コラム、「ミルクの国の食だより」の第98回をお送りします。今回はみんな大好き「カフェオレ」のおはなしです。
「カフェオレボウル」って?
皆さんはカフェオレボウルをご存じですか?
フランスの家庭の朝食で、大きな茶碗のような器に入ったカフェオレを見て驚いたことがある人も多いかもしれません。
日本では「カフェオレボウル」と呼ばれているこの器ですが、フランスでは単に「Bol(椀)」、または「Bol de Petit déjeuner(朝食用ボウル)」と呼ばれています。
このボウルでカフェオレだけでなく、コーヒーやお茶を入れて朝食に飲んだり、深さがあるのでシリアルを入れてもたっぷり牛乳を注げるので、シリアルボウルとしても使われたりしています。また、スープを食べるときにも使うので、19世紀までは一般的にスープボウルと呼ばれていました。
古代~中世の朝食
古代から長い間、ヨーロッパの人々はスープや粥(かゆ)のようなものを主食にしていました。
古代、ギリシア人は山羊のミルクを入れて蜂蜜で甘くした穀物粥を、ローマ人はオリーブ油とニンニクで煮た麦粥を、ガリア人はミルクで煮た豆や大麦の粥を食べていました。
中世、騎士たちは厚くスライスしたパンをワインに浸してスープにし、農民はミルクで穀物粥を作ったり、野菜や豆を煮込んだスープに硬い黒パンを浸して食べたりしていました。
20世紀初頭まで、多くの人が目覚めて最初にとる食事はお粥、またはパンと水分(スープ)で、ボウルに注いで食べられていました。スープボウルは、今のカフェオレボウルより二周り以上大きかったようです。
その日の最初にとる食事であり飲み物だったスープが、カフェオレに代わったのはいつ頃だったのでしょう。
近世~朝食がスープからカフェオレに…
コーヒー(カフェ)がフランスにもたらされたのは17世紀半ばのことです。
アラブ諸国が起源とされる高価なエキゾチックなこの飲み物は貴族やブルジョワのエリートたちを魅了し、社会の食の風景を変えたといわれます。
当時のヨーロッパ社会において、コーヒーはアルコール度数の低いビールやワインに代わる衛生的な飲料として受け入れられ、時には万能薬のようにも紹介され、コーヒーがもたらす覚醒作用も好意的に捉えられ、アルコール飲料と逆の性質のものと見なされたそうです。
当初、フランス人には「苦く」「濃い」と感じられたコーヒーでしたが、飲みやすくするために、水や砂糖が加えられるようになりました。しかし、コーヒーの苦味を抑えるためには砂糖でなく、ミルクを入れることをグルノーブル王付きのモナン(Monin)医師が推奨して(1685年)以来、ミルク入りのコーヒー、つまりカフェオレが、またたく間に流行するようになったといわれています。
18世紀のパリでは、このミルク入りのコーヒー「カフェオレ(café au lait)」に貴族やブルジョワといわれるエリートたちが熱狂したそうです。そして、彼らの間で目覚めたらすぐにそれらを消費する習慣「déjeuner à la tasseカップでの朝食」が広まっていきました。
※このテーマは次号に続きます。
- “L'introduction du café en France au XVIIe siècle”(17世紀フランスにおけるコーヒーの普及)Hélène Desmet-Grégoire
- “All about coffee” William H. Ukers
1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。