コラム「ミルクの国の食だより」の第90回をお送りします。新年度が始まり、学校給食が始まりました。今回はフランス・リヨンの学校給食を題材に、持続可能で健康的な食生活(肉なしメニューの導入)についてお届けします。
新型コロナのパンデミック宣言から1年
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが宣言されてから1年が経過しました。
コロナ禍は私たちの食生活に大きな影響を及ぼし、ここフランスでは2021年4月時点でもなお、感染拡大を防ぐためにレストランは閉鎖、友人や親戚との会食も控えるよう措置が継続されています。
また、我が家の子どもたちが通うリヨン市の幼稚園・小学校においても、これまで提供されていた給食の選択メニューが中止され、一時的に単一献立に統一されるようになりましたが、これも感染症対策強化による措置になります。
フランスの学校給食と日本の学校の違いは?
フランスの幼稚園・小学校では、クラスごとではなく、学食に移動して給食をとります。
ほとんどの場合、子どもの数に比べ学食の座席数が十分ではないため、各学年交互に各クラス時間差で利用されます。
それでも席が足りなければ学年が上の子どもたちが優先され、小さな子どもは親が働きに出ていなければ家庭で昼食をとることを余儀なくされます。
新しい衛生対策では、子どもが他のクラスと混ざり合うことなく、かつ、食事をする班ごとの距離を2メートル開けて、すべての子どもが時間内に食べ終えなければなりません。
単一献立であれば迅速なサービスが可能となり、学食での給食を希望するすべての子どもたちに食事を提供できる、との理由によります。
※フランスの学校給食について詳しくは、コラム第58~61回をご覧ください。
第58回 フランスの学校給食 その1(給食の時間)
第59回 フランスの学校給食 その2(学校給食全般の基準)
第60回 フランスの学校給食 その3(栄養管理のポイント)
第61回 フランスの学校給食 その4(給食は食堂で)
リヨン市の公立学校の給食は、通常であれば次の選択メニューが存在します。
標準メニュー
前菜
主菜(肉料理)と付け合わせ
チーズまたは他の乳製品
デザート
肉類除去メニュー
前菜
主菜(魚、卵、または豆腐、チーズ、豆など肉類以外のたんぱく質製品)と付け合わせ
チーズまたは他の乳製品
デザート
子どもは通年でどちらか一方を選ぶか、もしくは日によってどちらを食べるか決めることができる混合メニューの3種類の選択肢がありました。そしてこれ以外にベジタリアンメニューが週に2回、単一献立として提供されていました。
この中から最大数の好みに合わせるために、肉類除去メニューに一本化されるようになったのです。
多様化してきたフランスの食の価値観
牛肉、豚肉、鶏肉、鴨肉、羊肉や、ウサギ肉や鹿肉などの野生動物、そして内臓に至るまで、食文化として昔からさまざまな肉を味わい食してきたフランス人。
フランスの伝統的な料理で肉は主菜の大半を占めており、肉がなければそれは本物の食事ではないと考えている人も少なくありません。
そのため、肉の代わりに魚、卵、豆類、チーズなどで置き換えた食事は、栄養学的に根拠はなくてもたんぱく質不足に陥る可能性があると言う人がいたり、給食でしか肉を食べられない低所得者層の子どもの排除につながりかねないといった声が聞かれました。
健康への配慮を超えて、肉は食事の象徴的および文化的側面が強い食品であるため、肉料理が有名な美食の町として知られるリヨン市のこの決定は、学校給食で肉が必要かどうかについての全国的な政治論争にまで発展しました。
しかし実際には、リヨン市の学校給食では、これまで児童の約半数が嗜好(しこう)や習慣、宗教などの理由で肉がないメニューを選択していたように、食事において肉が最重要の皿とは言えなくなってきているようです。
フランスの各家庭において、食の価値観が多様化してきた今日では、もはや肉は富や栄養のシンボル的存在ではなくなりつつあるのかもしれません。
※このテーマは次号に続きます。
1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。