コラム、「ミルクの国の食だより」の第52回をお送りします。
前回に続き、2017年秋のフランスのバター不足についての話題です。さて、統計データから見えてくるバター不足の背景とは?
統計データでみるバター不足
世界で一番バターを食べている国、フランス。いつもは山のようにバターが並んでいるスーパーの棚が2017年秋に様変わり。品薄状態が続いた要因を探ってみると、興味深い背景が見えてきました。
2015年現在、フランスの一人当たりのバター消費量は8.0kg。2013年に7.7kgだったのが、2014年には8.3kgと大幅に増えました。
消費量が増えた理由のひとつが2014年に米タイム誌に掲載された記事。乳脂肪摂取に対する考え方が見直され、バターのイメージがアップしたことが契機となり、購買力が刺激されました。
消費量が増えた理由のひとつが2014年に米タイム誌に掲載された記事。乳脂肪摂取に対する考え方が見直され、バターのイメージがアップしたことが契機となり、購買力が刺激されました。
記事はフランスだけでなく、他国においても消費量が伸びるきっかけになり、本国アメリカでは2014年 - 2017年で10%も消費が増えました(USDA調べ)。
また欧米だけでなく、これまでバターをあまり消費していなかった国でも、食生活などの変化もあって近年、需要が急激に増えています。特に中国ではバターをたくさん使ったクロワッサンなどのペストリーの消費が伸びています。
2012年 - 2016年では、世界のバター消費量は7%上昇。これに伴い、国際価格は高騰。2017年7月には前年比の約2倍(1kgあたり6.15ユーロ*)に跳ね上がりました。
また、FAO及びOECDの試算では、世界のバター消費量は2026年までに19%増加すると予測されています。
このように、世界中でバターの需要が拡大した結果、国際価格は高騰。輸出が大幅に伸びたから、フランス国内のバター売り場が品薄になった、、、
—ということではありません。
■バターを使った様々な菓子が並ぶベーカリーチェーン店
フランスはバターの輸入国
食料自給率127%のフランス。自国で消費されるバターはすべて自分の国で賄われ、さらに他国にも輸出している、と思われていますが、実は乳製品の中で唯一、バターに関してフランスは輸入国なのです。
バターの一人当たりの消費量には、家庭でパンに塗ったり料理に使われる分だけでなく、ベーカリーやスーパーで売られているパン、タルト、菓子などの原材料として使われている分も含まれます。そういった業務用のバターは輸入にも頼っているのが現状。フランスのバターの生産量は欧州でドイツに次ぐ2位で多いように見えますが、消費量を考えると十分ではありません。
※下記「フランスのバター市場」のデータより、「消費量=生産量+輸入量-輸出量」としてJミルクで作成。
フランスのバター市場
フランスのバター市場
|
2013年 |
2014年 |
2015年 |
2016年 |
---|---|---|---|---|
生産量(t) |
395,731 |
432,774 |
436,508 |
425,909 |
輸入量(t) |
189,468 (5,600) |
209,926(5,076) |
203,695(7,011) |
208,968(7,167) |
輸出量(t) |
80,119 (40,920) |
101,536(44,894) |
109,564 (41,490) |
101,025(43,242) |
消費量(kg/人) |
7.7 |
8.3 |
8.0 |
8.0 |
( )内は1kg以内の家庭用バター
出典:l'economie laitiere en chiffres-2017,2016- (CNEIL) ※2016年消費量は計算値
出典:l'economie laitiere en chiffres-2017,2016- (CNEIL) ※2016年消費量は計算値
輸出に比べ輸入量が2倍もあり、99%がEU加盟国から輸入されています。家庭用バターについては輸出が伸びているのがわかります。
USDA:米国農務省 FAO:国際連合食糧農業機関 OECD:経済協力開発機構
*統計資料 http://lin.alic.go.jp/alic/statis/fore/PDF/1205-1225.pdf
*統計資料 http://lin.alic.go.jp/alic/statis/fore/PDF/1205-1225.pdf
■世界各国で人気のフランスのスイーツ。近年は中国をはじめとしたアジアで消費が伸びている
※このテーマは次号に続きます
管理栄養士 吉野綾美
1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。