リヨンの学校給食から考える、持続可能で健康的な食生活 - 3
(食の課題)

ミルクの国の食だより 連載一覧

コラム、「ミルクの国の食だより」の第92回をお送りします。前回に続き、リヨンの学校給食から考える、持続可能で健康的な食生活(食の課題)についてお届けします。

  • 栄養士を招いて学校で食について学ぶ子ども達。これまで成長に必要な栄養が含まれ、空腹を満たす食事を提供するだけだった学校給食において、栄養バランスだけでなく、環境と健康の観点からも、バランスのとれた方法で食べることを教える実践的な場として、日本のような教育的使命が期待されている。

これからの食生活の課題は

フランス人は今、食生活を大きく変えていかなければならない重要な岐路に立たされています。

まず、多くの食品が出回り、誰もが簡単に入手できる今日では、食べ過ぎにより栄養バランスを崩し、肥満や2型糖尿病、高血圧症や虚血性心疾患などの生活習慣病の罹患率が増える傾向にある、栄養と健康の課題。

また、フランスは国土の50% 以上が農用地であり、温室効果ガス排出量の 4分の1 は食関連部門によることから、環境負荷低減を重視した農法への転換が必要不可欠となる環境面の課題。

そして、持続的な食料供給に見合う正当な所得を生産者に保障すること、生活困窮層の人々がバランスと品質の良い食事にアクセスできるようにしていかなければならない、経済及び社会的な面における課題があります。

学校給食の推進事項が義務付け

このような社会的要請に対応していくため、2018年に農業部門と健康的で持続可能な食品の商業関係のバランスに関する法律:「フランス新農業・食品法(Egalim 法)」が公布され、学校給食においても次の推進事項が義務付けられることになりました。

  1.  持続可能で品質の保証された食材を50%(うち20%は有機栽培食品)使用すること
  2. たんぱく質の多様化とベジタリアンメニューの促進
  3. プラスチックボトルとプラスチック容器の使用禁止
  4. 食品廃棄物及び食品ロスの対策
  5. 「学校の果物と牛乳」プログラム

学校給食を通して持続可能な食生活へ移行

これまでフランスの学校給食では、社会的格差によって生じる食の不平等を是正し、子どもの成長と活動に十分な栄養を供給することだけが目的でした。

しかし、子どもたちに食が環境に大きく関わっていることを理解させるには、唯一、食との接点である学校給食を通して教育を行っていく必要があります。

更には子どもだけでなく、彼らを通して親の食生活にも影響を与え、食事の度に肉を食べるこれまでの食生活から、持続可能な食生活への移行を促進させる役割が、学校給食に大きく期待されています。


※このテーマは次号に続きます。
 

参考資料:

  • 集団給食施設におけるEgalim法の措置(フランス農務省)
https://agriculture.gouv.fr/telecharger/107125?token=7f4dc7d8fa81ad5670164c4da8f138948db9e0d043f78b3e9816a5667611649e
  • 食卓の子どもたち‐学校給食で食物移行を加速させる‐(Terra Nova 政策研究所)
https://medias.amf.asso.fr/upload/files/TerraNova_Rapport.pdf
  • フランス新農業・食品法の動向(平成 31 年度海外農業・貿易投資環境調査分析委託事業)
https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_syokuryo/attach/pdf/itaku31-11.pdf
  • 集団給食施設に関する法の措置(エガリム法)
https://www.agencebio.org/wp-content/uploads/2020/11/2001_Mesures-LoiEgalim_BRO_BD.pdf

管理栄養士 吉野綾美

1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。