顕彰碑を建立しています。顕彰碑は台座も含め高さ3メートル以上、道路工事による2回の移転を経て、嘉瀬川上流、川上峽にある第五発電所取水堰の横、国道263号線沿いでいまでも見ることができます。郡会議員、村会議員も務めた行蔵がいかに地域に貢献したかが、立派な顕彰碑を見ればわかろうというものです。
1899(明治32)年に行蔵が亡くなったあと、教え子たちが「藤嶋行蔵君之碑」と書かれた立派な顕彰碑を建立しています。顕彰碑は台座も含め高さ3メートル以上、道路工事による2回の移転を経て、嘉瀬川上流、川上峽にある第五発電所取水堰の横、国道263号線沿いでいまでも見ることができます。郡会議員、村会議員も務めた行蔵がいかに地域に貢献したかが、立派な顕彰碑を見ればわかろうというものです。
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国道263号線沿いにある藤嶋行蔵君之碑。
【協 力】
株式会社柳川牛乳(福岡県柳川市隅町47)
藤島家及び江村家の子孫の皆さま
柳川古文書館(福岡県柳川市隅町71-2)
https://www.city.yanagawa.fukuoka.jp/rekishibunka/shisetsu/komonjyo/
日本経済大学経済学部経済学科 竹川克幸教授
https://www.jue.ac.jp/professor_fukuoka/katsuyuki_takegawa/
廣松宝来堂(福岡県柳川市蒲生3−2)
株式会社柳川牛乳(福岡県柳川市隅町47)
藤島家及び江村家の子孫の皆さま
柳川古文書館(福岡県柳川市隅町71-2)
https://www.city.yanagawa.fukuoka.jp/rekishibunka/shisetsu/komonjyo/
日本経済大学経済学部経済学科 竹川克幸教授
https://www.jue.ac.jp/professor_fukuoka/katsuyuki_takegawa/
廣松宝来堂(福岡県柳川市蒲生3−2)
【参考文献】 柳川市 公式サイト https://www.city.yanagawa.fukuoka.jp/ 小城市観光協会OGINAVI https://www.ogi-kankou.com/ 三柱神社 公式サイト https://mihashirajinja.org/ 真宗大谷派 田中山 眞勝寺 公式サイト https://shinsyoji.jp/ 柳川藩主立花邸 御花 公式サイト https://ohana.co.jp/ 自治通信社「地方自治政の沿革と其の人物 [福岡県]」昭和6年発行 |
※この記事の文章、写真等は無断転載不可。使用したい場合は(一社)Jミルクを通じ、筆者、所蔵者にお問い合わせください。
執筆者:近藤裕隆
福岡県職員、牛乳パックコレクター、九州鶏すき学会主任研究員、和菓子研究者、
普及指導員として酪農家支援を行っていたころ、消費者が求める牛乳の姿を理解するために牛乳パックの収集を開始。平成17年の消費減退と乳価下げを受けて同僚と行う牛乳消費拡大活動のひとつとして、牛乳パックを紹介するブログ「愛しの牛乳パック」を開設しました。以来、「酪農・牛乳にかすればOK」という柔軟な編集方針のもと、酪農・牛乳関連情報の発信を続けています。とはいえ、毎日更新はタイヘンw
ブログ 愛しの牛乳パック http://blog.livedoor.jp/ftmember/
普及畜産チャンネル http://blog.livedoor.jp/fukyuu/
朝倉2号の楽しき日々 https://chspmomo2.yoka-yoka.jp/
福岡県職員、牛乳パックコレクター、九州鶏すき学会主任研究員、和菓子研究者、
普及指導員として酪農家支援を行っていたころ、消費者が求める牛乳の姿を理解するために牛乳パックの収集を開始。平成17年の消費減退と乳価下げを受けて同僚と行う牛乳消費拡大活動のひとつとして、牛乳パックを紹介するブログ「愛しの牛乳パック」を開設しました。以来、「酪農・牛乳にかすればOK」という柔軟な編集方針のもと、酪農・牛乳関連情報の発信を続けています。とはいえ、毎日更新はタイヘンw
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普及畜産チャンネル http://blog.livedoor.jp/fukyuu/
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編集協力:前田浩史
ミルク1万年の会 代表世話人、乳の学術連合・社会文化ネットワーク 幹事 、日本酪農乳業史研究会 常任理事 関連著書:「酪農生産の基礎構造」(共著)[農林統計協会1995年]、「近代日本の乳食文化」(共著)[中央法規2019年]、「東京ミルクものがたり」(編著)[農文協2022年]
ミルク1万年の会 代表世話人、乳の学術連合・社会文化ネットワーク 幹事 、日本酪農乳業史研究会 常任理事 関連著書:「酪農生産の基礎構造」(共著)[農林統計協会1995年]、「近代日本の乳食文化」(共著)[中央法規2019年]、「東京ミルクものがたり」(編著)[農文協2022年]