コラム、「ミルクの国の食だより」の第38回をお送りします。
栄養士を目指す学生の「文化祭」の様子をご紹介します。フランスの栄養士は、どんな役割を担っているのでしょうか。

栄養士を目指す学生たち

ある日のこと。近所に買い物に向かう途中、職業訓練等の各種講座を行っている建物の前を通りかかると、学生らしき人がチラシを配っていました。
手にとってみると、栄養士を目指す学生たちによる文化祭らしきイベントのようです。
これは興味があります。
フランスと日本、栄養指導や食の情報について、また栄養士という職業について、違いなどはあるのでしょうか。

栄養士は予防医療のプロ、管理栄養士は栄養学専門の医師

フランスで栄養士(diététiciens)の資格は、最短でバカロレア※取得後、2年間の高等技術者養成課程で学んだ後、試験を受けて取得できます。その後、さらに学士課程に進んで勉強を続けることも可能です。
活躍分野は病院、老人ホーム等の福祉施設、給食施設、食品会社や製薬会社での新製品の開発・研究などさまざま。
「食物摂取の専門家」である栄養士(diététiciens)は、主に予防医療のプロとしての活躍を期待されています。
一方、管理栄養士(nutritionnistes)は、「栄養学専門の医師」。栄養過多、栄養不足といった日常の食習慣の影響を大きく受ける疾患(アレルギーや内臓疾患、糖尿病、肥満症など)に関して医学の専門知識が必要不可欠であるため、バカロレア取得後8年間、博士課程まで学ばなければなりません。
他の医師と同様、必要であれば患者に投薬や医療検査も行います。
言いかえれば管理栄養士は「治療」を、栄養士は「手引き」をするのが仕事で、両者は似ているようでまったく異なる職業としてフランスでは扱われています。

学んだ成果で栄養指導

さて、今回のイベントを主催しているのは、栄養士を目指す学士課程で学ぶ学生たち。
人々の健康増進のため、具体的な栄養指導を展開できるよう、授業等で取り組んできた研究成果やアイデアを取り入れて、各スタンドを設け来場者に栄養指導を行っていました。
■ 会場の様子。8人の学生がそれぞれ栄養に関する情報を提供していました
■ こちら学生は「健康的で経済的な食事のヒント」を提供
■ コストをかけずに満足するための食べ方アドバイス
 ①お肉は高価なので頻度を減らす
 ②安価でビタミンやミネラルが豊富な乾燥野菜(豆類)を利用する]
 ③パンは乾燥しやすいので冷凍保存すれば長持ちする
 ④食品の選択肢を増やす。例えばバターはオリーブ油やクレームエペス※で代用できる
 ⑤炭酸飲料を購入しないで水道水を飲む。フィルターをつければペットボトルの水と品質は変らない
食肉はたくさん種類があり、日本よりもたくさん食べられていて安価なイメージがあるかもしれませんが、多数の食品がある中でお肉はやはり高価なものです。
また、料理にはバターより安価なクリームエペスを使えば、味も濃厚で経済的。
フランスでの日常的な食生活の実態を知らなければ、疑問に思うことも出てきますね。
■ こちらは食品表示の見方について
■ 市販のジュースには100%果汁、濃縮還元、ネクターがあり、それぞれの違いを説明しています
■ こちらは栄養表示について。ヨーグルトはプレーンヨーグルト、ドリンクヨーグルト、目新しかった無脂肪・高たんぱく質ヨーグルトの栄養表示について説明してくれました
ほかにはミネラルウォーターと飲料について、野菜を使ったジュースの試飲コーナー、現役の栄養士による栄養指導のスタンドがありました。
また時間によって、「外食でバランスよく食べるには」、「子供に野菜を食べさせる工夫」、「栄養ドリンクを作ってみよう」などの実践講座も併せて開かれていました。
■ 実践講座「子供に野菜を食べさせる工夫」では野菜入りのケーキを試食。
右がにんじん、左はナスが入ったケーキ。子供たちの大好きなチョコレートと混ぜたナス。ナスとチョコ、合います…!
国が変れば食生活が異なるのは当たり前。しかし、人々を健康へと導く栄養士の役割はフランスも日本も同じです。
学校教育に家庭科が科目として存在しないフランス。
食に興味がなければ、病気になるまで自分の食習慣と向き合わずに過ごす人も多いでしょう。
栄養士が発信しなければならないことはたくさんありそうです。
※バカロレア:中等普通教育の修了資格証明であると同時に大学入学資格証明でもある
※クリームエペス:乳酸発酵したクリーム。半固形で濃厚さと酸味が特徴
管理栄養士 吉野綾美
1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。