ウワサ30 牛乳は太る

牛乳を摂取する習慣で太ることはありません。

「牛乳は脂肪分が多いから太る」──。こんなウワサがよく聞こえてきます。
脂肪分の多い食品は肥満との関連で語られることが多いのですが、はたして牛乳は脂肪分の多い食品なのか、牛乳の摂取習慣は体重の増加に影響するのかについて、科学的な視点でみていくことにしましょう。

そもそも・・・なぜ太る?

牛乳の話に入る前に、太るメカニズムをおさらいしておきます。
人間は、じっとしていても、ただ呼吸するだけでも体内のエネルギーを消費しています。多くの人は日常生活でさまざまな活動をしていますから、その分のエネルギーを食事から摂取します。摂取するエネルギーが消費する分より多い状態が続くと、人は脂肪の形で摂ったエネルギーを体内に蓄えます。つまり、太ります。きわめて高カロリーな食品を食べても、それが一時的なものなら、日常的な活動の中でエネルギーは消費され、太ることはありません。ですから、「○○を食べたら太る」という言い方は正しくありません。もちろん「○○を食べれば痩せる」も正しくありません。太るか痩せるかは、食習慣における摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスによるものです。

● 牛乳のエネルギーと脂質の量は?
牛乳200mL に含まれるエネルギーは138kcal、脂質は7.8g です。これがどのくらい量なのか、18〜29 歳女性(身体活動レベルⅡ:ふつう)を例に考えてみます。
まず、1日あたり必要な総エネルギーは1,950kcal、脂質の目標摂取量は54g と見積もられています(日本人の食事摂取基準2015年版)。1日に200mL(コップ1杯)の牛乳を摂取するとして、総エネルギーに占める割
合はわずか7.1%、脂質は14.4%です。エネルギーについては残り約93%を、脂質は約85%を他の食品から摂取することになります。さて、牛乳を毎日、コップ1杯飲む習慣が、肥満につながるでしょうか?

● 牛乳は長期間の体重増減に影響しない
牛乳・乳製品を摂取する習慣を長く続けた場合はどうなのか、アメリカの疫学研究*1 の結果を紹介します。
研究を開始した時点で慢性疾患や肥満でない男女12 万人以上の16〜24 年間に及ぶ追跡データを分析したものです。
研究によると、さまざまなたんぱく質性食品の摂取と体重増加の関連性を分析した結果、特定のタイプのたんぱく質性食品が長期的な体重増加に大きな影響を与えていることがわかりました。ある食品を毎日1食摂り、4年後の体重増減を調べたところ、その影響が食品によって大きく異なっていたのです。
その結果を表したものが下の図です。

たんぱく質を多く含む食品の摂取が4年間の体重増減に及ぼす影響

  • 米国の代表的な3大コホート研究である「看護師健康調査研究(NHS)」、「看護師健康調査研究Ⅱ(NHS Ⅱ)」、「医療従業者追跡調査研究(HPFS)」のデータから各々個別に、たんぱく質を多く含む食品について、1日当たり1サービングの摂取が
    体重増減に及ぼす影響を算出し、4年間の体重増減効果として図示したもの。横軸は体重増減。
    交絡因子として、年齢、開始時のBMI、睡眠時間、喫煙、身体運動量、テレビ視聴、飲酒、果物摂取量、野菜、グリセミック負荷等で調整されている。
    牛乳・乳製品全般にわたって、特に牛乳については全脂肪、低脂肪に関わらず長期的な体重の増減にほとんど関与しないことが見て取れる。
プラス側に出ているものは体重増への影響、マイナス側に出ているものは体重減への影響を表します。
ハンバーガー、ホットドッグなどは体重増加に、プレーンヨーグルト、魚介類などは体重減少に関わっています。
牛乳はどうでしょうか。普通牛乳、低脂肪牛乳にかかわらず、プラスとマイナスの両方に非常に短いグラフ棒が出ています。つまり、長期にわたる体重の増減に影響を与えないことが見て取れます。
人が健康を保つためには、多種多様な栄養素をバランス良く摂ることが必要です。そして牛乳は、エネルギーや脂質だけでなく、必須アミノ酸、カルシウム、リン、ビタミンA、B、D といった重要な栄養素をバランス良く含む優れた食品です。牛乳を摂取する習慣で太ることはありません。積極的に摂ることをおすすめします。
*1 Jessica D Smith et al. Am J Clin Nutr 2015 101 1216-24.

●疫学研究とメタ解析については、「ちょっと気になる基礎知識 疫学研究って?」にて詳しく掲載しています。疫学とはどのような研究であり、メタ解析はどのように行われるのか、メタ解析図の見方などいついて分かりやすく解説しています。ニセ科学にだまされないために、基礎知識を学んで情報を読み解く力をつけよう!

もっと知りたい! 食品が身体に与える影響は、栄養素の単純な足し算では計れない?

ハンバーガーやホットドッグに使われる肉には飽和脂肪酸が多く含まれています。飽和脂肪酸といえば、過剰摂取が肥満や心臓血管病などの生活習慣病を招く原因の1つとされているものです。牛乳に含まれる脂肪も、多くは飽和脂肪酸です。しかし、牛乳・乳製品は生活習慣病の発症に関与しないばかりか、むしろ予防的であるという結果が多くの疫学研究から報告されています。
肉の飽和脂肪酸も、牛乳の飽和脂肪酸も、1つの栄養素として見れば同じものです。ところが、栄養素の集合体である食品には、他の成分や、さまざまな要因が影響した複合的な効果があるとしか説明できないケースが知られてきているのです。
そこで最新の栄養学では、個々の食品が持つ複合的な栄養効果の違いなどを念頭に置いた「食品マトリクス」という概念が使われ始めています。これからは、カロリーや栄養素といった単一的な側面だけでなく、食品マトリクスの視点も含めることが、食品の栄養的評価の常識になっていくことでしょう。
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