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高齢期の体の特徴

高齢になると骨格筋重量が減少し、瞬発力や持久力、筋力も低下して転倒しやすくなります。骨密度も低下し、骨粗鬆そしょう症になると圧迫骨折や変形性膝関節症などが起こりやすくなります。
そうした筋肉や骨、関節などの運動器の障害によって活動が制限された状態を「ロコモティブシンドローム」(運動器症候群)といいます。また筋力や運動機能の衰えに加え、心身の活力も低下した虚弱状態を「フレイル」(虚弱)と呼んでいます。「ロコモティブシンドローム」や「フレイル」は要介護になるリスクが高い状態であることから、その予防が現代の超高齢社会における大きな課題となっています。
消化器系では、胃液や消化液の分泌減少により消化能力が低下すると食物からの栄養素利用効率が悪くなります。大腸などの運動機能も低下して便秘を起こしやすくなります。
内分泌系ではさまざまなホルモン分泌などの低下が起こり、味覚や冷温感覚が鈍くなります。また、口渇の感覚も鈍くなり、細胞内水分の減少などと相まって脱水症状を起こしやすくなります。
75歳以上の高齢者では身体機能がさらに低下し、咀嚼そしゃく嚥下えんげ機能や消化能力の低下、体力や気力の低下による食生活管理能力の減退などから、慢性的な低栄養に陥りやすくなります。低栄養はロコモティブシンドロームやフレイルの加速要因ともなるため注意が必要です。

高齢期における牛乳乳製品の役割

健康寿命を延ばすためには、良質なたんぱく質やカルシウムの摂取が必要ですが、牛乳乳製品はこれらの手軽で優れた供給源です。
牛乳を摂取することで高齢者の低栄養状態が改善されてQOLが向上し、寿命が延びるというデータも報告されています。東京都老人総合研究所(現・東京都健康長寿医療センター研究所)の疫学調査によると、当時、東京都で最も長寿命地域であった小金井市の70歳以上の男性195名、女性225名を対象として10年間追跡調査した結果、牛乳を毎日飲むグループはそうでないグループに比べて生存率が高い傾向にありました[図4-2]
図4-2 | 70歳時の牛乳飲用習慣別10年間の生存率
70歳時の牛乳飲用習慣別10年間の生存率
出典:「小金井市70歳老人の総合健康調査」『老化の社会医学的背景』東京都老人総合研究所(1982~1986年度)
高齢者ではエネルギー必要量は少なくなりますが、各栄養成分の推奨量、目安量は大きく変わりません。より少ないエネルギー量で効率良く必要な栄養素を摂取するには、栄養素密度の高い牛乳は最適な食品といえます。また、高齢者では骨粗鬆そしょう症が増えてくるため、カルシウムの補給源としても牛乳は有効です。

「Ⅱ ライフステージと牛乳の役割」の主な参考文献:
一般社団法人Jミルク・栄養士向け情報開発研究会『栄養指導のためのライフステージ別 食の課題とアドバイス~牛乳・乳製品を活用して~』女子栄養大学出版部(2014年)

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牛乳を摂取していると骨折しにくい?
牛乳摂取頻度と骨の健康状態(女性・60歳以上)
牛乳摂取頻度と骨の健康状態(女性・60歳以上)
出典: 杉浦英志ほか「骨粗鬆症、大腿骨頸部骨折、コーレス骨折における危険因子の検討」『日本整形外科学会雑誌』第66巻第9号、社団法人日本整形外科学会(1992年)

カルシウムの摂取不足は骨折の危険因子であるといわれ、若年者、高齢者を問わず、カルシウムの摂取量が少ないほど骨折率が高いというデータが出ています。
1992年に発表された牛乳摂取と骨折の関係についての調査結果では、骨折患者の約半数が牛乳を飲む習慣がなく、健康な人では半数が毎日飲んでいました。
また、米カリフォルニア大学の14年間にわたる追跡調査でも、50~79歳の男女957名のうちカルシウム摂取量が多い群ほど骨折率が低いという結果が出ています。
一方、小児の骨折に関するニュージーランドの調査では、牛乳嫌いの3~10歳の小児は、骨の発育が悪く、身長も低く、18%が肥満でした。この調査に参加した小児の24%が、過去に骨折の経験がありました。この数字は、同じ年齢集団の平均年間骨折率の3.5倍の高さに達しています。