新年のフランス伝統菓子‐ガレット・デ・ロワ その2

ミルクの国の食だより 連載一覧

コラム、「ミルクの国の食だより」の第63回をお送りします。前回に続き「ガレット・デ・ロワ」のお話です。お祝いの菓子「ガレット・デ・ロワ」が現在のかたちになるまで、中世からの長い歴史があったようです。

太陽を連想させるかたち

キリスト教の行事であるエピファニー(Epiphany 公現節)が広まった中世以降、お祝いの菓子は各家庭で作られるようになりました。

もともとはシンプルなパンのような菓子でしたが、パイ生地を使い黄金色で丸い太陽を連想させるガレット・デ・ロワが作られるようになったのは17世紀‐ルイ14世の頃。
  • 黄金色で丸い太陽を連想させるガレット・デ・ロワ。表面に入れた模様には意味があり、月桂樹は「栄光」、太陽は「生命」、麦の穂は「豊穣」、格子は「勝利」などを表す

パイ生地の変遷とガレット・デ・ロワの誕生

小麦粉生地と油脂から成るパイ生地は、昔からギリシア人、アラブ人に用いられていましたが、フランスには十字軍によってもたらされました。

もともとは油脂と生地を単純に交互に重ねて作るものでしたが、バターと小麦生地を連続して何層にも折りたたんで作るパイ生地は16世紀にフランスで生み出されたものです。父親に特別なパンを作ってみたいと思っていた見習い菓子職人が考えたという説と、コンデ公のおかかえ菓子職人が考案したという説があります。

このパイ生地を用いた菓子として知られていた「ピティヴィエ Pithiviers」のレシピ※1に触発されて作られたのが、 現在フランスの多くの地域で食べられているフランジパーヌ※2が入ったパイ生地のガレット・デ・ロワです。

温めて召し上がれ

ピティヴィエはフランス北西部の街の名前に由来し、パリに近いことから当時は「パリ風ガレット・デ・ロワ」と呼ばれていたそうです。

また、現在でもラングドックやプロバンスなど南部の地方では、バターと卵が入った菓子パン(ブリオッシュ)で作るシンプルなリング状のガトー・デ・ロワ(gâteau des rois)が伝統的に食べられています。

フランスでは忘年会・新年会などのくくりはありませんが、年が明けると家族だけでなく、仕事仲間や友人たちともガレット・デ・ロワを食べる習慣があります。

お店に並ぶ約1ヶ月の間に、何度も口にするフランス人も少なくありません。これを食べなくては1年が始まらないといわれるほど。
  • 切り分けた時にフェーブが当たった人は王冠をかぶり、その日は王様で幸せな年を過ごすといわれる。バターの芳醇な香りがより際立つので温めて食べるのがおすすめ

新年の健康と幸福を願って!

文化は違っても、古を偲ばせる風習で過ごす新年は気持ちがよいものです。
単なるしきたりとしてだけでなく、行事の本来の意味を知ることができれば、もっと心に親しいものになるかもしれませんね。

フェーヴがあたった人は、幸せな1年を過ごすといわれるガレット・デ・ロワ。
新しい年が健康で幸多き年でありますように!
 
※1アーモンドクリームを包んで焼いた四角形のパイ
※2アーモンドペーストとカスタードクリームをあわせたフィリング
  • 昔はフェーブにはその名の通り、乾燥したソラマメが一つ入れられていたが、現在は陶器製のミニチュアが入っている。宗教的なモチーフだったり、年ごとに違うテーマに沿ったフェーブが入っていたりと遊び心があって楽しい
  • スーパーで山積みに売られていたリング状のガトー・デ・ロワ(gâteau des rois)。地域性があり、ロワール川以南ではブリオッシュ生地で作るガトー・デ・ロワが好まれている
 管理栄養士 吉野綾美
1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。