コラム、「ミルクの国の食だより」の第99回をお送りします。
前回に続き、「カフェオレ」のおはなしです。カフェオレが長~く愛される理由とは?
心身に優しい「カフェオレ」の考案 ~17世紀~
コーヒー(カフェ)がフランスにもたらされた17世紀半ば、当時のフランスではコーヒーが心身に悪影響を及ぼすという迷信が伝えられていたこともあり、飲みやすくするためだけでなく、「コーヒーの毒性」を消すためにコーヒーにミルクを入れる「カフェオレ」が医師により考案されたともいわれています。
パリでエリートたちを魅了したこの飲み物、時間のない人にはミルクに少量のコーヒーをただ混ぜるだけで飲まれていたようですが、グルメな人たちは次のような作り方*で味わいました。
【作り方】まず、1パイント(約950ml)のミルクを火にかけ、沸騰してきたら1.5オンス(約43g)の粉末にしたコーヒーを入れ、かき混ぜながら30分間煮て、火を止めて10〜12時間休ませる。再加熱して注ぐ。
ぜいたくな「カフェオレ」 ~18世紀~
パリでは18世紀初頭になると、朝、仕事に出かける職人が路上で大きな缶を背負ったコーヒー売りからカフェオレを買って飲む姿が見られたそうです。
この頃、農民にとってコーヒーや砂糖は、祝祭日などの限られた機会のみに消費するにぜいたくな食品でした。
ヨーロッパの長い歴史において、人々の食生活は階級によって大きな相違がありました。そればかりでなく、特に16〜18世紀には、飢饉(ききん)、疫病、戦争が多く発生したことで食料不足が続き、庶民は細かく砕いたり粉に挽(ひ)いたりした穀物の粥(かゆ)、またはスープ(野菜などを煮出した汁やワインにパンを浸したもの)しか食べられなかった時代が長く続きました。
しかし、地域や環境によっては不均一ではありましたが、フランス革命以降、農業や工業技術の発達により、徐々に食品が多様化するようになっていきました。
みんなの「カフェオレ」 ~19世紀~
コーヒーは倦怠(けんたい)感を吹き飛ばすウォーミングアップに役立ち、特にコーヒーにミルクを混ぜたカフェオレは、空腹感も和らげ、あまり裕福でない人にとっても欠かせないものになっていきました。
ところで、フランス語で「déjeuner(デジュネ)」は、今日では昼食を意味する言葉ですが、 語源は、絶食(jeûne)を破るという言葉から来ているので、本来は朝起きて初めて食べる食事を指す言葉でした。
昔は「déjeuner」が朝食だったわけです。多くのフランス人が1日2食だったのが、19世紀の産業革命を機に労働時間は長くなり、文化的活動時間が延長され、人々の生活時間が大きく変わってきたことで、1日3食とるようになり、小さなデジュネとして「プチ」を付けて朝食を意味する「Petit déjeuner(プチ・デジュネ)」という言葉が生まれました。
朝食に「カフェオレ」 ~20世紀~
誰もが朝食を食べるようになった20世紀初頭、流行の発信地だったパリの「目覚めにカフェオレを飲む」という習慣はフランス全土に広がりましたが、地域や環境にもより、まだ朝食にスープの人もいれば、カフェオレの人もいたり、家族の中でも様々。スープボウルにカフェオレを注いで朝食として飲む習慣が定着していったことで、スープボウルよりも小ぶりの口径13cmくらいのカフェオレボウルが多く製造されるようになっていきました。
今日ではカフェオレだけでなく、ミルクをたっぷり注いだシリアルを食べるためなどにも用いるので、フランスでは一般的に「Bol de Petit déjeuner (朝食用ボウル)」と呼ばれています。
フランスの食文化から誕生したカフェオレボウル。
陶器か磁器のものが多いですが、ガラス製、木製もあり、雰囲気もガラッと変わります。お気に入りのボウルで、一日の始まりに元気の源として、あるいは夜眠る前、一日の終わりにミルクたっぷりのカフェオレを飲めば、気持ちも落ち着いてリラックスした時間を過ごせます。
両手で持って、ゆっくりと飲みながら心も身体も温められる、そんなカフェオレボウルを生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。
- * “L'introduction du café en France au XVIIe siècle”(17世紀フランスにおけるコーヒーの普及)Hélène Desmet-Grégoire
- 西欧型食生活の形成 と転換(坂本 慶一)
- ブルボン王朝下のコーヒーとカフェ(岩切正介)
- Le bien-fondé du petit-déjeuner dans le rythme alimentaire occidental(西洋料理のリズムにおける朝食の関連性)Capucine Guérin
- BOIRE ET MANGER EN FRANCE, DE 1870 AU DEBUT DES ANNEES 1990(1870年から1990年代初頭にかけて、フランスでの飲食)Dominique Lejeune
1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。