第5回 食物アレルギー学

ミルク解体新書

第5回 食物アレルギー学

牛乳・乳製品をはじめ、食べ物はカラダをつくる大切な源。
とはいえ、食物アレルギーに関するさまざまな情報が飛び交っていることから、食べ物に過剰に反応している人もいるのでは?

食物アレルギーは幼いこどもたちのためにも、ぜひ知っておきたい知識です。
正しい情報を知り、解決策を身につけ、豊かな食生活を実現していきたいものですね。

アレルギー反応は防衛反応

私たちのカラダは、異物(食べ物や細菌やウィルスなどの病原体、毒物など)が侵入すると、その物質が、自分にとって、有益な物質か有害な物質かを判断します。有益な場合は利用し、有害な場合は、無毒化して利用、もしくは体外へ排泄します。この「判断し排泄する」過程が「免疫」の働きです。

哺乳動物の免疫は、異物を無毒化できない物質といったん判断すると、もう一度同じ物質が体内に侵入しようとしたときに、その物質が体内に入らないように阻止しようとします。これをアレルギー反応といいます。

アレルギー反応は、防衛反応で、鼻水、くしゃみ、せき、嘔吐、下痢、湿疹などの症状は、異物を避けるための防衛反応なのです。
アレルギー反応を起こす原因物質をアレルゲン(抗原)、異物を攻撃する物質を抗体といい、アレルゲン(抗原)には、ぴったり合うかたちの抗体が作られ、よく鍵と鍵穴の関係にたとえられます。

食物アレルギーは食べ物が原因で起こるアレルギー反応の一種

アレルギーの原因には、花粉やホコリ、ダニなど吸入によるものや接触によるものに加え、食べ物が原因で起こるものがあります。これを食物アレルギーといい、食べ物に含まれるたんぱく質がおもな原因といわれています。

通常食べ物は、消化されて小さな栄養素の分子となり、アレルギー反応を起こす力がなくなった状態で腸管から吸収されます。しかし、中には消化が不十分なままたんぱく質が吸収され、これを抗原とみなして抗体が作られることがあります。このような状態が続くうちに感作(アレルギーの準備状態になること)が成立し、再び抗原となる食べ物を食べたとき、アレルギー反応が起こるのです。

今まで食べても大丈夫だったものが原因で、アレルギーを起こすことが食物アレルギーの特徴といえるでしょう。過去に食べたことがないものは、アレルギーを起こすことがありません。

症状は人によってさまざまですが、もっとも多いのがアトピー性皮膚炎などの皮膚にあらわれるもの。続いて、ぜんそくなどの呼吸器症状、粘膜症状、下痢・嘔吐などの消化器症状、全身のショック症状で生命の危険をともなうものがあります。

食物アレルギーの原因となるもので、卵、牛乳、大豆が三大アレルゲンとして知られています。このほかにも、落花生、小麦、魚類、エビやカニなどの甲殻類、そばなどもアレルゲンになりやすいものですが、理論上はあらゆる食べ物がアレルゲンとなり得ます。

アレルギーの起こりやすさはコップの大きさであらわせる

アレルギーの起こりやすさ(体質)は、アレルギーの原因物質アレルゲン(抗原)に対して、どれくらい抵抗力があるかによって決まります。この抵抗力の大きさをコップにたとえると、アレルギーを起こしやすい人はコップが小さく、アレルギーを起こしにくい人はコップが大きいと考えるとわかりやすいでしょう。

たとえば、図1の(1)のように少量ずつ食べ続けることで、コップに少しずつたまっていき反応を起こす場合は、牛乳や卵、小麦、魚などが原因と考えられます。また、(2)のように短い期間に大量に食べて反応を起こす場合は、チョコレートやピーナッツなどの嗜好品が原因と考えられます。

乳幼児期に多い食物アレルギーは年齢とともに減少

厚生労働省の報告によると、食物アレルギーは0~2歳の乳幼児に発症することが多く、その後、年齢とともに減少していきます。(グラフ1参照)

これは、乳幼児は消化力が弱く、消化器官も未発達であるためです。しかしながら、こどもに多いアレルゲンの卵、牛乳、小麦については、成長するにつれ症状が改善し、小学校に入るころには問題なく食べられることも多いようです。ですから、一度食物アレルギーが出ても、深刻に悩みすぎないで、あせらず気負わず、こどもの様子を見守っていきたいものです。

一方、ピーナッツやソバ、エビやアワビなど貝・甲殻類のアレルギーは成人後も続く傾向にあります。
  • 食物アレルギー診療ガイドライン 2012 「年齢別即時的食物アレルギー患者数」より作図

食物アレルギーについての素人判断は避けて

食物アレルギーの治療では、アレルゲンとなる食品を避ける除去食が行われます。食物アレルギーが世間に知られるようになってからは、親が「できれば避けたい」と医師の診断を受けずに食事制限をしてしまう場合もあるようです。

しかし、食べ物は私たちのカラダを維持し、カラダをつくる源。特に成長期のこどもにとっては、牛乳や乳製品を上手に取り入れたバランスのよい栄養の摂取が不可欠です。
ですから、除去食を行う場合には、経験や思い込みによる素人判断は避け、専門医の診断を必ず受けたいものです。

また、特定の食品に対してアレルギーがあると診断された場合も、専門医の指導のもとで除去食をすすめるべきです。

ちなみに、食品衛生法では、平成14年4月より、今までわかりづらかった加工食品中のアレルゲンについての表示制度が行われています。

■必ず表示される7品目(特定原材料)
卵・乳・えび・かに・そば・落花生

■表示が勧められている18品目(特定原材料に準ずるもの)
あわび・いか・いくら・オレンジ・キウイフルーツ・牛肉・くるみ・さけ・さば・大豆・鶏肉・バナナ・豚肉・まつたけ・もも・やまいも・りんご・ゼラチン
※表示品目は、加工食品のアレルギー表示(厚生労働省 平成20年4月改訂版)より

牛乳アレルギーと勘違いされやすい乳糖不耐症

牛乳アレルギーとは食物アレルギーの一種で、牛乳に含まれるカゼインやラクトグロブリンなどがアレルゲンとなり、下痢、嘔吐、アトピー性皮膚炎、ときにはアナフィラキシーショックを引き起こす症状です。ふつう牛乳アレルギーは乳幼児期に発症することが多いといわれています。このことから、離乳食では、牛乳も他の食べ物と同様に、少しずつ摂るようにします。

これに対して、乳糖不耐症は、牛乳や乳製品に含まれる乳糖を消化するラクターゼが小腸で十分に作られないため、乳糖が小腸で分解されないまま大腸までいってしまい、乳糖が大腸で細菌によって分解されるときに、乳酸やガスが出て大腸を刺激し、おなかがゴロゴロしたり下痢をしてしまうという症状ですから、牛乳アレルギーとはまったく別物です。

乳糖不耐症の人は、ヨーグルトやチーズなどの乳製品なら大丈夫なこともあるようです。これは、製造の過程で乳酸菌などが乳糖をある程度分解しているからです。

乳糖不耐症の人向けに、あらかじめ乳糖を分解した牛乳が販売されているので、それを利用するのもひとつです。

また、料理に牛乳を少量加えたり、牛乳を毎日あたためた状態で少しずつ飲んで慣らしていくと、そのうち症状を起こさないようになることもあります。これは、毎日飲み続けるうちに、小腸でラクターゼが作られるようになるからです。

食物アレルギーを予防するために毎日の食事で実践したいこと

まずは、毎日バランスのよい食事を心がけ、同じものをたくさん食べすぎず、特定の食品をアレルゲン化させないことです。

動物性の脂質はアレルギーを悪化させることがあるので、摂りすぎに注意しましょう。糖分や酸化した油脂もよくないので、スナック菓子はなるべく避けたいものです。

一般的に、たんぱく質は加熱することでアレルゲン性が低くなる食品が多いので、アレルゲンになりやすい食品を食べるときは、生ものはなるべく避け、しっかり加熱するよう心がけましょう。

年齢を重ねるごとに食物アレルギーの耐性を獲得

厚生労働科学研究班「食物アレルギーの診療の手引き2011」によれば、乳児の食物アレルギー有病率は約10%、3歳児が約5%、保育所児が5.1%、学童以降が1.3-2.6%程度。

原因食物も年齢とともに変わります。0歳~3歳までは鶏卵・魚卵・乳製品に対して反応するケースが多いようですが、小学校に入る頃には食物アレルギーの原因食物の順位が入れ替わり、乳製品は上位ランクからはずれます。

こどものすこやかな成長を応援するミルクを見直して

小学校に入ると学校給食に牛乳が登場します。
これは、こどもたちの丈夫な骨や筋肉、カラダをつくる大切な栄養源として取り入れられているもの。乳児期には遠ざけていた牛乳も、耐性ができているかもしれません。まずは敬遠せずに専門医の診断を受けるなど、こどもの成長のために見直してみませんか。

知っトク!コーナー

仮性アレルギーってなぁに?

アレルギー反応には、ヒスタミンやロイコトリエンなどの化学物質が関係していますが、ホウレン草、ナス、トマト、タケノコ、里イモ、ヤマイモなどには、これとよく似た成分が含まれています。ですから、これらの食品を食べたとき、アレルギーと同じような反応が出ることがあり、これを仮性アレルギーと呼びます。
このような食品を食べるときは、一度にたくさん食べすぎないことが大切です。
j-milk magazine ほわいと2006夏「ミルク解体新書 第5回 食物アレルギー学」より

(HP掲載にあたり、参照する統計データなどを更新)