ウワサ26 牛乳中の飽和脂肪酸は生活習慣病の原因?-その1-
心臓血管病のリスクが高まる!?

牛乳の気になるウワサをスッキリ解決!

ウワサ26 牛乳中の飽和脂肪酸は生活習慣病の原因? -その1- 心臓血管病のリスクが高まる!?

心臓血管病を心配して牛乳・乳製品の摂取を控える必要はありません。

● ウワサの源、「飽和脂肪酸」とは?
私たちが食べている「あぶら」(油脂)は、主に「脂肪酸」という炭素と水素の原子が鎖状につながった分子からできています。脂肪酸は、炭素のつながり方の違いにより、「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」の2つに大きく分けられます。飽和脂肪酸は動物性脂肪に多く含まれ、不飽和脂肪酸は植物油や魚油に多く含まれています。どちらも人間にとってエネルギー源となる栄養素です。
飽和脂肪酸は血中のLDL コレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)を増やすことがわかっています。増えすぎたLDL コレステロールは動脈硬化を進行させ、心筋梗塞のような虚血性心疾患の原因になるといわれています。飽和脂肪酸は牛乳の乳脂肪にも比較的多く含まれているので、牛乳摂取は心臓血管病の原因になるのでは?というウワサが生まれたというわけです。

● 発症リスクに牛乳は関係せず、むしろ「予防になる」という結果が
結論から言うと、心臓血管病を心配して牛乳・乳製品の摂取を控える必要はありません。
牛乳・乳製品の摂取習慣と、生活習慣病発症リスクとの関係については、ここ数年の間に疫学研究*1 の中でも信頼性の高い「メタ解析*2」を通じて、かなり明らかになってきました。そこからわかってきたのは、牛乳を飲む習慣と生活習慣病発症のリスクの間には関連性がなく、むしろ予防になるということでした。
*1 疫学研究:地域社会や特定の人間集団を対象として、病気の発生状況などの頻度や分布を調査し、その要因を明らかにする医学研究のことです。
*2 メタ解析:複数の類似研究結果を統合的に解析する手法で、「システマティックレビュー」とも呼ばれます。メタ解析を行うことで、結果のバラツキの幅がぐっと縮まり、信頼性が飛躍的に高まります。

●疫学研究とメタ解析については、「ちょっと気になる基礎知識 疫学研究って?」にて詳しく掲載しています。
疫学とはどのような研究であり、メタ解析はどのように行われるのか、メタ解析図の見方などいついて分かりやすく解説しています。ニセ科学にだまされないために、基礎知識を学んで情報を読み解く力をつけよう!
● 欧米では、ガイドライン見直しの動きも
欧米人は東洋人に比べて心臓血管病の患者が多いことから、2010 年頃に設定された欧米の食事摂取ガイドラインでは、飽和脂肪酸の摂取を減らすべく、例えば牛乳の場合なら低脂肪乳を飲むよう勧めています。
欧米の食生活では牛乳・乳製品の占める割合が大きいので、欧米では牛乳・乳製品と心臓血管病との関係に対する関心も高く、さまざまな研究が行われてきました。
そして近年の研究結果から、低脂肪乳を推奨する食事摂取ガイドラインを見直すべきという動きも出てきているのです。次に、その研究結果の1つを紹介しましょう。

● 複数の研究結果から統合的に判断した信頼性の高い結論です

下の図は、『Asia Pacific Journal of Clinical Nutrition』という学術雑誌に載った論文から引用したものです。
左右の軸の「相対危険度」とは、牛乳・乳製品を摂る習慣のある人とない人の、虚血性心疾患の発症比率を表しています。この値が1より大きい(図の1より右側にある)と、牛乳・乳製品の摂取によって病気の発症率が高まることになります。1より小さい値ならば、病気の発症率が下がることになり、予防効果ありの判定となります。
縦に並ぶ文字と数字の列は、個別の疫学研究の結果です。結果は統計の値なのでバラツキがあり、研究の規模が大きい(登録者数が多い)ほど、バラツキは小さくなります。それを理論的に計算される信頼度(95%信頼区間)として横棒で示しています。横棒の中心にある丸は中心値、丸の大きさは研究規模を表します。

つまり、横棒が1より完全に右側にある研究結果は、牛乳・乳製品の摂取が心臓血管病のリスクとなることを表し、1より左側にある研究結果は、牛乳・乳製品の摂取はむしろ心臓血管病の予防になることを表しています。そして両側にかかっているものは、有害か有益かの判定が逆転する場合もあるので「有意差なし」となります。
次に、一番下にある大きい「ひし形」を見てください。これは全研究の統合結果を表しています。
ひし形の中心が相対的危険度値の位置、幅が信頼区間を示しています。
このひし形が1の近辺にあれば、リスク(関連性)はないと判断できるということです。この結果ではひし形の中心が1より少し左側にあります。すなわち、牛乳・乳製品を摂る習慣が心臓血管病の発症リスクにはつながらない可能性を示しています。
ここでは1例を挙げましたが、複数のメタ解析でも同様の結果が出ました。多数の研究結果から統合的に判断した信頼性の高い「メタ解析」の結果が、牛乳・乳製品の摂取と心臓血管病発症リスクとの間には関連性がないことを示しています。