コラム、「ミルクの国の食だより」の第93回をお送りします。前回に続き、リヨンの学校給食から考える、持続可能で健康的な食生活(ベジタリアンメニュー)についてお届けします。
子どもたちの成長に欠かせない食べ物とは
肉の消費は、現代の環境と健康の課題に大きく影響されています。
フランスの学校給食などの集団給食施設では、食品廃棄・ロスの21%を占めるのが「肉、魚、卵」のカテゴリーで、これらの廃棄・ロスに起因する処理費用(46%)と温室効果ガスの排出量(77%)との調査結果が環境・エネルギー管理庁(ADEME)から示されており、環境に大きな負荷がかかっていることがわかります*1。
しかしながら、肉は吸収率のよい鉄分を多く含み、子どもたちの成長に欠かせない食べ物であることは間違いありません。
問題はその摂取過剰で、健康と環境の両方の観点からバランスのとれた食事を子どもたち自身が選択できるようになるためには、何よりも教育が必要なのです。
たんぱく質食品を多様化したメニューへ
このような背景から、フランス新農業・食品法(Egalim 法)により2019年以降、フランスの学校給食では少なくとも1週間に1回のベジタリアンメニューの提供が義務付けられています。
学校給食でいう「ベジタリアンメニュー」とは、これまでたんぱく質供給源としてメインディッシュ(主菜)に用いられてきた「肉、魚」を使用せず、代わりに穀類や豆類、及び(または)卵や牛乳・乳製品を用い、たんぱく質食品を多様化させたメニューのことになります。
しかし、伝統的に肉に重点を置いてきたフランス人の食事において、肉のない食事では十分な栄養がとれないと感じてしまう人も多くいます。
様々なベジタリアンメニューを比較(研究結果)
実際に、ベジタリアンメニューのメインディッシュ(付け合わせを含む)を3種類に分けて比べた研究結果*2では、エネルギーやたんぱく質量はどれも適切な栄養レベルであることがわかっています。
一方、微量栄養素では次のような違いがありました。
① 植物性食品だけを使った料理
[例]インゲン豆のトマトソース、野菜のクスクス、バジル味の豆腐ラビオリ、大豆ステーキ など
繊維が多く、飽和脂肪酸がほとんど含まれていませんが、ビタミンB2とB12、カルシウムが少なく、ビタミンDとDHAはかなり不足する傾向にあります。 また、鉄分は多くとれますが、非ヘム鉄のため動物由来のヘム鉄よりも吸収が劣る欠点があります。
② 植物性食品とチーズを使った料理
[例]カマンベールのパン粉揚げとサラダ、ベジタリアンムサカ、ブリーチーズのパイ、ジャガイモとレンズ豆のグラタン など
カルシウム含量が最も多くなりますが、チーズの使用量によって飽和脂肪酸も多くなります。
③ 植物性食品と卵(またはチーズ以外の乳製品)を使った料理
[例]キノアとレンズ豆とアーモンドのカレーパンケーキ、ハーブ風味のオムレツ、クネルのホワイトソース など
①と②の中間で、卵と牛乳や乳製品(チーズ除く)によって最もバランスがとれていました。
卵や乳製品を用いたメインディッシュが有益
この研究から、ベジタリアンメニューでよりよい栄養バランスをとるには、植物性食品(野菜、豆類、全粒穀物など)と良質で適切な量の動物性食品(卵および乳製品)を組み合わせた食事であることがわかります。
そして卵や乳製品を用いたメインディッシュが有益であるため、この研究では栄養学的観点から学校給食のベジタリアンメニューを「ビーガンメニュー」と解釈してはならないということを示唆しています。
たとえメインディッシュが植物性たんぱく質100%であっても、有益なカルシウム源として乳製品が必ず献立に組み込まれるよう、フランスの学校給食は前菜、主菜/付け合わせ、乳製品、デザートで構成されています。
更に、牛乳・乳製品と野菜・果物については、持続可能で品質の保証された食材の 50% 使用を達成させるために、欧州連合で運営されている「学校の果物と牛乳」プログラムに参加できるようにもなっています。
※このテーマは次号に続きます。
参考資料:
*1 集団給食施設における食品ロスと廃棄物の費用におけるアプローチ2016(フランス環境・エネルギー管理庁)https://nouvelle-aquitaine.ademe.fr/sites/default/files/cout-complet-pertes-gaspillage-restauration-collectiv.pdf
*2 学校給食で提供されるベジタリアン/非ベジタリアンメニューにおける主菜(付け合わせ含む)の栄養成分比較 【HAL】
https://hal.inrae.fr/hal-02517350/document
- 集団給食施設に関する法の措置(エガリム法)
- 学校給食におけるミルクデザートを含む乳製品に関する栄養上の推奨事項
1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。