「酪農乳業ネットゼロへの道筋」の現在地と将来の方向性について
GDP専務理事ドナルド・ムーア氏のメッセージを発表しました

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「酪農乳業ネットゼロへの道筋」の現在地と将来の方向性について、GDP専務理事ドナルド・ムーア氏が語る


「酪農乳業ネットゼロへの道筋(Pathways to Dairy Net Zero)」は、昨年、国際的な酪農乳業組織であるグローバル・デーリー・プラットフォーム(GDP)が国連食糧農業機関(FAO)や国際酪農連盟(IDF)などと協力して発足した、酪農乳業における温室効果ガス(GHG)削減を目的とする地球温暖化防止に向けた気候変動対策に関する取り組み(イニシアチブ)である。

発足から約1年が経過し、昨年に引き続きGDPのドナルド・ムーア専務理事から日本の酪農乳業界に向けてビデオメッセージが寄せられ、「酪農乳業ネットゼロへの道筋」の現在地と将来の方向性について語られるとともに、向こう2か年の活動計画に関する説明がなされた。その中で、酪農乳業におけるGHG削減については酪農先進国と酪農新興国のそれぞれで対策は異なるが、世界で一丸となって取り組む必要があることが強調され、日本に対しては酪農先進国としての役割について期待が述べられた。このビデオメッセージは、6月14日に一般社団法人Jミルクの理事会で紹介された。

GDPは、現在35カ国から90を超える会員の企業や業界団体によって構成されており、酪農乳業・牛乳乳製品の意義や価値を科学的なエビデンスに基づいて全世界に発信し、国連機関、政府系機関、学術機関への働きかけを通じて、健康栄養、環境、社会経済などの側面から業界全体の持続的発展を目指している。

ムーア氏のビデオメッセージの概要は以下の通り。 

「酪農乳業におけるGHG削減の取り組みはすでに始まっている」

「デーリー・サステナビリティ・フレームワーク(DSF)」は、酪農乳業における持続可能性の取り組みを調査するための枠組みであり、社会、経済、環境の3つの側面から世界レベルで調査を行っている。2020年に作成された報告書では、11個ある評価項目のうち温室効果ガスの排出削減が最も優先順位の高い項目として示されており、その調査範囲は現在、世界で処理加工用として公式に取引される生乳量のほぼ50%に及んでいることから、世界レベルで取り組まれていることがわかる。

「活動計画には2つの方向性がある」

1つは研究や分析を進め、ツールや手法を構築することである。世界中で異なる酪農生産システムをタイプ別に分類し、それぞれの類型(タイポロジー:typology)に見合った効果的なGHG削減の解決策(道筋)を開発する。そして2015年を基準として各システムでFAOのGLEAMモデルを用いて2050年までの予測を行い、それぞれの類型ごとの道筋を示す仕様書のようなガイドラインを作成する。

もう1つは、これらの道筋を実行するプロセスである。世界の酪農乳業セクターにおけるGHG排出の約80%は酪農新興国からであり、これらの国々からの排出を減らすためにも、まずはすでに取り組みが進んでいる酪農先進国の事例を取りまとめ、リストアップし、活用するためにコミュニケーションを緊密にすることが重要である。

「類型ごとの緩和策の検証が進められている」

生乳単位あたりのGHG排出量は牛1頭当たりの乳量が年間約3トンを境界として、生産性が低い領域で高く、生産性が高い領域では低くなる。酪農新興国の多くは主に生産性が低い領域に存在するが、日本は生産性の高い酪農先進国である。

小規模で生産性の低い領域では牛の腸内メタンによるGHG排出の割合が高く、大規模で生産性が高くなるにつれて腸内メタンの割合は下がり、代わりに糞尿メタンの割合が増加する。したがって、それぞれの酪農生産システムで緩和策が異なっており、酪農新興国では飼料品質の向上や飼育環境の改善など、初歩的な管理手法の改善によりGHG排出量を大きく削減でき、酪農先進国では糞尿処理やメタン阻害剤など、開発中の科学技術の活用や将来的な基礎研究の発展が重要となる。

「酪農先進国での計画事例を紹介」

酪農先進国の事例として、アーラ・フーズ社とフリースランド・カンピーナ社の計画を紹介する。両社とも今後10年間の目標をパリ協定と同じ地球温暖化を1.5℃未満にすることを見据え、自社の設備や購入エネルギーからの排出であるスコープ1と2については63%削減することを目標とし、酪農場やその他サプライヤーからの購入品目からの排出であるスコープ3については約30%削減すること目標としている。

酪農場からの排出削減の手法としては、飼料効率の向上、家畜の健康福祉、土地利用の変更、グリーン電力、バイオガス、炭素隔離、泥炭土の利用、牛の品種改良、飼料添加物の使用などが挙げられている。

「酪農新興国での計画事例を紹介」

GDPは酪農乳業セクターからのGHG排出の約80%を占める酪農新興国からの排出を減らすため、FAOや国際的なメタン削減に向けた取り組みである「グローバル・メタン・プレッジ」と協力し、「酪農乳業ネットゼロへの道筋」の早期導入を検討している新興国として、アフリカ、中南米、アジアより9か国との連携を進めている。

しかし、新興国で取り組みを進めるには資金面の援助が必要となる。そこでGDPでは新興国が「緑の気候基金(GCF)」や「国際農業開発基金(IFAD)」など、国際的な基金団体から資金提供を受けるための提案をまとめている。

「今後のロードマップ」

昨年の第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)において、「酪農乳業ネットゼロへの道筋」について世界に向けて発信し、今、その活動計画を明確に示すことができた。今年のCOP27では、その計画の実行に向けて酪農乳業セクターとして何をしているのかを説明しなければならず、そして来年のCOP28では、その成果について話をしなければならない。

「酪農乳業ネットゼロへの道筋」公式ウェブサイトはこちら