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免疫系の調節

免疫系は、体内に侵入してきた病原体やウイルスを、血液中の抗体や白血球が攻撃して分解し、自己防御するためのシステムです。
牛乳にはこの免疫系を活性化し、抵抗力をつけて病気になりにくい体をつくるとともに、免疫系の行きすぎを防ぎ、炎症作用やアレルギー症状を抑えて調節する働きが期待できます。
免疫系の機能は、病原菌やウイルスなどの異物を取り込んで分解するマクロファージとリンパ球の連携プレーで成り立っています。リンパ球には異物を認識し、感染した細胞を分解するT細胞と、T細胞が認識した抗原に対して抗体をつくり出すB細胞があります。
牛乳のたんぱく質成分のカゼインが消化されて生じるカゼインホスホペプチド(CPP)には、T細胞やB細胞を活性化して抗体の産生を促進する働きがあります。一方、カゼインの構成成分であるκ-カゼインや、その消化によって遊離するパラ-κ-カゼインとカゼイノグリコペプチド(CGP)は、リンパ球の増殖を抑えて抗体の産生を抑制します。このことは、アレルギー反応のような過敏な免疫反応を調節する効果もあることを示しています。また、κ-カゼインにはアレルギー反応を起こすヒスタミンの放出を抑制する働きもあります。

感染防御作用

人間の母乳には免疫グロブリン(Ig)やラクトフェリンが含まれ、細菌やウイルス、アレルギーの原因となる異種たんぱく質の侵入を防ぎ、新生児を感染から守る働きがあります。同じように牛の初乳にも免疫グロブリンが多く含まれています。これを生まれたばかりの子牛に飲ませることで免疫力を高め、ウイルス性の下痢症を防ぐことが知られています。また、ラクトフェリンとその分解物(ラクトフェリシン)には、サルモネラ菌や病原性大腸菌の増殖を抑える作用のあることが確認されています。
牛乳に期待できるのは、さまざまな生理機能物質です。細菌の細胞膜を分解して破壊するリゾチーム、細菌の増殖を防ぐ作用があるラクトペルオキシダーゼなどの酵素、病原菌の標的細胞に作用して感染をブロックするα-ラクトアルブミンなどです。乳脂肪の分解により生じる脂肪酸にも感染防御作用があるといわれています。

整腸作用

人間の腸管内には1,000種類、100兆個を超える細菌が生息しています。
腸管内では常に消化吸収を助けて腸内を浄化する善玉菌と、有害物質や病原菌を増殖させる悪玉菌とが拮抗し合っています[表4-3]
最近の研究では、いかにして善玉菌を増やし悪玉菌を抑えるかが、生活習慣病や発がんなどを防ぐ要因の1つであることが分かってきました。その善玉菌を優勢にするための食品として考えられるのが牛乳乳製品です。
牛乳に含まれる乳糖(ラクトース)は、腸内細菌の働きによって乳酸や酢酸に変換されると腸のぜん動運動を高めて便秘を防ぎ、便を柔らかくする働きがあります。さらに、悪玉菌が生産するアンモニアやアミンなどの腐敗物質や発がん物質の増殖を防ぎます。また、牛乳に含まれるたんぱく質のκ-カゼインの分解物質カゼイノグリコペプチド(CGP)には、ビフィズス菌を増殖促進させる作用もあります。
人間の腸内で善玉菌として多く存在し、有用な働きをするのがビフィズス菌です。ビフィズス菌が多いということは健康のバロメーターにもなるほどです。ビフィズス菌は老化やストレス、食生活の乱れなどで減少するため、いかにビフィズス菌を増やしていくかが健康維持には大切な要因になります。
図4-3 | 善玉菌と悪玉菌

高血圧の改善

日本人に多い高血圧症の90%は、原因が特定できない「本態性高血圧」と呼ばれるものです。本態性高血圧は、遺伝的因子を背景に環境的因子が加わって発症しますが、その環境因子で最も大きいのが食事です。
高血圧を招く食事因子といえば、食塩の成分であるナトリウムの過剰摂取がよく知られるところです。血圧が上がるメカニズムはまだ完全に明らかにされていませんが、ナトリウムが血液循環量を増やし、心拍出量を増加させるためという説があります。
ナトリウムの血圧上昇作用を妨げる働きがあるとして注目されているのがカルシウムです。1971~1975年に米国で行われた調査によると、カルシウムの摂取量が多いほど、高血圧の頻度が低いという結果が報告されています。調査では、カルシウム摂取量が1日あたり300mg以下では高血圧例が11~14%であったのに対し、1,200mg以上では3~6%でした[図4-4]
日本で行われた疫学調査でも、カルシウムの摂取量が少ないと、高血圧や脳卒中の発生が増加すると報告されています。
カルシウムが血圧を下げるメカニズムについては詳しく解明されていませんが、カルシウムがナトリウムの排泄を促進することが要因の一つといわれています。
血圧の調節においては、腎臓から分泌されるたんぱく質分解酵素レニンの作用で、アンジオテンシノーゲンからアンジオテンシンⅠ(ペプチド)がつくられます。アンジオテンシンⅠはアンジオテンシンⅠ変換酵素(ACE)の作用でより短いペプチドのアンジオテンシンⅡに変換され、副腎皮質からのアルドステロンの分泌を促します。アルドステロンにはナトリウムを体内に留める働きがあり、強い血圧上昇作用を示します。牛乳のカゼインが消化されてできるペプチドのいくつかの成分にはこの変換酵素の働きを阻害することが確認されており、結果的に血圧の上昇を防ぐと考えられます。
図4-4 | カルシウムの摂取量と高血圧発症頻度の関係
カルシウムの摂取量と高血圧発症頻度の関係
出典:McCarron DA, Morris CD, et al. :“ Blood pressure and nutrient intake in the United States.” Science, 1984

睡眠の改善

必須アミノ酸の一つであるL-トリプトファンは、1980年ごろから睡眠改善効果について調べられています。いくつかの研究で、L-トリプトファンを就寝前3g以上投与すると寝つきが良くなることが確からしいとされています。
ただし、L-トリプトファンを3g以上と多量に摂れる食材は存在しないため、就寝前におけるL-トリプトファンを含有する食材の一過性の摂取では睡眠改善効果はありません。しかし、習慣的なL-トリプトファンを含む食材の摂取による睡眠改善効果についてはさまざまな報告があります。
例えば、大学生249名の調査では、朝の時間帯(6~9時)に牛乳を飲む学生は朝型で、休日の起床時刻が早いという結果が報告されています。また、牛乳を週5回以上飲む学生は熟眠型と中間型のみでしたが、それ以下の頻度の学生では熟眠型が少なく不眠型の学生も見られました。イライラする頻度も、牛乳の摂取頻度の低い学生で多かったことがわかっています。さらに、2~5歳の幼児613名を対象にした調査では、毎日牛乳を摂取する習慣のある幼児は、摂取しない幼児より朝型でした。朝型の子のほうが夜型の子より睡眠の質が良いことが明らかになりました。
これらの研究は、トリプトファンを多く含む牛乳乳製品の時間帯を考慮した習慣的な摂取が、睡眠を質的に改善する可能性を示唆しています。夜の睡眠ではトリプトファンからセロトニンを経て合成される睡眠ホルモンのメラトニンが必要となりますが、それを朝に摂取することによって夜に十分に供給されるためではないかと考えられます。

生活習慣病とは

近年、高齢者が寝たきりや要介護状態になる要因として、「フレイル」(虚弱)や「ロコモティブシンドローム」(運動器症候群・通称ロコモ)という概念が定着しつつあります。
「フレイル」とは、「加齢に伴って筋力や心身の活力が低下した状態」のことで、健康な状態と日常生活でサポートが必要な介護状態の中間を意味します。「ロコモティブシンドローム」とは、「骨や関節、筋肉といった運動器の障害により、歩行や日常生活に支障をきたし、寝たきりや要介護になっていたり、要介護になる危険性が高い状態」を指します。
そうしたリスクを高める要因の一つとなるのが「低栄養」です。高齢者は、加齢による体の変化などにより、少食になったり、食事が偏ったりして、自分でも気がつかないうちに低栄養状態になっていることがあります。また、買い物や料理がおっくうになって食事を抜いたり、自分の好きなものばかり食べたりすることも低栄養の原因になっています。
高齢者における低栄養の特徴の一つとして、たんぱく質および総エネルギー量の摂取不足があげられます。特に、たんぱく質は筋肉や臓器を構成する主成分であり、酵素やホルモン、免疫細胞の原料になるなど高齢者にとっても重要性の高い栄養素です。たんぱく質は、魚や肉、大豆や大豆製品、牛乳乳製品に含まれています。これらを毎日の食事に取り入れることが非常に重要です。