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消化吸収の良い乳脂肪

脂質は少量で多くのエネルギーを生産する効率の良いエネルギー源で、燃焼されない分は体脂肪として体内に蓄積されます。また、脂質はビタミンA、D、E、Kなどをよく溶かすため、これらの脂溶性ビタミン類の吸収を助ける働きもしています。
牛乳の脂質は「乳脂肪」といい、脂肪球の形で1mL中に20億~60億個含まれています。乳脂肪の成分はトリアシルグリセロールが脂質全体の97~98%を占め、脂肪球の表面にはリン脂質やコレステロール、脂溶性ビタミンなどが存在します。乳脂肪はリン脂質とたんぱく質を構成成分とする膜に包まれ、脂肪球同士がくっつかないような状態で牛乳中に浮遊しています。
乳脂肪は、消化過程でリパーゼという脂肪分解酵素によって脂肪酸とグリセロールにまで分解され、吸収されます。牛乳の製造過程では均質化(ホモジナイズ、脂肪球を細かく砕いて分散させること)を行い、消化吸収を良くしています(消化率94%)。胃や腸に負担をかけず体に取り入れることができる乳脂肪は、幼児や児童、高齢者や病気治療中の人にとって大切な脂質摂取源となります。
乳脂肪に含まれる脂肪酸は、飽和脂肪酸から不飽和脂肪酸まで幅広く、中でも短鎖・中鎖脂肪酸を含んでいるのが大きな特徴です[表2-7]。特に短鎖脂肪酸は、牛乳乳製品以外の食品にはほとんど含まれておらず、牛乳乳製品に特異的な成分といえます。

表2-7 | 食品に含まれる脂肪酸

乳脂肪とコレステロール

乳脂肪分は牛乳200mLあたり7.8gで、そのエネルギーは70kcalと牛乳全体の約半分に相当します(普通牛乳、成分無調整牛乳の場合)。脂溶性ビタミンのA、D、E、Kが脂質に溶けているため、乳脂肪はこれらビタミンの重要な供給源となります。
表2-8に示すように、コレステロールは生命を維持していくために欠かせない成分であり、体内でも合成されています。その量は、体重50kgの人で1日あたり600~650mgになります。コレステロールが不足すると細胞膜や血管がもろくなり、脳出血や神経障害などを引き起こす原因をつくります。一方、血中コレステロールや中性脂肪が高くなると脂質異常症を招き、動脈硬化やさまざまな病気を引き起こします。
表2-8 | コレステロールの役割
1.細胞膜の材料となる
2.脳細胞の神経繊維を包むさやの成分となる
3.性ホルモンや副腎皮質ホルモンの材料となる
4.脂肪の消化に必要な胆汁酸の材料になる
5.カルシウムの吸収を良くするビタミンDの材料になる

食事からのコレステロール摂取量について、米国では2015年2月に米国農務省(USDA)が発表したレポートにおいて、それまで推奨していたコレステロール摂取制限をなくすことが記載されました。理由として、食事によるコレステロール摂取量と血中コレステロール量との間に明らかな関連性を示すエビデンスがないことがあげられています。実際、食事から摂取されるコレステロールは、体内で合成されるコレステロールの3分の1から7分の1にすぎず、たとえ摂取を減らしても体内でのコレステロールの合成が増えるような仕組みになっていることがわかっています。
日本でも、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では脂質異常症の重症化予防の観点から200mg/日未満に留めることが望ましいとしつつも目標量(上限値)などは設定されていません。
厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査報告」によると、日本人が1日に摂取しているコレステロールは335mgです。牛乳乳製品からの割合はその約6%と非常に少なく、しかも牛乳200mLに含まれるコレステロールはわずか25mgで、1食分の量で比較すると他の食品よりかなり低い値です。1回に食べる量ではチーズやヨーグルトなどの乳製品も含め、気にするほどではありません[図2-19]
図2-19 | 食品1食あたりのコレステロール含有量
食品1食あたりのコレステロール含有量
出典:文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」より計算
「牛乳摂取と血清コレステロール」についての実験結果では、日本人の成人の場合、牛乳を毎日400~600mL飲み続けても血中コレステロールの上昇はなかったと報告されています※4
一方、牛乳に含まれるホエイたんぱく質の分解物(ラクトスタチン)にはコレステロールの合成を阻害する作用があり、血中コレステロールを適量に保つために役立ちます。

※4 2000年12月の国際学術フォーラム「脂質・コレステロール:過去、現在、未来」[主催:社団法人全国牛乳普及協会(現 一般社団法人Jミルク)]において、内藤周幸氏(東京逓信病院参与、内科医)が発表

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たんぱく質と脂質が牛乳の白色をつくる
牛乳の成分は、水分が約87%、乳糖が約5%、たんぱく質と脂質がそれぞれ約3~4%ずつとなっています。このうち、たんぱく質と脂質が牛乳の色をつくり出しています。
牛乳1mL中には、水に溶けない乳たんぱく質であるカゼインがリン、カルシウムと一体になり、カゼインミセルというマクロ会合体の形で15兆個、また脂肪球が20億~60億個浮遊しています。このたくさんの微粒子ひとつひとつに光が反射し、反射光が散乱するため白く見えるのです。
なお、脱脂乳でも白く見えることから、カゼインミセルと脂肪球の2つのうち、主に白色をつくり出しているのはカゼインミセルだということがわかります。
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乳脂肪中の共役きょうやく リノール酸ががんに効く?
近年、乳脂肪中の「共役きょうやく リノール酸:CLA」が注目されています。共役きょうやく リノール酸は、牛など反芻はんすう動物の第1胃にいる微生物が飼料中のリノール酸やα-リノレン酸を利用する際に生成するもので、牛乳にも少量(全脂肪酸の5%以下)ですが含まれています。
動物実験では、共役きょうやく リノール酸のがんを強く抑制する効果や抗肥満効果、アレルギー反応の軽減効果が明らかになっており、今後ますます期待される成分と考えられます。