ウワサ29 牛乳は乳がんの原因になる 2

牛乳の気になるウワサをスッキリ解決!

ウワサ29 牛乳は乳がんの原因になる 2

牛乳摂取が乳がんの原因になることはありません。

「牛乳が乳がんの原因になる」というウワサに対して、ウワサ14 では、主に生乳中のIGF-1 *1 が超高温瞬間殺菌(UHT)によってほぼなくなるということを解説しました。
ここではさらに、乳がん発症の原因の1 つとされているエストロゲン*2 について、そして100 万人以上を対象とした疫学研究の結果をふまえた結論についてお話します。

*1 IGF-1:インスリンと構造がよく似たペプチドホルモンで、骨の成長の促進、細胞増殖・分化促進、たんぱく質同化などさまざまな作用があります。
*2 エストロゲン:ステロイドホルモンの一種で、エストロン、エストラジオール、エストリオールの3種類の化合物の総称です。それぞれ活性が異なり、最も活性が強いのがエストラジオールです。


● 牛乳のエストロゲン量では、血中濃度に影響しません
乳がんのがん細胞はエストロゲンの影響を受けて分裂・増殖するため、エストロゲンと乳がん発症には関連性があるとされています。「女性ホルモン」とも呼ばれるエストロゲンですが、男性の血液中にも常に一定の量が存在しています。女性の場合、エストロゲンの一種であるエストラジオールの血中濃度の正常範囲は表1のようになっています。月経周期や妊娠・閉経などによって基準値の範囲は大きく変わることが分かります。
牛乳は妊娠中の牛からも搾られるので、市販の牛乳中にも、微量ですがエストロゲンは含まれています。
どれくらいの量が含まれているのかを見てみましょう。
エストロゲンにはさまざまな活性の化合物があるので、表2の3つ化合物の活性もそれぞれ異なるのですが、それらを無視して単純に平均値を合計すると0.113ng/g となります。仮に、エストロゲンの中でも最も活性の高いエストラジオールがこれだけ含まれているとすれば、牛乳1リットル中におよそ100ng となります(多く見積もり過ぎですが)。これはヒトの正常な血中濃度値に影響する量なのでしょうか?
まず、口から摂取したエストロゲンは、腸で吸収された後、血液とともに全身に運ばれる前に肝臓で分解され、血中濃度に反映される量はごく少ない量になります。ホルモン補充療法などで処方されるエストラジオール製剤は、閉経後の女性が毎日1mg、28日間飲み続けて、やっと標準的な血中濃度になることが臨床試験で分かっています。
もしも牛乳に含まれるエストロゲンでこの量(1日につき1mg)を補おうとしたら、なんと、毎日1万リットル以上を飲まなくてはなりません。それくらい、牛乳にはわずかな量しか含まれておらず、人間の体に作用するような量ではないということです。

● メタ解析の結果も「心配なし」!
次に、乳がん発症と牛乳摂取の関連性について調べた疫学研究のメタ解析*3 結果を見てみます。
 

乳がんと牛乳摂取の疫学研究とメタ解析

2011年に18件の疫学研究を統合解析した結果が報告されました。登録者の総数が100万人以上という大規模なものです。前頁の図はその論文から引用(一部改変)したものです。

個々の疫学研究を統合解析した結果は、最下段のひし形に表されます。相対危険度は0.90 で1より小さい値でした。ただ95%信頼区間は0.80〜1.02 と、1をほんの少しまたいでいるため、「牛乳の摂取は乳がんを予防する」とまでは言い切れません。しかし、仮に真の値が信頼区間内の最大値1.02 だったとしても、無関係(中立)をわずかに超える値です。リスクの大きさは非常に小さいこと、リスクよりもむしろ予防効果を持つ可能性のほうが高いことが、この結果から分かります。日常的に牛乳を摂取する食生活において心配することは何もない、というのが結論です。

*3 メタ解析:複数の類似した疫学研究結果を統合的に解析する手法で、「システマティックレビュー」とも呼ばれます。メタ解析を行うことで、結果のバラツキの幅がぐっと縮まり、信頼性が飛躍的に高まります。


●疫学研究とメタ解析については、「ちょっと気になる基礎知識 疫学研究って?」にて詳しく掲載しています。疫学とはどのような研究であり、メタ解析はどのように行われるのか、メタ解析図の見方などいついて分かりやすく解説しています。ニセ科学にだまされないために、基礎知識を学んで情報を読み解く力をつけよう!