第37回 農から学ぶ食育 - わくわく収穫体験 -

連載コラム ミルクの国の食だより

コラム、「ミルクの国の食だより」の第37回をお送りします。
野菜の収穫体験には、子どもの好き嫌いをなくす秘密がありそうです。

思い出の「宝探し」

子供のころ、日課だったのが休みの日に早起きして、祖母といっしょに出かけた野菜の収穫。
自分の背よりも高く茂った枝葉をかき分け、野菜を見つけては「あった!」「ほら、こっちにも!」「こっちの方が大きいよ」と、まるで宝探しでもしているような気分でした。
朝露を浴び、みずみずしく光る野菜たち。毎日採っても、翌日にはまたたくさん実をつける、その生命力には子供ながらに驚かされたものです。
収穫体験は、体だけでなく心も動かすことができるすばらしい食育。
そんな体験を子供にもさせてあげられたらなぁと考えていたところ、 リヨンの近くにもそんな体験ができる農場がありました。
■ 農場の入り口にはその日に収穫できる青果、花の名前と各々の価格が記されてます
■ 入り口を抜けたところで乳牛のお出迎え(笑)。ヤギがいるミニ牧場

子供も大人もテンションアップ

リヨンから東に20kmのところにあるティル(Thil)の農場。
環境と調和し、保全しながら持続可能な方法で農作物の生産を行っている農場です。
35ヘクタールもの広大な畑ではその季節ごとに一番の旬を迎える様々な野菜、果実、花が栽培されています。
それを収穫するのは私たち。
農場を訪れた消費者が自分たちの手でほしいものを好きなだけ採り、その料金を払って持ち帰るシステムです。
野菜や果物が実っている姿は子供たちのワクワクを刺激するもの。
いいえ、むしろ大人の方がテンション上がります!
■ お目当ての野菜、果物はどこにあるのかを示しています
■ なにせ、この広大な畑の中で探し回るわけですから
■ 一輪車をかりて収穫に向かいます

ハーブや花も収穫できる

ハウスでは苺、トマト、ナス、ピーマンが、露地ではきゅうり、ズッキーニ、パセリやシブレット(西洋あさつき)などのハーブ類、バラ、グラジオラスなどの草花、ラズベリーも収穫できます。
この日、私たちが収穫したのはトマト、ズッキーニ、なす、ピーマン、たまねぎ、きゅうり、いちご、ラズベリー、杏、桃などなど。
あわせて25ユーロ程でした。
■ まずはたわわに実った杏畑へ。子供でも手が届く高さにあります
■ こちらも鈴なりの桃の木。桃は手のひらに入る小ぶりなサイズ
■ 甘い香りに誘われて着いたのは苺畑
■ 真夏でもたくさん収穫できるんですね
■ グラジオラスの花。後方に見えるハウスにはトマト、ピーマン、なすなどが

品質のよい野菜を適正な価格で

スーパーでは、コストダウンを追求してスペインなどの近隣諸国からきた、より安価な野菜や果物が並んでいます。
しかしそれらはどんなタイミングで収穫されたのかわからず、さらに長時間の輸送を経てくるため鮮度は落ちています。
地元の自然の中で育った野菜たちは、それぞれが旬の中で収穫され、しかも自分の手で採る野菜ほど新鮮さが確かなものはありません。
フランスでも、消費者の食の安全や環境への関心が高まり、値段の安さよりも、”国産”かどうか、”有機”かどうかなどを気にする人が増えています。
本当の味を適正な価格で求めようとする意識から、フランス各地にあるこのような自分の手で収穫できる農場が賑わいを見せています。
■ ラズベリーを摘む人たち

苦手なピーマンもパクパク!

広い畑を歩き回って、帰りはヘトヘト。手や体を動かして収穫したあとは、ごはんも美味しいですね。
収穫の体験後、これまでまったく食べなかったピーマンを自分から積極的に食べる息子。
経験を通して自発的に成長していく子どもの生命力を垣間見た一日でした。
■ 6月に次いで8月半ばにも二度目の旬を迎えるラズベリー
管理栄養士 吉野綾美
1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。