生産者と消費者を繋ぐ古くて新しい流通システム - 3

ミルクの国の食だより 連載一覧

コラム、「ミルクの国の食だより」の第79回をお送りします。新型コロナウイルスの影響で注目される「短絡流通」。デジタル技術を活用した共創・参加型の流通販売システムに注目です。

フランスの短絡流通では、これまで野外市場(マルシェ)での売買が主流でしたが、農場での販売からeコマースまで、近年でさまざまな市場活動が発案されてきています。
特に、デジタル技術を活用した共創・参加型の流通販売システムが潮流となってきています。

例1: AMAP(Association pour le maintien d'une agriculture paysanne 農民農業支援維持団体)

AMAPは2001年、小規模な家族経営型の農業を支援するために、南フランスで発足したフランスで代表的な共創・参加型の流通販売システムです。生産者が農業生産のみで生計を維持できるよう、公正な価格で農産物を販売・購入するために、生産者と消費者を結びつけてパートナーシップを構築していくことが基盤になります。具体的には、農産物の生産前に最低収入を決めて消費者グループが前払いし、農家はこの支払いの一部を利用して契約数量の収穫をめざします。

消費者は天候等による不作の時でも生産者に一定の金額を払い、加えて、届く野菜の種類も自分で選ぶことはできません。1週間または2週間ごとに収穫できた全量を生産者が集荷所まで運び、消費者は収穫物(バスケット)を受け取りに行きます。生産者の人手が足りない時には、消費者メンバーが収穫や収穫物の配布、マーケティング(口コミ、ネットサイト、チラシ等)を手伝ったりもするそうです。

AMAPに参加したい人はまず、自宅近くのAMAPを見つけ加入しなければ、このシステムを利用できません。AMAPはボランティアで運営されている窓口のようなもので、ここを通して同じ地域に住む生産者と購入者が知り合うことができます。また、新しくAMAPを発足させることもできます。
この流通販売システムは1960年代に日本の消費者生協が始めた産直提携農業(仏語 Teikei)がその起源となっているそうです。

ただ安くて新鮮な地元の農産物を買うことが目的ではなく、農業従事者が置かれている現状を理解し共に暮らしを支え合うコミュニティとして注目を集めています。発足から10年後、フランス全土で1600のAMAPができ、2015年では約2000にも上り、広がりを見せています。

例2: La Ruche qui dit Oui ! (ラ・ルーシュ・キディウィ 「ハイ!と応える蜂の巣箱」の意味)

オンラインで事前登録はするものの、その運営主体が生産者であるAMAPとは別に、オンラインサービス仲介者を通した農家のバスケットも多く存在します。

La Ruche qui dit Oui ! は、消費者グループの作成を行い、注文の管理や引渡し場所の確保、ネットサイト更新などにかける時間や労働力を確保できない生産者に代わってそれらの管理を行う、ソーシャルネットワークとグループ購入サイトの中間のプラットフォームです。

消費者はインターネットでほしいものを注文し、指定された曜日に取りに行き、生産者から直接、地元の製品のバスケットを受け取ります。夕方に配達されるので、近郊で取れる新鮮な季節の野菜を買いたいけれど、朝のマルシェに行く時間のない人にとって便利な存在です。また、野菜や果物だけでなく、肉、乳製品、さらにはボディケア製品まであります。ただし、すべての製品は、同地域内の生産者からのものになります。生産者は自分の製品を消費者メンバーに直接販売し、売り上げの20%に相当するサービス料を支払います。企業が運営しているので、価格は高めですが、地元に新たな雇用をもたらしてもいます。2011年に設立され、2018年ではフランス国内に1200、さらにヨーロッパ各地でも「蜂の巣箱」が運営されています。

今日、インターネットを介した流通販売システムの取り組みは、生産者と消費者がお互いの顔の見える関係を大切にしつつ、短絡流通に新しい命を吹き込み、フランスの地域地域で盛んに実施されています。
  • 地域で広がる短絡流通の一例
  • 地図上で自宅近くのAMAPを見つけ事前登録・加入して利用する。AMAPはボランティアで運営されている窓口のようなもので、ここを通して同じ地域に住む生産者と購入者が知り合うことができる
    AMAP  http://www.reseau-amap.org/
  • 自宅近くに配達してくれる生産者を選んで欲しい品を注文する。注文最低数に満たなければ配達はキャンセルされる仕組み
    La Ruche qui dit Oui !  https://laruchequiditoui.fr/fr
  • La Ruche qui dit Oui! を利用してバスケットを購入。季節の野菜と果物が約4kg(2人家族1週間分)で10ユーロくらい
※このテーマは次号に続きます。
管理栄養士 吉野綾美

1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。